2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。 2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
第5回 どんな想像より、美しかった。
糸井
「宇宙にはお金を持っていかなくていい」
というのは、あたりまえですけど、
行った人にしか気付かないことですよね。
油井
宇宙開発自体には、
もちろん、大きなお金がかかっています。

そのことには、本当に感謝していますが、
宇宙に行ってしまえば、
お金を使うようなところってないんです。
糸井
はい、そうですよね(笑)。
コンビニとかないし。
油井
仲間に作業を手伝ってもらったときなどは、
お礼の気持ちで、
日本の宇宙食をあげるよですとか、
ちょっとした、
物々交換の世界のようになっていたりして。

夕ごはんはロシアのごはんを食べたいから、
日本のごはんと交換しない? とか(笑)。
糸井
142日間、お金ない生活を味わった経験で、
何かの論文が書けそうですね。
油井
ああ、書けるかもしれません(笑)。
糸井
社会学なのか、人間学なのか。

自分自身の気持ちが
どんなふうに心が変化していったか、とか。
油井
たしかに、はじめは、不安だったんですよ。
「お金を持ってないこと」が。
いつも、ポケットに財布を入れていたので。

でも、数日でその不安感がなくなると、
これほどストレスのないところもないなと。
糸井
なるほど、お金というのは、
あってもなくてもストレスになるんですね。
油井
人間って、本当に「慣れる」と思います。

お金だけじゃなく、お風呂は当然のこと、
何ヶ月もシャワーさえ浴びれませんが、
身体は拭けば事足りますし、
別にいいやと、割り切りはじめますから。
糸井
そういうことって、
「わたしは絶対に気持ち悪いからイヤ!」
という人も‥‥。
油井
はい、慣れると思いますよ。
だって「ない」んですから。
糸井
そうか‥‥「ない」。わかりやすい(笑)。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
油井
はい。わたしは、炭酸飲料が大好きでして、
シュワシュワした感覚がないと、
地上では、もう1日でも過ごせなくて‥‥。
糸井
へえ(笑)。
油井
いまでも毎日1リットル以上、
飲んでいるんですけど。
糸井
油井さん‥‥飲み過ぎです(笑)。
油井
はい(笑)、でも宇宙では飲めないんです。
二酸化炭素を取り除くのが大変なので、
宇宙ステーションには、置いてないんです。

ですので、同じくらい炭酸好きなクルーと、
飛ぶ前に「俺たち大丈夫かな」って
言い合ってたんですが、
一週間もしたら、すっかり慣れてしまって、
まったく問題なくなりました。
糸井
「ないものはない」のは、仕方ないと。
油井
そうなんです。
糸井
どこか、禅寺に入ったみたいな(笑)。
油井
ははは、そうですね(笑)。
糸井
そして気づけば、やっぱり、
今日ずーっと「人間の話」をしてますね。
油井
本当に、そうですね。

宇宙に行って、
地上とはまったく違った環境で生活すると、
人間の可能性、人間の本質‥‥とか、
人間についての発見が、たくさんあります。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
糸井
なるほど。だから、こういう話になるんだ。

ひとつ、国際宇宙ステーションって、
宇宙は宇宙ですけど、
案外、地球の表面から近いところの宇宙を、
飛んでるんですよね。
油井
はい、地上から「400㎞」を回ってます。

この距離というのは、宇宙から見たら、
地球の表面みたいなものなんです。
糸井
東京・大阪間の直線距離くらいですよね。
油井
ですので、月や火星など、
さらに遠くの宇宙へ行ったときには、
自分たち人間について、
さらに新しい発見があると思います。
糸井
そうか‥‥ということは、
油井さんは「丸い地球」は見てないんだ。
油井
はい、見ていません。

国際宇宙ステーションの高さからは
地球全体は視野に入らないので、
地球のまんまるい姿は見ていません。
糸井
その場合は、地球の曲面を見ている。
油井
そうです。地球の一部分です。

ですから、いつかは、
まんまるな地球を見てみたいんです。
糸井
やっぱり、そういう思いが。
油井
ええ、アポロに乗っていた宇宙飛行士は、
親指をかざしたら、
その中に地球が隠れてしまうところまで、
行ってきたわけですよね。
糸井
ええ。
油井
何十億人もの人たちが、
自分の親指の陰に隠れてしまう距離まで
遠ざかることが、
わたしたち人間の心にあたえる影響って、
かなり大きいと思います。
糸井
ええ、すごいことですよ。

この親指の中に、
エベレストも、中国も、アメリカも
入ってしまいますもんね。
油井
そういう経験をしてみたいなと思いますし、
そこで気づいたことや発見を、
みなさんに発信したいと思うんですけれど。
糸井
はい。
油井
これが、なかなかにですね、
つたない言葉では伝えきれないなあ、と。

ですから、
たとえば、糸井さんもそうなんですけど、
コミュニケーションに秀でている方に、
ぜひ宇宙に行って、
そういう経験をしていただいて、
言葉で、多くの人に伝えてほしいんです。
糸井
おお(笑)。
油井
言葉で伝える専門家、
文章で伝える専門家、
音楽で伝える専門家、
絵画で伝える専門家。

詩人の方でも、いいと思います。
宇宙で、何かすばらしいこと‥‥
たとえば、
人間の本質や可能性に気づかれて、
そのことを広く発信してほしいんです。
糸井
なるほど。

ロジックとか科学的合理性とかではなく、
人間が宇宙に行って、
そこで見たことや心で感じたこと‥‥を。
油井
はい、そうです。わたし、自分のことを
典型的な日本人だと思っていまして、
何の宗教を信じているとか、
そういうことはとくにないんですが、
宇宙からですね、地球を見たときに‥‥。
糸井
ええ。
油井
その美しさに、
神様というのはいるのかもしれないなと、
思ったほどなんです。
糸井
はあー‥‥。
油井
そのくらいの光景だったんです。
糸井
宇宙に浮かぶ、地球の姿って。
油井
本当に、美しかったです。

子どものころから、
その姿を、ずっと想像してきたのですが、
その想像をずっと、はるかに超えて‥‥、
地球は、美しかったんです。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
<終わります>
2018-01-05-FRI