HIGE
ゲイを生きる。
〜婦人公論井戸端会議より〜

「新宿二丁目ほがらかな人々。」の単行本化記念!
ご存知、婦人公論井戸端会議の
「ゲイ」の回の再録です!
『新宿二丁目のほがらかな人々』を
ご注文のみなさまへ
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おおたうにさんが
「ほがらか」の世界を!
婦人公論井戸端会議より再録!
ジョージ×南伸坊×糸井重里
「ゲイを生きる」座談会
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ジョージ:
1960年生まれ。
都内で会社を経営。
幼少時より自身の
セクシュアリティを認識し、
6年前には、家族をはじめ、
社員や取引先の人々に、
自身がゲイであることを
カミングアウトした

南伸坊:
1947年東京生まれ。
漫画雑誌
『ガロ』の編集長を経て、
イラストライター
(イラスト+ライター)
として活躍を続ける。
『装丁/南伸坊』
『李白の月』
『仙人の壺』『顔』
『解剖学個人授業』
(養老孟司氏と共著)
など、著書多数
糸井重里:
コピーライター。
1948年、
群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。

構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2001-2002年
 12月22日号、1月22日合併特大号から転載)
 

第1回 「当方J官」をご存じ?

第2回 自分の中の男と女

第3回 カミングアウトはするべき?

第4回
似たものカップルの幸せ
糸井 自分の中に男の部分と女の部分があるって
話があったけど、
ゲイの人は、
どういう形でそれが同居してるんだろ。
ジョージ いろいろな組み合わせがあって、
おとなしい女の部分と
ものすごく体育系の男の部分が
同居しているオカマもいれば、
おてんばな女と情けない男が
同居しているオカマもいたりします。
糸井 好きな人が現われた時は、
その時々で、自分の中のいろんな部分を
出したりするんですね。
ジョージ だから、まず一番最初に、
「僕の前にいるこの人はどんな人なんだろう」
と一所懸命に観察しないと、
そこから先に進めない。
僕たちの恋愛って変わっているのかな……。
だいたい男と女の恋愛って
どういうものなんですか?
糸井 恋愛、遠ざかってるからなあ。(笑)
ジョージ ゲイの世界では、誰かを好きになると、
「相手はこうかな」と思って、
自己改革の作業に入るんです。
それは男も女もあるんじゃない?
ジョージ 太めの人を好きだと、
自分もどんどん太っていくんですよ。
同化路線。
「最近似てきたね」と言われるのが、
えもいわれぬ幸せだったりして。
たしかに、一緒にいると何となく似ますよ、
男女の関係でも。
ジョージ でも男同士の場合、髪型、ヒゲの形、洋服と、
何から何まで……
ゲイくらい、似たものカップルが多い世界は
ないかもしれない。
糸井 男同士だから、また似やすいね。
伸坊は、ゲイのカップルも
いろいろ見てきたんでしょう。
う〜ん、
男女のカップルと変わんない感じだけどね。
ジョージ いろんなのがありますからね。
僕が夫であなたが妻という、
役割分担がしっかりしてるカップルもあるし、
友だち同士のようなカップルもあるし。
1日おきに役割が交代するとか。
ジョージ 1時間おきというのもある。
糸井 でも、男女でもそうだね。
要するに、その時々で、どっちが甘えるか。
ジョージ その点、僕は甘え上手だと思いますよ。
それで思うのは、
女の人はもっと上手に
甘えればいいのにということ。
女の人って、甘えちゃいけない時に甘えて、
甘えなきゃいけない時に
甘えないことが多いの。
たとえば仕事や公の場では
絶対に甘えちゃいけない。
そのかわり、仕事で頑張って
「ご苦労さん、飲みに行こうか」
という時には甘えればいい。
なのに
「仕事だけのおつき合いですから失礼します」
って帰るでしょ。
そうすると男は
「可愛くねぇな」
「今度、仕事から外そうぜ」
となるんです。
女の武器は上手に使わなきゃ。
僕なんか女の武器を使えるのに使えなくて、
苦労してるんだから。
糸井 使えるのに使えない。
童貞の性豪みたいだ(笑)。
でもさ、女の人を好きな男に
ホレちゃうこともあるんでしょ?
ジョージ そういうジャンルもあります。
「ノンケ専」と言って。
僕はそうじゃないけど、
それと似た思いは僕の中にもあってね。
純粋に男でしかない男の持ってるよさって、
あるから。
糸井 それ、具体的には?
ジョージ サラリーマン。
糸井 マタギとかじゃないんですね。
ハハハ、クマ系だから?(笑)
ジョージ 「すごくいいぞぉ」と思ったことが
一回だけあってね。
お葬式でお寺に行った時、
ある男の人が、丈が短くて
膝もつんつるてんになってる礼服を着てたの。
多分、ずっと昔に作ったのが
体に合わなくなったのを、
そのまま着てるんですね。
そのうえ、靴を脱ぐと
靴下のかかとに穴があいてて、
それに気がつかずにお焼香してるんです。
その姿を見た時、
「ああ、この人はノンケなんだ。
 しかも嫁さんに
 気ぃつかってもらってなくて、
 靴下に穴があいていることも知らず、
 365日一所懸命に働いてるんだなあ。
 ああ、愛しいィ……」
と。
つんつるてんの服や、
破れた靴下を気づかずにはいたりする
無頓着さなんて、
僕らの中には絶対にないんですよ。
糸井 今ね、初めてジョージさんの感覚を
ちゃんと追えなくなった。(笑)
いや、単純に
女の人だと考えればいいんじゃない。
ジョージ 夏、満員電車で通勤途中のサラリーマンが
汗でワイシャツの襟を
ものすごく濡らしてるのを見ても、
「ああ、この人は無防備だな」
と思って羨ましくなる。
ワイシャツの襟が汗で汚れないよう、
ハンカチかなんか襟の内側に入れて、
ババァみたいにしてるのが僕たちだから。
じゃ、そういうふうにしてる男を見たら、
あやしい。
ジョージ そのハンカチに、クマさんの刺繍があったら、
もう完璧にそう。(笑)
糸井 普段、街を歩いていて、
あ、この人はゲイだってわかるものなの?
ジョージ そこだけパーン、パーンって
スポットライトが当たってるように
見えるんです。
つまりね、
「うまく隠しおおせた」と思う一方で、
「あなたゲイでしょう」と
指摘されたい気持ちもあるんですよ。
だって、誰が見ても
そうだと思われない存在も、
いやじゃないですか。
だから、どこかにヒントを出す。
同じヒゲを生やしてるのでも、
このヒゲはそうだとか違うとか、
いろいろあってね。
たとえば、極めて過剰に
人工的であるかどうか。
糸井 なるほど、ジョージさんのヒゲも人工的だね。
植木屋入ったみたいに
キレイに刈り込んでる。(笑)
ジョージ 普通の男がヒゲを生やすのは
男らしさの表現だけど、
僕にとっては化粧をしてるのと同じなんです。
糸井 なるほどね。
ジョージさんは自分たちのことを
ゲイとかオカマと言ってるけど、
こう呼ばれたいというのはある?
ジョージ 絶対にオカマと呼ばれたくないという人も
いますよ。
僕がオカマと言う時は、
自分を茶化したいというか、
なんか大それたことを言っちゃったけど、
ちょっと恥ずかしい時なんかですね、
「だって、オカマだもン」て。
糸井 ピーコさんとめしを食いに行ったら、
「これ、ソースいらないから、
 ちょっと変えてきて」
とか、店の人にいろいろ注文つけるの。
そして、
「ゴメンなさいね、
 あたし、オカマだから」(笑)。
もう利用しまくって、ありゃ無敵ですよ。
ジョージ 女の人に「オバサンだから」っていう
免罪符があるようにね。
糸井 いわゆる、おネェ言葉は?
ジョージ 嫌う人もいます。
でも人間、考えてる通りに口から出るのが
一番いいじゃないですか。
そうすると、僕の中の
女の部分が考えてる時には、
女の言葉でしゃべるほうがいい。
糸井 バイリンガルなんだ。
ゲイの人たちって、
いろんなことを先取りしてるんだよな。
伸坊は女言葉使わないでしょ。
そうですねえ。
糸井 俺、ものすごい使う。
ジョージ 女言葉のよさって、上下関係のないところ。
「ですね」って言うところ、
「だわ」って言うと上下関係がない。
時々「……だわ」って言って、
あ、違ったと思って
「……ぜ」ってつけたりして。
「だわぜ」って――それ、いいね。(笑)
糸井 ゲイということで、困ることは?
ジョージ 一所懸命に生きてるオカマに向かって、
「結婚もできない男は一人前じゃない」
って言いやがる人間がいっぱいいるんですよ。
それは女の人の場合でもありますよね。
OLやってて、ものすごく仕事が楽しくて、
たまたま縁がなくて
結婚より仕事を選んだ人に対して、
「なんだ、お前は結婚もできないのか」
と言ったりね。
そういうのは多分、
一人ひとりのことを
正しくほめることができない人の
愚痴なんだろうけど、
「じゃあ、あんたの結婚は幸せなのか」
「嫁さんにお箸でパンツつまんで
 洗われてない?」
って思うわけ。
糸井 でも、僕らが簡単に言ってるほど、
世間は壊れやすくはないですね。
ゲイのカップルの場合、結婚はできないし。
ジョージ 僕は今つき合ってる人と
勝手に結婚証明書を作って、
二人で盛り上がりましたけどね。
だけど社会が認めてくれるわけでもない。
法律的に認められた夫婦なら
仕事の場にも伴えますが、
ゲイの夫婦はあくまで
「私」であって「公」には絶対になれない。
旅行に行っても旅館やホテルに
二人で泊まりにくいし。
ま、堂々としてればいいんだろうけど。
そういうの山ほどあるんだろうね。
ジョージ ゲイカップルが家を買うのは絶望的です。
銀行で「お二人の関係は?」と聞かれると、
「友人です」と答えるしかない。
「お二人で連帯保証をしながら買うんですか。
 ちょっと前例がない」
「権利区分はどうするんですか」
とかね。
糸井 結婚は、籍入れたら離れちゃいけない
っていう約束になってるじゃないですか。
それがゲイカップルの場合にはないから、
逆に緊張感がありそう。
ジョージ ありますね。
会うたびに
「好き」だと言わないといけないし。
糸井 アメリカ人みたい。(笑)
ジョージ 不安なのは老後のことですね。
僕らを襲うのは容赦のない老後ですから。
でも、老後の不安てさ、
不安って言うから不安になるんですよ。
明日死ぬかもしれないわけだし、
悪いほうに考えりゃ、
いくらでも悪く考えられる。
糸井 新築したらしたで、
台風が心配になるみたいにね。

(終わり)

2003-04-29-TUE

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