HIGE
ゲイを生きる。
〜婦人公論井戸端会議より〜

第3回
カミングアウトはするべき?
糸井 ジョージさんは
会社で取引先の人たちを集めて、
「実は僕はゲイです」と発表したんでしょ。
すごいと思うなあ。
ジョージ 講演会という名目で
60人くらいに集まってもらってね。
言いたいことを言って、
その模様をビデオにまで撮りました。
「周囲でいろいろ言う人もいるでしょうが、
 私がいちいち説明するのは疲れるので、
 あなたたちが説明してください。
 必要ならビデオもお貸しします。
 あとはみなさんよろしくね」
って。
そのやり方は能率的でいいですね。
糸井 みなさんは、わかってくれましたか。
ジョージ 温泉に行って、
一緒にお風呂に入ってくれなくなった人は
何人かいます(笑)。
そういう人に限って、
まるっきし僕のタイプの範疇じゃない人たちで。
糸井 相手も困るんです。
礼儀として、
どっちで接するべきかっていうのは。
ジョージ だから講演の時も言いました。
「かといって、
 明日から私は女風呂には入りません。
 男は男なんだし、男風呂です。
 僕とつき合うというのは、
 そういうことです」
と。
男としてふるまっている時は、
男として扱ってもらいたいんですよ。
歌舞伎町に接待で行った時は、
おねえちゃんの胸の中に手も突っ込むし。
それは僕の男の部分がやってるんだから、
変な顔をしないでねと。
糸井 えっ、それ楽しいの?
ジョージ ぜんぜん楽しくない。
糸井 なんだ。(笑)
ジョージ 女の子のマニキュアの底が剥げてるとか、
「あの挨拶の仕方はおかしい」
「あぁ、あそこ、
 グラスが空になりかけてるのに」
って思いながら、表向きは
「そーれーっ」て
賑やかに盛り上がってるわけ。
それだけ気ぃつかってるのに、
うちに帰ると香水臭かったり、
ワイシャツが口紅で汚れていたりすると
ガチョ〜ンって感じで、
まずお風呂に入って
体を清めないと寝られなかったりする。
糸井 無理に胸に
手を突っ込んだりするからだよ。(笑)
ジョージ でもね、本当は自分がゲイであることは、
言っても言わなくても
いいことだと思うんですよ。
糸井 カミングアウト主義じゃないのね。
ジョージ それぞれが思いやりをもって
相手に接すればいいことであってね。
ただ、「言ってしまおうかな」と思う
ストレスにさらされることは、
いっぱいあるわけで。
糸井 うん。
ジョージ カミングアウトした後の周囲の反応って、
面白いですよぉ。
それまで僕は普通の男、
でもちょっとたおやかな面があって、
一風変わってると思われてたのが、
彼らにとってみれば、
ぜんぜん違った生物になるわけです。
人というのは、
こんなにも異質なものを
見る目をするものかと思うこともあった。
逆に、まったくそうでない人もいたし。
偏見であるとか、
今まで自分の中に抱いていたイメージに
こだわるかこだわらないかによるんだと
思いますけど。
こだわるというよりも、
自分がもっている価値観を崩されるのが
怖いんじゃないかな。
本当は、価値観が壊れる時が
一番面白いんだよね。
だけど、こんなに毎日テレビに
ゲイの人たちが出てるのに、
みんな何も学んでない。
自分のこととして
「こういうこともあるんだ」
と思って向き合ってないんだ。
もうちょっと考えりゃ
世の中もっと
スムーズにいくんだけどねえ。
糸井 そもそも人間なんて、
常に小さな文化摩擦をやってるわけでね。
伸坊と僕が明らかに違うのは、
伸坊はやたらに部屋を明るくするのが
好きな人なの。
僕は暗いほうがいい。
部屋の明るさに関してだけは、
絶対に共存できないね。
あ、それ、俺も最近は成長したよ。
糸井 暗くてもいいの?(笑)
それと同じように、
「この人は男が好き」
「この人は肌が黒い」
「この人はイスラムなんですよ」
とか、大人になるにつれて、
自分と違う人の多さに気づくけど、
違う人のほうが少ないって思い込んでると、
つらいよね。
よく、「信じられない!」って言うでしょ。
びっくりするのは世界観が壊れるからで、
大人になってもいちいちびっくりしてる人は、
幼児性と言っては失礼だけど、
ちっちゃい子と同じです。
ジョージ 僕らはもう、
ほとんどのことにびっくりしないから。
糸井 びっくりしたいと思ってる?
ジョージ 思ってる。
だから、びっくりのタネを
いろいろなところに探すの。
それこそ箸が転がっても
大騒ぎする女の子のように、
クマのぬいぐるみを見ただけで、
「わあ、カワイ〜イ!」と驚ける。
糸井 その境地にまで達したんだ。
ジョージ 僕のまわりのゲイはみんなそうですよ。
そのかわり、18歳のジャニーズ系の男の子が
85歳のじいちゃんの手を引いて、
「今、この人とつき合ってます」
と言っても驚かない。
「そう、看取ってあげてね」
って。(笑)

ゲイの人には、
何トカ系とか何トカ専とかって、
「もっぱらこのタイプを好む」
ってジャンルがあるでしょ、
なんだっけ、
ものすごい 「年寄りが好き」。

ジョージ 「看取り専」。
「桶専」とも言います。
糸井 棺桶の「桶」。(笑)
細かいらしいね、ジャンルが・・・・・・。
ジョージ さっきから観察してるんですけど、
糸井さんもジャンルの中にあるなと思って。
ゲイテイストはたっぷりだし。
糸井 やっぱりあります?
ジョージ プラダの小さめのショルダーバッグを
斜め掛けにしてるのは、
香港のオカマのテイストです。
糸井 まあ恥ずかしい(笑)。
伸坊は?
ジョージ うーん。
「うーん」って言われちゃった。(笑)
ジョージ いや、南さんのジャンルもあります。
多分、脱げばモテる。
デブ専?
ジョージ いや、ふんどし系(笑)。
で、あぐらなんかをかいて。
糸井 うちわとかガーッと扇いで。
ジョージ 焼酎飲んで。
八代亜紀的世界が好きっていう
オカマもいるので。
糸井 肴はあぶったイカでいい〜(笑)。
ジョージさんが好きなのはクマ系でしょ。
ヒゲ生やしてて太めで。
そういうふうに
小さなジャンルがたくさんあって、
こっちではダメでも、
あっちでOKだったりする。
汚いの専門というのもあって。
ジョージ 「ヨゴレ専」ね。
糸井 「あなた、汚いからダメよ」
と9割8分が言っても、
「ウェルカム」と言ってくれるところがある。
ジョージ あれは人工的に
ほどよく汚れてるからいいわけで、
本当に汚れてるとダメなんですよ(笑)。
男と女の世界なら、
たとえば権力も財力もある身長175センチ、
とりたてて醜くもない45歳のおじさんは、
自分の好きなタイプの女の子を
なんとかできる可能性は高いじゃないですか。
受け入れてもらえる最大公約数が大きい。
だけどゲイの世界では、
一般の人100人のうち95人までに
「素敵な人」と言われても、
彼は自分の好きなタイプに
モテないかもしれない。
すごく厳しい世界ですよ。
自分の商品価値を客観的に把握してないと、
生き残れない。
好みが細分化されてるから。
ジョージ うちの両親は息子が
ゲイだともうわかってるし、
今までの僕の交友関係も知っているので、
彼らなりに
「うちの子はどんなタイプが好きなんだろう」
ってシミュレーションしたらしいんです。
糸井 理解はしてくれてるんだ。
ジョージ 告白した時、
「そうじゃないかと思ってた。
 短髪でこざっぱりした格好してるし、
 ガールフレンド連れて来ないし
 変だなと……」
って言ってました。
ガールフレンドを連れてこないのは
わかるけど、
短髪とこざっぱりで
わかっちゃうご両親もすごいね。
ジョージ 母親に聞くと、
「おかしいと思った時から、
 お父さんに『さぶ』や『薔薇族』を
 買ってきてもらって、勉強したのよ」
って。
糸井 はあ、素晴らしいね、それ。
ジョージ だから一応理解はあるんですが、
必ず言うのが、
「世の中には唐沢寿明くんとか、
 滝沢秀明くん、渡部篤郎くんみたいな
 可愛い子がいっぱいいるのに、
 なんであんたはデブが好きなの?」(笑)
糸井 謎は残るわけだ。
ジョージ 女より男が好きという説明はできても、
そこから先は説明できないんですよ。
世間一般の人が
「ブサイク」と言う人のほうが
好きだってことは……。
デブ専でも、どんなに太っていても
二重あごじゃないとダメ、という人もいたり、
こだわりがあるんですね。
男が男を好きというのは、
自分と同じものを好きになるわけで、
そうすると“神は細部に宿る”じゃないけど、
どこか一部分へのこだわりを
ふくらませていかないと、
盛り上がれないのかなと思いますね。
糸井 ある種のフェティシズムが入る。
生物学的に言うと、
形の整っている
シンメトリーなものほど健康で、
それが選択の基準になるんだって。
で、美人の顔って、
つまり平均の顔なんですよ。
10人いたら10人の顔を平均すると
美人になっていく。
そういうものを
男が好きだってことなんだけど、
ゲイの人たちはそういうところから
跳躍しちゃってるわけでしょ。
だって、生物学的には
もう展開はないわけだからさ。
ジョージ うん。
そうすると、当然フェティッシュなものに
移っていくと思うね。
(つづきます)

2003-04-25-FRI

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