第3条:液体肥料をつかいます。その2
ほぼ日 第4条に行くまえに、ひとつ質問があります。
永田農法で使う「液体肥料」というのは、
「化学肥料」であって、
「有機肥料」じゃないんですよね。
なんだか、「化学肥料」というのは、
あんまりよいイメージがないんですけど。
諏訪 ああ、わかりますよ。
「化学肥料=悪」という
漠然としたイメージがあるんですよね。
でも、液体肥料って
人間でいうなら
「点滴」みたいなものですよ。

詳しく説明をしていきましょうか
ほぼ日 ぜひ、お願いします。
諏訪 まず、植物が成長するには
10以上の元素が必要です。
代表的なのは、窒素、リン酸、カリ。
これらは、植物の3大要素と呼ばれているほど、
植物にとって大事な元素なんです。
3大要素のほかには、
カルシウム、マグネシウム、イオウといった
いくつかの微量元素がありますが、
それらはもともと土に入っていることが多いので、
基本的には窒素、リン酸、カリを
与えてあげれば大丈夫なんです。
ほぼ日 なるほど。
その重要な3大要素を含むのが
「液体肥料」なんですね。
諏訪 そうです。
DVDの中でおすすめしてるのは、
「葉もの用」と「実もの用」とで
成分の配合をかえた
「住友液肥」という肥料です。
たとえば、「葉もの用」の液体肥料は、
含まれる窒素の量が多いんです。
これは葉っぱを増やしたり、
茎を茂らせたりするのに
窒素が使われるからです。
逆に、「実もの用」の液体肥料は
窒素の割合を抑えて、
実がつくために大事な
リンの割合を多くしてあります。
これはゴボウ、大根といった根菜類にも使います。
ほぼ日 なるほど。
諏訪 といったことを前提として、
「有機肥料」と「化学肥料」の話に移りますが、
液体肥料に含まれる窒素とリン酸とカリは、
どれも特別な成分じゃないんですよ。
ご存じのように窒素は空気中の
78%を占めるものですし、
リン酸もカリも
リン鉱石、カリ鉱石という天然資源、
つまり石からとれるものですからね。
どれも天然由来の成分を固定して
水に溶かしただけなんですよ。
そして、有機肥料にしても化学肥料にしても
けっきょく、野菜が吸収するのは
窒素、リン酸、カリがイオン化して
水に溶けた状態のものですから、
土に入れるときの形状は違っても、
植物が吸収する時点では同じなんです。
ほぼ日 え? ということはつまり、
有機肥料であろうが
化学肥料であろうが
野菜に吸収されるときは同じ?
諏訪 そういうことなんですよ。
だから化学肥料がだめで、
有機肥料がいいんだと
こだわる必要はないんです。
実は、有機肥料、オーガニックが
体にいいとかおいしいということは
科学的には証明されてないんですよ。
たとえば、イギリスでは
有機肥料やオーガニックを
「体にいい」「健康にいい」「おいしい」と
結びつけてコマーシャルすることが
禁止されてるんです。
ほぼ日 はーー。知りませんでした。
諏訪 もちろん、体にいいということが
科学的に証明されてないというだけで、
有機肥料が体に悪いとか、
有機肥料よりも化学肥料のほうが
体にいいと言っているわけではありませんよ。
植物に吸収されることを考えると、
両者はそれほど差がないんだということです。
ほぼ日 なるほど。
「有機肥料=体にいい」
「化学肥料=体に悪い」というのは
あくまでもイメージなんですね。
諏訪 そうです。
ぼくも、いまは偉そうに
こんなことを言ってますが、
永田先生に学ぶまえは、
汗だくになりながら
堆肥をつくっていたわけですから。
有機であれば、有機であるほど、
体によく、おいしくなるような気がして。
ほぼ日 はい、そういうイメージがあります。
諏訪 でも、それっておかしいんですよね。
あの、たとえば薬を飲むときに、
錠剤やカプセルの形をした
西洋医薬の薬を摂取する場合、
みんな規定量を守って飲むんです。
ところが、ウコンとかの漢方薬を飲む場合は
それほど規定量を気にしない。
それどころか、
「多いほうが効くんじゃないか?」
とさえ思ってしまう。
ほぼ日 あーー、たしかにそうですね。
ウコンを飲むときに、
「今日はお酒をたくさん飲むから、
 ウコンも2倍飲んでおこう!」みたいな。
諏訪 そうそう(笑)。
もっというと、多く飲んだとしても
「それほど害にならないんじゃないか」
と、思いがちです。
ほぼ日 たしかに、たしかに。
諏訪 それと、肥料の話はよく似ていて、
化学肥料は規定量を守るけど、
有機肥料の場合は、
多く入れれば入れるほど
いいんじゃないかと思ってる方が、
プロの農家でもけっこういらっしゃるんです。
ぼくも家庭菜園を始めたころは
牛糞の上にそのまま種をまいて野菜を育てたら
すごいおいしくなるんじゃないか、
なんて思ってましたから(笑)。
ほぼ日 どちらがいいとか悪いとかではなく、
「野菜にとって適量であるかどうか」が
まず、重要なんですね。
諏訪 そうです。
そして、「吸収されるための栄養」という意味では
どちらの肥料も変わりません。
有機肥料も、牛糞や鶏糞が水に溶けたものを
植物が吸収するわけではなくて、
牛糞や鶏糞が
土の中のバクテリアによって分解されて、
その成分を植物は吸収するわけですから。
ほぼ日 なるほど、なるほど。
ということは、土の中で
液体肥料を作ってることになるんだ。
諏訪 そうなんです。
だから一般農法では固形肥料を分解するために、
土の中に多くの微生物が
必要になってくるわけです。
一般農法でのフカフカの肥えた土は
微生物が固形肥料を分解するために
必要なんですよ。
永田農法の場合は固形肥料じゃないので、
分解の過程がほとんど要らない。
カチカチの石だらけの土に液体をまくので
表面の上に4~5センチのところに
根が張っていれば、十分肥料は吸収できます。
永田先生は、よく、
「永田農法は地表5センチで勝負する農法です」
とおっしゃるんです。
一般農法では、深さ30センチくらいの
ところまで耕すんですけど、
永田農法はそれほど耕さなくていい。
なぜなら、肥料を分解する必要がないし、
深く根を張らせる必要もないからです。



(つづきます)
2008-04-20-SUN