白いシャツをめぐる旅。2020 わたしのマスターピース。 白いシャツをめぐる旅。2020 わたしのマスターピース。
09 池邉祥子さんの、凛とした世界。TALK TO ME
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ことしの「白いシャツをめぐる旅。」で
はじめてご紹介するブランド、
TALK TO ME(トークトゥーミー)の、
凛とした白いシャツ。



このシャツを見つけたのは、
「白いシャツをめぐる旅。」チームの、
ほぼ日乗組員(さゆり)です。
とあるセレクトショップで初めて見た
TALK TO MEの白いシャツを試着したときに、
何か自分が違うところに、
一歩ステージが上がるような、
不思議な感覚になって、
それがすごい衝撃だった、と。



そのシャツをつくっていたのは、
京都にアトリエをもつ、
デザイナーの池邉祥子さんでした。
「池邉祥子服飾研究室」を主催し、
オーダーと既製服の服づくり、
そして、古い衣服を収集・保存する
プロジェクトをおこなっています。



TALK TO MEは、彼女がもつブランドの中の、
既製服のラインです。
その池邉さんに、
服づくりのこと、たくさんうかがいました。



池邉さん、お洋服づくりは、京都で。
オーダーが最初だったそうですね。
いつごろから始めたんですか。
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「ブランド自体は7~8年前です。
元々は既製服ではなくて、オーダー服ですね。
依頼があったものを、その人のためだけに作る。
年に何着か、そういう服のつくりかたで、
ブランドをスタートしました。
自分でパターンを引いて、自宅で縫って。
そのあと、年に1回だけ、
自分がデザインした既製服を出すようになりました。
最初はもうほんとに数型、5、6型ぐらい。
それがずっと続いてました。
今は年に2回、コレクションを出しています。



始めるとき、ものすごい大きな目標とか、
こうなりたいというのはなかったのですけれど、
ひとつ、自分の中で大切だったことは、
ファッションの、春夏秋冬という
過剰なサイクルには乗らないということ。
それはすごく大きかったですね。



シーズンで変わらない。
春夏秋冬は気にしない。
ずっとつくっている定番のものを軸にして、
少しずつ新作を出して、という感じの
売り方というか、伝え方をめざしました」



お洋服への興味は、ずっと前から?



「3、4歳ぐらいのときから
洋服のデザイナーになろうと思っていました。
ちょっと異様に早いですよね。
でも、決めてたんです。
でも、アパレルの会社に勤めたことはありません。
東京の服飾の学校は出たんですが、
18歳くらいのとき、
ファッションビジネス論の講義を聞いて、
『これはヤバい業界だ!』と思ったんです。
聞けば、ブランドで仕事してる先輩は、
夜中の2時3時までなんて当たり前。
みんな、あまりにも過剰に働くんですよ。
過酷すぎて、一生の仕事にはできない、
もちろんできる人もいると思うんですけれど、
私には無理だ、と思いました。
その私が洋服で食べていこうと思うんだったら、
それとは違う構造のところで
ものづくりをしないと、と思いました。
だから、どうしたらいいんだろうなということを、
すごく考えてました」
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既製服のメーカーに入ってしまったら、
続かないだろう、と思ったんですね。



「はい。それで学校を出て、悩んだまま、
東京から出ようと思ったんです。
東京でしか服が作れないわけではない。
自分にとって働きやすくて
生きやすい場所に拠点を移そう、と。
そこで、京都の美大に入り直したんです。
高校時代から現代美術がすごく好きだったので、
編入して、美術史の先生について、
ずっと論文を書いてました。
そのあとに服をつくるようになったんです」



始めたときは27歳くらいのことだったといいます。
それから、ゆっくり、丁寧なものづくりを続けています。



「私のいちばんの興味は、
どう幸福に生きていくか、ということなんですね。
得意分野で、どう幸せに生きていくか。
私にとってはそれが洋服を作るということであって、
けれども過剰に働き続けることは、
私にとっては不幸というか、
求めていないことだったので。
夜中まで働いて、ご飯も作れずに
服を作ることが幸せかって言ったら、そうじゃないと。
ご飯をきちんと作れて、週末美術館に行けてという、
そっちの方が私にとっては重要だったんです」
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話の端々に、「幸せ」という言葉が
何度も聞こえてきました。



「長く愛されるものをつくって、
生産背景や流通、どうやって皆さんの手元に
届くかということまでが
『デザイン』だと思っています。
そこまでがデザイナーの仕事なんじゃないかな、と。
自分が妥協せずにつくった服が、
ちょっと頑張ったら買える価格で提供できて、
工場も幸せで、お客様も私も幸福、というかたちを
追い求めようというのが大きいです」



デザインから服になるまでに、
縫製工場だとかの関わる人たちも、
服を買って着る人も全部ふくめての幸せ、なんですね。



「そう。そうなんです。
私、現場主義で、
縫って頂くところとか、
染色工場とか機屋さん、
依頼をする前に、徹底してチェックします。
まず、お話をさせてもらって、
現場を見させてもらい、
いくらいいものをつくっていても、
労働環境がよくないところとは、
お仕事はしません」



ブランド名の「TALK TO ME」は、
何か由来があるんでしょうか。
「自分と話す」ということですよね。



「そうなんです。
動詞が入ってるので、ちょっと不思議な名前ですよね。
なぜかというと、私がいちばん興味がある、
どう幸福に生きていくか、
ということにいちばん近い所作は、
自分自身と向き合って、
きちんと話すことだと思っているからなんです。
でも、それってとても難しいことですよね。
だから、この服が、
幸福になるための所作になるような、
そんな存在になったらいいなと思って、名付けました」



今回のシャツは、
TALK TO MEで定番のように
つくり続けているものだそうですね。
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▲TALK TO ME 二重ガーゼシャツ(M)

 ¥47,850(税込み)
「はい。スタートは2015年です。
半年で消費されないもの、
名作を生み出すぞ! 
という気持ちでつくっています。
これ、すごく手のかかる、
ちょっと工芸的なシャツではあるんです。
だからお値段が高くなっちゃうんですね。
ちょっと高くて特別な感じなんだけれども、
頑張ったら手が出せる、
そういうものかな、というふうにも思っています」



「ほぼ日」の(さゆり)もそうなんですが、
最初は簡単に手が出せなかったけれども、
ずっと気になっていて、頑張って買った、と、
そんなお客様が多いと聞きました。
同じものがずっとつくられ続けているから、
気持ちが熟したときに買うことができる。
それって、いまはすごく少なくなってしまったけれど、
ほんとうに素晴らしいことだと感じます。



「そうおっしゃってくださる方、多くて、
とてもうれしく思っています。
ずっと気になっていて、
やっとタイミングが来たと、
買われる方が多いんです。
それでいいなと思ってます」



どんな方が着るというイメージはありますか?



「私の中で大きいのは、今を大切に生きてる女性、
特に精神的にも金銭的にも自立した、
またはそうありたい女性のためにつくる気持ちです。」



定番とはいえ、2015年から、
ちょっと変遷があると聞きました。



「はい。定番になるまでに変化がありました。
これが、最初に作ったものです。
3種類の生地を使ってつくりました。
素材はコットン100%なんですけど、
生地が綾織りなんです」
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布目が細かくて、やわらかい!



「私の持論では、
女性がいちばんきれいに見えるのは綾織りです。
女性の曲線に沿ってくれる織りなので、
優しい雰囲気になるんです。
でも実はつくるのがすごく大変で、
縫製工場の負担が大きかったんです。
それで次に、違う生地でつくりました」



次のものは、布が変わることで、
ずいぶんイメージが変わりましたね。
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「表は12%シルクが入ったコットン素材で、
内側が120番手というコットン。
よりしっかりして、
ジャケットみたいな感じになりました」



この光沢は、12%のシルクゆえ。



「贅沢ですけれど、
内側の布も、高級な薄手のブラウス地で、
本当は表地に使われるものなんです」



そして今回のシャツに進化。
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「使っていた生地が
手に入らなくなったというのもあって、
今のかたちになりました。
この素材は平織りなんですけれど、
2番めのシャツの内側に使っていた、
120番手のコットンを、
表と裏、両方に使っています。
縫製は、私がブランドを始めたときからお願いしている、
3人だけでやってるちっさな工場というか、
アトリエにお願いをしています。
手がすごくよくて、
とても丁寧にあげてくださるんです」



印象が変わっても、かたちはあんまり変わっていませんね。



「そうですね。
最初のときに、納得しているというか、
求めてたものにいちばん近い形ができていましたから。
ただ、生地を変更するごとに、
数ミリ単位でパターンを調整しています」



なるほど。ありがとうございました。
あらためてふしぎなんですが、
このシャツ、デザインのもと、というか、
なにかアイデアのソースがあったんですか?



「服のつくり方っていろいろあるんですけど、
生地からパーンとデザインが浮かぶときと、
アイデアが優先するときがある。
でもこのシャツは完全に思想というか、
イメージ先行でした。
デザインも生地も何もない状態からスタートしました。
それは、凛として柔らかで美しい女性。
その言葉に形をつけるとしたらどうなるだろう? 
というところからスタートしてるんです」



わぁ、それはほかにはないつくり方かもしれないですね。
こういうシャツを待っていた、
というかたのところに届くといいなと思います。



「はい。これを着たら幸せだと言ってくれる女性が、
まだまだいるような気はしているんです。
そういう方に伝えることができたらいいな、
と思っています」
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TALK TO ME

http://sicl.jp/talk-to-me/
TALK TO ME のすべての商品を
お手に取っていただける展示会が5月と6月にかけて、
東京、京都、福岡にて開催されます。
一般の方も自由に入場できるということですので、
ぜひ足を運んでみてくださいね。
詳細はHP(sicl.jp)または
SNS(instagram @ttmbysicl)でご確認下さい。
(次回は、連載の最終回。
シルクアンダーのma.to.waです。)
2020-04-17-FRI