ほぼ日刊イトイ新聞

この旅も、ことしで4年目。
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
シャツメーカーのHITOYOSHIのみなさん、
そして、白いシャツをつくっている
いろいろなブランドのかたがたといっしょに、
「いま、着たいシャツ」を探します。
ことしの取材を通して、
「いいシャツを買うってどういうことだろう」
「ながく着るってどんな意味があるんだろう」
そんなテーマにも、
すこしだけ触れられたような気がします。
また「なんとなく似合わないな」を解決する、
いいヒントも教わってきましたよ。
10回の連載、たっぷりおたのしみください!

その8
Luxluft、そしてチノパンのこと。

ここまでお読みくださったかたはお気付きだと思いますが、
今回の「白いシャツをめぐる旅。」、
シャツ以外に、ボトムスが充実しています。
それも「チノ」素材が多い!

じつは、今回のラインナップを選定するときに、
伊勢丹新宿店におじゃまして、
いろいろなアイテムを見たなかで、
「白いシャツとチノパン」の組み合わせに、
グッときてしまったのです。
‥‥なんていうんだろう、
とても「今」の気分に合っているような気がして。

「チノパン、じつは昨年あたりから、
いいねという話は出ていたんですが、
年齢を重ねた女性の場合、
若い頃のような穿き方は、ちょっと難しい。
でもなかなか、今の体型に合うチノパン、
カジュアルなアイテムだけれど
エレガントに着られるチノパンって、
数は多くなかったんですね。
そんななか、ことしになって、
いろいろなブランドがすこしずつ
いい形のチノパンを発表しているんです」

まわりの女性たちに訊いてみると、
デニムは数本持っていても、
チノパンというのは案外持っていない。
でも「ちょっと欲しいなって思っているんですよね」。
だったら仕入れようよ!
それも、シャツ同様に、
いろんなタイプのチノパンを
ならべたらいいんじゃないかな。
そんなふうにして今回の
ボトムスのラインナップが充実していきました。

きょう御紹介する「Luxluft」(ルクスルフト)は、
シャツではなく、チノパンのみの仕入れです。

アイテムを決定する前、
いろんなチノパンを並べて見ていたとき、
このチノパンが、やけに目立って見えました。
「かっこいい!」
「穿いてみたい!」
という女性たちの声もありましたし、
ぼくから見ても、これメンズはないのかな‥‥と
思うくらいでした。

もちろん、ほかのブランドのチノパンも、
それぞれの個性があり、それぞれのつくりのよさがあり、
すばらしいのです。
すばらしいんだけれど、これは「なにかちがう」。
その「なにか」が知りたくて、
Luxluftのデザイナー、児玉洋樹さんに会ってきました。

「ぼくは、ジーンズメーカーが、
キャリアのスタートなんですよ」

あああ! そういうことでしたか。
‥‥って、いきなり合点するのも妙ですが、
そもそもパンツをつくることが得意、
ということですよね。

「そうだと思います。
そもそも、ぼくはデニムが大好きで、
生まれ育ちが東京の下町だったこともあり、
下町ブランドであるエドウィンという
デニムの会社に入りました。
けれどもだんだん、デニムだけじゃなくて
トータルにデザインをしたくなって辞め、
いまの会社の創業メンバーになったんです」

いまの会社というのは「アナディス」といって、
Luxluftをはじめ、7つのブランドを持つアパレルです。

「ぼくはいま45歳なんですが、
自分の年齢とともにだんだんとデザインも変化しています。
以前に比べると、今は、生活に根差した、
ずっと着られるものをつくりたいと思っています。
考え方がどんどんベーシックになっていますね」

だから素材も、
ちょっと着込んでいったときに味が出たり、
愛着が沸くようなものを選ぶのだと言います。

「おそらくLuxluftのお客さまというのは、
“いちど、洋服に飽きた”という経験が
あるんじゃないかと思います。
若い頃、セレクトショップで
洋服を買いまくっていたような世代が、
子どもも産まれ、自分のやりたいことが
明確になってきたときに、
キッチンウェア1枚とっても、
ちゃんと自分で選びたいと思うようになる。
洋服にかぎらず、暮らしのいろいろなことに
目を配って、選んで、
そういうものに囲まれて暮らしたい。
そんな人物像を想像しています。
ファッション的に言うと、
昔なら自分がきれいに見える方向で選んでいた服をやめ、
自分がどれだけ自然に楽でいられるかで選ぶほうに、
近づきつつあるんじゃないかな」

とはいいつつも、Luxluftの服は
とてもきれいな印象がありますよ。

「もちろん、どこかに着て行く時に、
気後れしないような『きれいさ』を
バランスを考えて入れています。
ふだんにも馴染みやすくて、
お出かけにも合う、というバランスですね」

夏のための、軽いチノ。

▲Luxluft ワイドチノパンツ。

では今回のチノパンのお話を。
サンプルを穿いたチームのものが、
軽くて穿きやすいパンツだと言っていました。

「今回のこのチノに関しては、
夏にメインで履いてもらいたいので、
生地えらびから、かなり注意をはらいました。
経(たて)糸と緯(よこ)糸を変えた生地なんです。
コンパクトヤーンという、ケバを巻き込みながら
糸を作っていく製法があるんですけど、
その製法で作られた糸を経糸に使うことで、
履いていってもケバ立ちが出てこない。
そして緯糸は肌にいちばん触れる部分なので、
どれだけドライ感が出せるかを考え、
リネンが入っているものを選びました。
緯糸はコットン70、リネン30です」

さらに(マニアックな話になりますが)
白い状態で織り上げた「生綿」に、
苛性ソーダでシルケット加工をほどこし、
繊維の1本1本の断面が丸くなるようにととのえる。
そのことで摩擦係数が減り、肌触りがよく、
そして光沢感が増すのだそうです。
だからこのチノパン、独特の光沢があるんだ!
リネンを混ぜると、リネン特有の光沢感は出ても、
全体的な光沢感がちょっと薄れますが、
このパンツはそんなことがないのだそうです。

「糸も細いんです。
ふつうのチノパンって、20番手くらいなんですが、
その半分の細さの40番手の糸を使っています。
細くてもじょうぶにしたいので、
本数を極限まで増やしました。
高密度の織物をつくっているんですよ」

さらに「縫い」についても特別な仕様に。

「ロックが見えないよう、
きっちり巻き縫いで仕上げています。
こうすることで、素肌に当たったときの感じがよく、
型くずれが圧倒的に少なくなります。
そして膝が出にくいんです」

しかも、ウエストで安定感がでるように、
腰の部分だけ多少厚めのツイルにしています。

「穿いたときに、軽さを感じつつ、
不安定さを感じさせない工夫です」

縫い目はパッカリングが出る縫い方です。

「はい、けっこう本格的に、強めに出しています。
こういう個性を出すことで、
ほんとうにチノ好きなひとたちにも
選んでもらえたらいいなって」

股上はやや深め。

「これは、最近トップスをタックインして
着られるかたが増えてきたため、
ハイウエストにしています。
ローウエストだと、入れてもすぐ出てきちゃう。
なのであまり落とさず、
ジャストで穿いていただいたほうがいいですね」

きれいめなパンツですけれど、児玉さんは
洗いざらしで着てほしいと言います。

「普通に洗って、裏返して干し、
干すときに引っ張っていただければ、しわも伸びますよ」

児玉さんから、着こなしのアドバイスはありますか。

「個人的な話でもいいですか?
ぼくは、こういうカジュアルなパンツを穿く時は、
パンプスとかヒールを履いてもらいたいんです。
1カ所カジュアルだったら、1カ所きれいめに。
もうこれは完全なる個人的な意見です。
チノパンを履いても、足元がパンプスやヒールなら、
途端に女性のスタイリングになるんですよ。
もちろんスニーカーを
否定することではありませんけど」

すごいな、児玉さんの、服にたいする情熱!
たっぷりと面白い話をありがとうございました。
Luxluftのワイドパンツものせて、
「白いシャツをめぐる旅。」はつづきます。
次回は絹の肌着のお話です。

2018-05-19-SAT