糸井
この前、アッコちゃんのコンサートに
行ったんだけど、
ちょうど風邪をひいてたときで‥‥。
だけどアッコちゃんは、ゲストを呼んだ
「ふたりでジャンボリー」第1弾
5公演連続ステージをやっていました。
矢野
うん。すごかった。
大人になってから熱が出たのは
たぶん3回ぐらいしかなくて、
そのうちのいちばんひどいやつでしたね。
糸井
熱も出たんだね。
それは初日の前?
矢野
直前です。
リハーサルになって、バンって悪化しました。
「これはどうしたものか」ということになり、
教えてもらったお医者さんにすぐ行って
強い点滴をがんがん打ちました。
糸井
「死んでもいいです、治してください」
みたいな状態ですね。
矢野
そう、近い(笑)。
そして、持てるもので、
精一杯、ステージをつとめました。
糸井
それを観たお客さんが、SNSなんかで
「風邪だったね」とか書いてるかな? と思ったら、
みんな、なんにも書かずにいたよ。
すごいことだと思うんだけど。
矢野
私が、苦しまぎれに
「こういう風邪ひきの声の矢野顕子も
 レアものですので、
 みなさん、積極的に考えてください」
と言ったら、そのとおりに
前向きに書いてくださる方もいらっしゃいました。
糸井
すばらしいですね。
ぼくが観たステージは、
矢野さんと清水ミチコさんが共演した日でした。
その日、ぼくは客席で
「矢野顕子の演奏をはじめて生で観る」という人と
いっしょだったんだけど、
終演後にその人が
「すっごくよかったー!」
って、言ったんですよ。
矢野
ほんと?
糸井
うん。ものすごーく感激してたわけ。
で、ぼくは
「違うよ。今日の矢野顕子は、いわば20点だよ」
と教えてあげました。
そして、矢野さんのふだんの水準について、
語って聞かせました。
矢野
ありがとうございます(笑)。
糸井
SNSに
「矢野顕子が風邪をひいている」と
みんなが書かなかったのは、
ふだんの「すごさ」を込みで
感じていたからだと思います。
誰ひとりとして、みごとに、
ブーブー言う人がいなかった。
いま‥‥お世辞を言ってるかたちになってますけど、
これは事実です。
ですからそれは、矢野さんの
ふだんの行いのなせる‥‥。
矢野
そういうことでしょうか。
糸井
人徳のおかげかなあ、と。
矢野
いやぁ。
糸井
思いました。
矢野
おそらくみなさん、
しょうがないと思ってくださったのでしょう。
まぁ、めずらしい体験だったと思います。
後半の日程のゲストだった
森山良子さん、大貫妙子さんは、
歌を聞かせるタイプの方々だったので、
私はピアノの伴奏者として、
歌伴することができました。
まぁ、結果的に風邪のせいで
そういうプログラムになっちゃったんですけれども、
奇しくも、そうして
「伴奏者としての矢野」も
お見せできる会になりまして。
糸井
アッコちゃん、両方やる人でよかったね。
矢野
ほんと、そうよね。よかった。
たいてい風邪って、
「ケへ‥‥」くらいの
喉の違和感からはじまるでしょ?
その「ケへ‥‥」の最初のひと言で
病院に来なさいねって、
今回、お医者に言われました。
糸井
そのとおりです。
ぼくはいつもそうしてますよ。
矢野
イトイは、よく風邪ひくよね?
糸井
それ、よく人から言われるんだけど、
実はそんなにひいてないんだよ。
矢野
あら、そう?
昔からよく風邪ひいてるイメージがある。
糸井
1年に1回ぐらいだと思うなぁ。
もしかして、俺は体が弱ると、
周囲の同情をかうようなそぶりを
見せているのかもしれない。
矢野
身についてるんだ(笑)。
糸井
人にやさしくしてもらえるようにね。
あ、そういえばいま、
やさしくされたいです、という内容の
詞を書いているんですよ。
それをぜひ、矢野顕子さんに歌ってほしくて。
「やさしくしたくなったら、私のとこに来てください」
矢野
やさしくしてほしかったら、来てください?
糸井
ううん。
「やさしくしたかったら」
私のところに来てください。
矢野
したかったら(笑)。
糸井
「私はいつでもやさしくされる用意があります」
矢野
そうかそうか、
受動本位なんだね。
糸井
受動が能動、って感じ?
矢野
あたらしい。
糸井
これはもう、途中まで歌詞を書いてあるんですよ。
矢野
あら、感心しました。
糸井
「誰かにやさしくしたくなったら
 どうぞ私にやさしくしてください
 私はいつでもあなたのやさしさを
 受け入れるようにします
 私はいつでもあなたのやさしさを
 待ち望むようにします」
矢野
それは‥‥弱いんだか強いんだか、
わからないね。
糸井
そうね。で、書いてて思ったんだけども、
これはつまり、犬や猫たちのことなんですよ。
矢野
あ、なるほど。
糸井
あのこたちは、やさしくする権利を、
飼い主にあげているでしょ?
矢野
そうだね。
糸井
ごはんをぼくに食べさせてくれてもいいですよ。
矢野
そうね。
糸井
そういう相手がほしいから、人は
犬や猫を家族にするわけです。
矢野
うん、うん。
そっか、なるほどなぁ。
(つづきます。次回は
 矢野顕子さんの作曲法について、話します!)

イラストレーション・ゆーないと

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN