清水さんの「記憶に残る失敗」とは、どんなものだったのでしょうか。
清水:
ずいぶん前のことなんですけどね、「渋谷ジァン・ジァン」のライブで「オペラ銭形平次」というネタをやったんです。
──:
オペラで銭形の親分を‥‥(爆笑)。
清水:
クラシック音楽にあわせて、銭形平次、奥さん、犯人など、それぞれ設定して歌っていく、歌劇です。
──:
わはははは。
清水:
これがねぇ、つくりはじめたらたのしくなっちゃって(笑)、こんつめて完成させました。結果的に15分越えの長いネタになったんですよ。懸命につくり込んでいたことはスタッフもよく知ってたので、「おもしろくないよ」とは言いにくかったみたいです。私のほうも「こんなおもしろいことはない!」とノリに乗ったまま、本番を迎えました。
でもね、人はまず「長い」というだけで「カンベンしてくれ」と言いたくなるものなんです。
──:
そうなんですか。
清水:
やってみたら「ただ長いだけ」というネタになりました。モノマネって、なんといっても短いのが信条なんです。だけど、ステージでひとり歌劇をはじめた以上、やりつづけなくちゃいけなくて。しかも、そもそも「ウケ」がいまいちだったんです。
──:
最初の反応で「あ、思ったほどウケてない!」となったんでしょうか。
清水:
なったなった(笑)。そんで「あと17分、これ、どうやってつづけるんだ?!」と思いましたよ。でも自分としては「せっかくあれだけのお金と時間をかけてきたんだし、このままやらなきゃもったいない」と思ってしまいました。
だからね、このとき得た教訓は「『もったいない』って、ホンット、思っちゃいけない」ということです(笑)。
──:
おおおー。
清水:
だってそうでしょう、どんなことでもそうだと思うんです。
──:
いやぁ‥‥おっしゃるとおりです。私の仕事のでも「引き返せない、ダメだとわかっていても」というものが数個ありまして‥‥。
清水:
あるでしょう。でもね、それまでどんなにがんばっていたとしても、「ダメだ」となったら途中で方針を替えるべきです。「オペラ銭形平次」を経た私は、人の意見はすぐに聞くようにしています。すぐにです(笑)。
──:
「ちょっと長いですよ」とか。
清水:
「言いにくいけど、似てない」とかね。
──:
「似てない」と指摘する方がまわりにいらっしゃるのは、ラッキーなことですね。とはいえ「似てない」と言われたらショックではありませんか?
清水:
まぁ、うれしい気持ちはしません。しかも、それはちょっと真実だからね。
──:
真実はこたえますね(笑)。
清水:
自分でもうすうすわかっているところに、背中押すなよ(笑)という気持ちになります。でも、そんなことよりも「すぐに意見を取り入れる」ことのほうが大事です。
──:
以前、矢野顕子さんにお話を伺ったときに、「その方の顔と名前が一致しなくても、声を憶えていることがある」とおっしゃっていました。「あ、この声の人だ、知ってる知ってる」ということがあるそうで。
清水:
矢野さん、さすがですね。耳が違います。
──:
さらに、美術家の横尾忠則さんにインタビューしたとき、「話をしているときは、目の前の人の顔をなぞって頭の中でスケッチしていることもある」とおっしゃっていました。
清水:
うわぁ、そうなんだね。
──:
清水さんは骨格も声色もちがう方のモノマネを、憑依するようになさいます。清水さんはマネをする対象の方の、どんなところを印象深く感じておられるのでしょうか。
清水:
私は心のなかで、しょっちゅういろんな人に「なっている」んですけど、おそらくその人を味わうときに最も手がかりになるのは、矢野さんと同じかもしれないけれども、声です。「人の声判断」みたいなことを、しょっちゅうしています。ほんとに、「人は声なり」なんですよ。つまり、声にすごく「その人」が出るんです。たとえば菅野さんは、間違ったこと、あんまりしてこなかったよね?
──:
え、そうでしょうか。
清水:
これまでものを盗んだりとか、人を殺したこともなさそうだし、まぁ、そんな人、いないか(笑)。
──:
はい、あまりいないと思います(笑)。でもそうかぁ、「人は声なり」なんですね。
清水:
そう思うことはあります。性格やこれまでの歩みが、すごく声に出るんですね。知的なことが好きなのか、ざっくばらんなことが好きなのか。「こうなりたいな」という気持ちが、声や話し方に出てくるんですよ。
──:
糸井重里のマネは、できないでしょうか。
清水:
糸井さんは「公表」したことはないですね。
──:
え‥‥ということは、心の中では「なって」おられる‥‥?
清水:
ええ「なっている」ことはときどきあります。
──:
ホントですか!
清水:
なっているというのはつまり‥‥どう言ったらいいかな、「糸井さんだったらこう考える」とか、「糸井さんはいまごろこんなことをしている」とか、そんな感じで「思う」ということなんですよ。「糸井さんはたぶん、少年時代はこんな感じだったんだろうな」とかね。そんなふうに思うこと、ありますよ。
──:
モノマネというのは表層的なものじゃないんですね。たとえば黒柳徹子さんだったら「こういう状況で徹子さんだったらこう言うだろうなぁ」とか。
清水:
そうそう。そんなふうに勝手に想像するのがわりと好きです。
──:
それは、テレビの中の徹子さんだけじゃなくて、「こういうものを食べたときの徹子さん」とか「家にいる徹子さん」「20代の徹子さん」という感じで、いろんなケースに置換して考えるということですよね。
清水:
うん、もちろん気まぐれにね。でもそれは、みんなやってるよね?
──:
やってないです(笑)。
清水:
やってないの?
──:
ぜんっぜん、やってないです!
清水:
ハハハハ。
──:
そうか、さすがだな、すごいなぁ。
清水:
それはもう、私は日本中の少女がやってることだと思ってました。高校時代に「そうでもないんだな」と知りました。
──:
だから大竹しのぶさんのマネでも「実際には大竹さんはそんなことは言わない」ということも、清水さんはセリフとしておっしゃるわけですね。
清水:
私は無責任にいろんなことを想像するのが好きなんです。しかしそれを公表して表現するとなれば、やっぱり少しはみなさんからの共感が欲しい。ですからそこからは「共感してもらうための表現」が必要になってくるんです。
──:
ある意味、わかりやすくして。
清水:
そうそう。
──:
その切り口にも、センスが問われるんですね。
ここで3問目の実話クイズです。長いキャリアをもつ清水さんですが、あるときマネージャーさんからかけられた言葉が、その後の清水さんを長く助けることになりました。それはどんな言葉だったでしょうか。
A
「客層によってネタを変えてくださいね!」
B
「笑顔を忘れないでくださいね!」
C
「途中で飽きないでくださいね!」
D
「気負けしないでくださいね!」