ほぼ日刊イトイ新聞
その10 luxluft ふつうに見えて、ふつうじゃない。

昨年の「白いシャツをめぐる旅。」に
とてもきれいなチノパンを提供してくださった
レディスブランドのluxluft(ルクスルフト)。
キャリアのスタートがジーンズメーカーだったという
デザイナーの児玉洋樹さんによるブランドです。
彼のデザインするレディスウェアは、
日々いそがしい女性たちに向けて、
いい素材で、動きやすく、
体のラインをきれいにみせるパタ-ンで、
流行に左右されないデザインを打ち出し、
「カジュアルなものも好きだけれど、
きれいな服が着たいな」と思う女性たちから
つよい支持をあつめているんです。
(児玉さんとluxluftについては、
昨年のコンテンツをどうぞ。)

児玉さん、すごーく面白い人なんですよ。
だって開口一番「ぼく、まあまあヘンタイなんです」と。
そ、そういうインタビューじゃないんですけど!

「安心してください。服に関して、です」

どうやら児玉さんのまわりでは、
マニアックに服のこと(だけ)を考える姿勢を
そう呼んでいるみたいです。
でもヘンタイって‥‥。
それに、今回のシャツ、とってもシンプルで、
ベーシックに見えるんですけれど。

「そうでしょう。でも、背中側を見てください」

ん? こちらはこちらで、
しゅっとしていて、かっこいいですよ。

「ちがいがありますよ」

んんん? あっ、もしかして‥‥?

「そうなんです。これ、スプリットラグランといって、
前身ごろはふつうのセットインスリーブなんですが、
後ろ身ごろはラグランスリーブになっているんです。
スプリットは割れているという意味で、
スプリットフィンガーファストボールのスプリットです」

‥‥ええと、大リーグ系の野球用語はおいといて
(児玉さん、野球とクルマとデニムと軍ものが好きな、
かなり男子っぽい男子なんですよ)、
この仕様は、メンズのコートではあったりするのですが、
シャツではあまり使われないパターンです。

「スプリットラグランの一番の特徴は何かというと、
前をコンパクトに見せられるんですね。
ドロップショルダーなんだけど、小さめに見せられて。
でも後ろを見ると、スポーツウェアから応用されている
ラグランスリーブですから、動きやすいんです。
例えば下にTシャツを着て、上にバサッと羽織ったときに、
これが羽織としてちゃんとうつくしく映える。
シャツとして着たときは、フロントインしたときに、
後ろがフワッと膨らむようにパターンをひいています。
そのときに後ろの裾が真っ直ぐに見えるように
計算に入れてつくっているんです」

さらに、ボタンの位置のくふうもすごい。

「これは僕のシャツの代名詞的な、
バストトップの位置に、隠しボタンが入ってるんです。
これね、胸が大きい人は、前が開き過ぎちゃう。
小さい人は小さい人で、浮いてしまうから、開いちゃう。
なので、どっちにも対応できるように、
バストトップの位置に、もう一つボタンを
こうやって隠れて入れてるんです。
これを留めることで、開きすぎを防止するんです」

なぜ、男子にそんなことがわかるのだろう。

「それは‥‥ずっと観察をしているからです!」

慌てて営業の中野さんが
「怪しいことを言わないでください。
こういうことは定番で、ずっと長く研究をしてきた
その結果じゃないですか」
と。
でも児玉さんのマシンガントークは止まりません。

「それにね、今回はリネンのシャツということで、
いちばん気を使ったのは、武井さん(ぼくです)も
リネンのシャツを着てるからよくわかると思うんですけど、
やっぱり朝のパリッと感が夜まで続かないじゃないですか。
ヘニャッてなっちゃうでしょ。
そのヘニャッてなっちゃうのを、
やっぱり極力、ヘニャッと見えさせないために、
いちばん肝心なののは襟だと思うんです。
だからこのシャツの襟はよく見ると、
全部後ろ芯をステッチアウトして、
潰れにくくしてるんですね。
これ、台襟では雰囲気が出ないなと思ったんですが、
でも台襟として機能するように、
しっかりステッチを入れているわけです」

す、すごい。細かい。めちゃくちゃ細かい。

「実はスプリットラグランの袖周りも
肌当たりの部分まで考えて、全部伏縫いしています。
生地も、日本で流通してるリネンのシャツ地って
60番手という番手が多いんですけど、
僕はもうちょっとしっかりさせたいという理由で、
50番手という、より太い糸を使いました。
シャツってシャツを越える着方がありますよね?
ジャケットとしてというふうに、
いわゆる羽織りとして着た場合って、
やっぱり透け感が出過ぎるのってプラスにはならない。
そういう部分も踏まえて50番手を採用しています」

児玉さんが面白いのは、
服の素材やパターンにすべて理由があること、
「かっこいい」「すてき」だけではなく、
着心地をちゃんと優先していることだと思います。
でもその「かっこよさ」「すてきさ」も実現している。

このシャツ、よく見ると前身ごろの袖まわりに
こまかいギャザーが入っていますね。

「こういうところは苦心しますね。
というのは、やり過ぎてしまうと、
ナチュラル感が出過ぎちゃう。
普通に使ってもらえるというところは、
非常に意識して、ここだけにギャザーを集約しました。
後ろは、ラグランにして、膨らますようにしているから、
そこにギャザーを寄せちゃうと、
Tシャツとか着てレイヤードしたときに、
膨らみが出過ぎちゃうのがちょっと嫌で、
背中側のギャザーはやめたんですよ。
けれどもたっぷり感は出さないと、
昨今流行ってきたオーバーサイズのTシャツを着て、
その上から羽織りたいというときに困りますよね。
だからこんなふうにしたんです」

しかもメンズシャツの「お約束」的なギミックも。
ボタンが「縦縦縦縦で、最後が横ホール」
というところなどがそれです。
もしかして縫製などの技術面では、
メンズシャツのテクニックを使っている?

「そのとおりです。
今回はいつもと違う工場にお願いしました。
そういうことはパッと見は、わからないと思いますが、
地味に‥‥地味に、ヘンタイなことをしているんですよ。
こういうことばかり考えているから、
もう寝れなくなっちゃって!」

何度も言いますが、児玉さんのつくるものは、
徹底して考え尽くしているけれども、
「かわいい」「かっこいい」と素直に思える。
そこがすばらしいと思うのです。

シャツコートをつくりました。

この連載のための取材で
(掲載の順番に取材をしております)
いろいろなブランドのみなさんに話を聞いていますが、
どうやら今年は「羽織る」着方のできるものが多いみたい。
Tシャツも復権しているというし
(厚手、オーバーサイズのものです)。

そんななか児玉さんのluxluftがつくる
2着目のシャツはこちらです。

「スプリットラグランリネンシャツコートです」

名前が長いのは、要素をすべて入れたからです。
袖付けがスプリットラグランで、
素材がリネンで(ここまでは前出のシャツと同じです)、
かたちがコート。だからシャツコート。
ワンピース、ではないのですね。

「ワンピって言っちゃうと、
ワンピースが主体になっちゃうんで。
これはあくまでもシャツで、コートなんです。
コート、ですから、ポケットもついてます」

前ボタンが、比翼仕立てですね。

「この比翼もリバースフライといって、
ふつうの比翼とは反対に仕立てているんです。
これは、さきほどと同じ胸のある人理論なんですけど、
そういうかたって、普通の比翼だと開いちゃうんですよ。
でもこうして逆側からのは、
引っ張られても開かないんです。
だからこういうリバースフライという
比翼の形状を採用してます」

コートと呼んでいることについても
もうすこし聞かせてください。

「皆さんコートを着られるときって、
きっちり着る方とバサッと着る方と
2通りあると思うんですけど、
僕の場合は、バサッと着ることを大事にして
デザインしたいなと思っているんです。
それで、紐がついてるんですけど、
この紐が、実は中にも入れられるんですよ」

「ちゃんと結んでもいいですし、
でもバサッと着たいなというときは、
紐が当然ブラブラ出て邪魔になっちゃうんで、
穴を通せば内側に入って、
見た目には紐がない状態にできるんですよ。
後ろで少し結んでもらって、
後ろだけフワッとさせることもできる。
つまりいろいろな着方の対応というのを、
ある程度できるようにしてるんですね。
これタイロッケンといい、軍ものによくある、
紐でロックするという昔の仕様なんですけど、
それの応用版みたいなつくりなんです。
紐が邪魔になって抜いちゃう人もたまにいるので、
抜かなくても中に通しておけばいいよ、って。
内側に片方だけ紐出したやつを結ぶなんていう
スタイリングジャンキーな着方も演出できますし。
そして着丈は、うーんと長め。
これは今年っぽい着丈感なんです」

ああ、児玉さんの解説が、
とんでもなく長くなってきました。
みなさま、まだアイテムがあります。
もうすこしおつきあいください。

袴っぽいパンツと、フレアスカートと。

このパンツ、その名も「はかまチノ」。
かたちはまさしく袴です。

「洋服の中で体が遊ぶ感覚があるチノ、
ということをすごく意識しました。
ダブルカフにして、重さをちゃんとかけて、
綺麗なシルエットが構築できるようにデザインしています。
これだけのステムの太さになってくると、
ちゃんと重さをかけてあげないと、
綺麗なシルエットにならないので、
そこが昨年とのいちばんの違いですね。
そして今年のチノで提案したかったのは、着方です。
シャツを外に出す着方と、中に入れる着方がありますよね。
このチノは、中に入れたときにもきれいなんです。
だからフロントのファスナーをやめて、
サイドジップのこういうタイプにしました。
シャツインして着たとき、ハイウエストなので、
足長効果もかなり出るのと、
チノを今までと違った感じで着てもらいたかったんです」

じつは、この「はかまチノ」は、
児玉さんのキャリアのスタートである
デニムづくりにも深い関係があります。

「1930年代にランチパンツというものがありました。
レディース最初のデニムって呼ばれていて、
デュードランチという、牧場で余暇を過ごす、
そういうときに女性たちが穿くパンツとして
元々開発されたらしいんです。
その頃、女の人が穿くパンツは、
フロントにファスナーがあるべきではないという思想で、
もともと横にボタンで留めるように作られていました。
ほんとに古いものはボタンしかなかったと思うんですけど、
今回は現代的に、サイドジップにしています」

とてもスカートライクなデザインのパンツですが、
「より涼しく着たい」かたにむけて、
フレアのランダムタックスカートもつくりました。

「スカートは、サイドジップだと、張ってしまうので、
目立たないように後ろにつけています。
このフレア感は、ほぼ日で買われるみなさんにも、
とてもなじみ、かつ、ほしいシルエットじゃないかなと、
ド直球のシルエットです。
でも見ての通り、プリーツが左右ちがいます。
左右ちがうのに、同じシルエットに見えるデザインです。
フロントも、ほら、内・内タックで、外・外・外・外」

な、なぜそんなことを‥‥?

「歩いてるとき、スカートの揺れ感を、
均一に出したくないというのが理由です!
揺れ感が立体的というか有機的というか、
同じような感じにならないようなスカートにしたいなって」

へ、ヘンタ‥‥と思わず言いそうになりました。
児玉さん、そこまで、考えておられるのですねえ‥‥。
そのために、落ち感を考えた素材にしたんですね。

「落ち感というかテロっと感のために、
素材はコットンテンセルです。
柔らかさと揺れ感の追求です」

留め具はちょっとミリタリーっぽいタックボタン。

「チノに求められてるのって、
ドレス的な綺麗さじゃないって思ってて。
綺麗なんだけど、やっぱりどっか
オーセンティックさがないと、チノパンに見えない。
だから敢えて、ワークディテールの
ふっといベルトループにしてあるんですよ。
しかも、太さがタックと同じ幅」

「100人いて1人、気付いてくれるかどうかですが、
こんなところまで徹底してます。
パタンナーとずいぶんケンカしました。縫いにくいって」

そこまでやっても「ふつう」で
「かわいい」、「かっこいい」。
児玉さんのデザインは、そこがやっぱり、すごいなあ。

さて、それでは「ほぼ日」でのスタイリングとは別に、
児玉さんの「おすすめの着方」を聞いて
おひらきにいたしましょう。

「そうだな、足元はペタンコのサンダル。
レザーのサンダルなんかを無造作に合わせて、
スタイリングの主軸はちょっと厚手のTシャツで、
これも無造作に袖をまくったりして。
そうそう、Tシャツも、
おもしろいのをつくったんですよ‥‥」

と、話が別のところに行きそうになったので、
このあたりで。
児玉さん、ありがとうございました!

(次回はインディビジュアライズドシャツです!)

2019-04-06-SAT

INFORMATION

「ほぼ日ストア」ページで
ことしのコレクションを紹介するのが4/12(金)、
「ほぼ日ストア」と伊勢丹新宿店、
三越伊勢丹オンラインストアでの販売スタートは
4/24(水)からとなります。

また、ことしはジェイアール京都伊勢丹でも
販売を予定されています。
くわしくは、各店舗にお問い合わせください。

どうぞおたのしみに!

■ほぼ日ストア 「白いシャツをめぐる旅。」
2019年4月24日(水)午前11時より数量限定販売

■三越伊勢丹キャラバン
 「白いシャツをめぐる旅。-見惚れシャツ―」

・2019年4月24日(水)-4月30日(火)
 伊勢丹新宿店本館4階=センターパーク/ザ・ステージ#4

・2019年4月24日(水)-5月21日(火)
 三越伊勢丹オンラインストア

・2019年5月8日(水)-5月21日(火)
 ジェイアール京都伊勢丹 5階=スタンダード&モダン SPOT

■伊勢丹新宿店本館4階=センターパーク/ザ・ステージ#4では、
ほぼ日ストアでのラインナップと合わせて、
さまざまな「白シャツ」をご紹介します。
白シャツと合わせるチノパンや、カットソー、
肌着、バッグ、アクセサリーをはじめ、
「自分だけの特別な一枚」に出会えるシャツの
カスタムオーダー会も実施いたします。

※くわしくは、こちらをごらんください

・BRAND
※一部、お取扱いのない店舗がございます。

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