養老孟司×池谷裕二 定義=「生きている」

同じ東京大学で解剖学と薬学を追究し、
それぞれ「脳」を研究してきた
養老孟司さんと池谷裕二さん。
おふたりはいつからかつきまといはじめた
ある思いを拭いきれないでいます。
2019年5月15日に「ほぼ日」から発行する絵本
『生きているのはなぜだろう。』を前に話す全14回。
途中で質問をはさむのは、ほぼ日の担当、菅野です。
生きものの定義は‥‥そうです、「生きていること」!

第11回そういうもんだと思ってました」

──見える色が2原色だと、
霊長類は顔色が読めなくて不便だったのでしょうか。

養老いや、それはそれで有利なこともあるんです。
物事は、必ず裏表になってるんですよ。
3原色で失ったこともそうとうあるはずです。

たとえば、ちょっと別のことでいうと、
中世は瀉血という治療法がありました。

──血を抜く治療。

養老なんでもかんでも治療といっては血を抜くんですよ。
出血で死にそうな人まで瀉血やるんだから
そうとう無理なことしたと思うけど、
実は、あれも裏があってね。

じつは、鉄がたまっちゃう病気の人がいて、
そういう人は、鉄の吸収がひじょうにいいんです。
鉄の吸収がいいと、有利なことがある。
たとえば、おなかの細菌が増えた場合、
腸の細胞が先に鉄を取る。
すると、細菌が生きるのに
悪い環境をつくれるんです。
だから感染に強い。

ぼくが読んだ本によると──、
実際にその遺伝子を持ってる本人が
書いてるんですけど、
そういう人が瀉血すると気持ちいいんだって。

──へぇえ‥‥、鉄が抜けて。

池谷本人が言ってるんだから、
ほんとうに気持ちがいいんでしょうね。

──不利に思えることがあっても、
有利なことがある‥‥。

養老 場合によってはね。
ヨーロッパは、ご存じのように、
ペストで人口が
3分の1になったような場所です。
だから急性伝染病に強い遺伝子が残っています。

ふつうは、表の説明だけしていれば、
わかりやすいでしょう。
けれども、いまいろんな理由があって、
いろんな生物が残っているんです。
ものごとには裏がある。
そのまた裏も、またあるはずで。

──なにがふつうである、なにがずれている、
という通り一遍の教育法だと、間違いますね。

養老ぼく、それに対して一意見あるんです。
よく学生によく質問することなんですがね。

コップに水が入っていて、
そこにインクを1滴入れます。
しばらくしたらそれが消えます。
それ、どうして消えるんですか? 

──えーっと‥‥。

養老ぼくね、授業で理科系の学生に
これを訊いたんです。
そしたら、最前列の子が、
たちどころに答えてくれましたよ。
「そういうもんだと思ってました」

──ふふふふ。

養老ぼく、えらく感激したんです。
こいつら幼稚園、小学校、中学校、高校と、
どうやって勉強しないかを
上手に学んできたんだなぁ、と。

池谷 ははは。

養老「そういうもんだ」と思えばいいんだ。
教師から投げかけられた問いを迂回して、
解き方を聞いて、
「こうやればいいんですね」と。
それ、教育の効果ですよ。

池谷思考の放棄。

養老水にインク落として消えたって、
そりゃあ消えるよ、
少ししかないんだから、
別にいいじゃん、と思えばいい。

池谷そうですね。

養老考えるのがイヤなの。
じゃあどうするかというと、
「そういうもんだ」と思えばいいんです。
これ、すげぇなと思った。

池谷いわば技術ですね。

養老日本の教育って、
いかに生徒を考えさせないかを
ずっとやってるんですよ。
なぜなら、考えたら損するからね。
だからこんな絵本も
嫌がられるかもしれませんよ(笑)。

だって、大変だもん。
先生がなに言ってるか理解しようなんて思ったら、
とんでもないことになっちゃうから。

池谷うん、時間が足りないですねぇ。

養老その生徒たちは
すごい適用能力だなと思いました。

そういう意味で、
人間は、きわめて信頼できる。
どういう状況でも
上手にやっていっちゃうからね。

ようするに、子どもたちは
教育してる側が思ってることと
違うことを学ぶんです。
親の説教が完全にそうでしょ? 
親の説教、ちゃんと聞いてる子どもいる? 

──怒られてるとわかるだけですね。

養老「親が説教してんなぁ」というのを聞いてる。
そうでしょ。
なんで怒ってるかなんて、
理解したくないもん、そんなもん。

池谷早くその場から逃げることしか考えてないですね。

養老新井紀子さんが書いた
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
読みました? 
あれ、子どもたちが
教科書を読めないんじゃないんですよ。
読みたくないんです。
「読んでやるもんか」
それが中学生なんですよ。
反抗期ってそれですからね。

新井さん流に言うと、
自分なりの価値観ができる時期に
読解力がついてくるんですって。
読解力は、中学生でしかつかない。

──へぇえ。

養老その中学生が、問題が読めない。
コンピューターは読めるのに、中学生ができない。
それは読めないんじゃなくて、
あきらかに「読んでやるもんか」でしょ。

池谷逃亡ですね。

養老逃亡であり反抗です。
先生は一所懸命教えるんだけど、
生徒のほうは、脇を通ってく。

ほぼ日から、『かないくん』以来、
5年ぶりの絵本。
生きているのは
なぜ
だろう。

作 池谷裕二 

東京大学薬学部教授 薬学博士
『進化しすぎた脳』『海馬』

絵 田島光二 

コンセプトアーティスト
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』

この本には、答えがあります。

『生きているのはなぜだろう。』を
学校の理科の先生にプレゼントします。

『生きているのはなぜだろう。』は科学の分野から
人が生きている理由を示そうとする本です。
絵本の形をとり、本文はふりがなつきですが、
子どもたちだけに向けた本にはしあがっておりません。
巻末に池谷裕二さんによる
2ページ半の解説もついておりますが、
この内容を理解するためには、雑談やおしゃべりを含めた
大人の助けが必要になることもあろうと思います。

そこで、小・中・高校の理科系の先生がたに、
この本を抽選でさしあげたく思っております。
当選は20名さまです。
ご希望の方は、下記の案内のとおり、
メールでお申し込みください。
当選の方には5月14日までにメールでお知らせします。

※当選した本のお送り先は学校宛とさせていただきます。
※同じ学校の方が重なって応募された場合、
ひとつを当選とさせていただきます。
※メール本文にお名前や住所を書く必要はありません。

メールの件名 生きているのはなぜだろう。理科の先生応募
メールの宛先 present@1101.com
メール本文 学校名
応募締切 2019年5月12日(日)24:00

当選の方にはほぼ日から
住所をおうかがいするメールを差し上げます。
落選のご連絡はいたしません。

『生きているのはなぜだろう。』を
授業で教材として使用したり、
生徒さんとのおしゃべりで
どんな話をしたのかなど、
お聞かせいただければとてもうれしいです。
ご応募お待ちしています。

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