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2024年4月3日 第178号
メールマガジン「ほぼ日通信WEEKLY」は毎週水曜に、受信希望の方にお送りしています。このたび177号~182号は特別に、WEB公開版を作成することになりました。恩田陸さんのインタビューをおたのしみください。
本日は第2回の更新です。
ここだけのお話
ほぼ日通信WEEKLYオリジナルの読みものです。
~恩田陸さんインタビュー
本を読むたのしみは。
vol.2 芸術に「納得」はない。
作家の恩田陸さんにお話を伺いました。最新作はバレエがテーマとなっているのですが、最初の1行を書きはじめるまでに6年以上かかったそうなんです。


恩田陸(おんだ りく)
1964年、宮城県生まれ。小説家。1992年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞と第2回本屋大賞を受賞。2006年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞、2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞、2017年に『蜜蜂と遠雷』で第156回直木賞と第14回本屋大賞を受賞。最新作は2024年3月に発売された『spring』。

──:
恩田さんの新作『spring』には、カッコいいバレエダンサーがたくさん出てくるのですが、その人の「ひとり語り」もまたカッコいいですね。実際にはどのようにして書かれるのでしょうか。

恩田:
それはもう、なりきって書いてます(笑)。

──:
いろんな人たちの考えや行動をなぞることも難しいと思いますが、題材となったバレエももちろん、そうとう蓄積がないと書けないですよね。準備に時間をかけられたのも、うなずけます。


恩田:
今回の作品は、とにかく「バレエを観ることから」でした。ある程度の「量」を観ないとわからないことが、ものすごくたくさんあったので。なかなか連載をはじめる踏ん切りがつかなかったというのが正直なところです。取材をはじめてから何年も経ってから、ようやく書き出して‥‥。

──:
そんなに何年も。


恩田:
バレエを観はじめて6年ほど経ったときにも「まだ無理だ、まだ無理だ」と思ってました。そこから数年、さすがに「もうそろそろ書かないとまずいかな!」みたいな感じになりまして。

──:
6年は焦りますね。


恩田:
やばかったと思います。でもね、芸術っておそらくみんなそうですが、「納得できた」と思うことなんて、たぶんないんです。だから「まだ納得はできてないけど、そろそろ書こうかな」ということになり、書きはじめたのが、4年前。

──:
連載がはじまると定期的になりますから、ノンストップで。


恩田:
そうなんです。でも「連載40回で終わる」ということは決めてました。『spring』は4章構成になっていて、1章を10回の連載でまとめています。それも、最初から守ろうと思っていました。

──:
前もって決めていたのは、そのくらいでしょうか。


恩田:
最後に踊る作品は決めてました。あとはほとんど白紙。

──:
これほどの長い作品、プロットやあらすじがあったわけではなく?


恩田:
はい、ないです。決まってない。

──:
各章の話し手も、書きながら考えていかれたのでしょうか。


恩田:
1章はスタートですので、予定どおりでした。2章もほぼ決めてました。3と4はぜんぜん決まってなくて。

──:
最後の4も?


恩田:
4もです。

──:
ひぃえええ。


恩田:
(笑)連載しながら取材はずっと続けていて、バレエもたくさん観ていたので、連載途中で発見したこともたくさん入れていきました。だからそういう意味でも、ほんとうに「書きながら」ずっと考えていました。作品を最後まで見通せた、なんてことはぜんぜんなくて。

──:
うーん、読んでいてそんな感じがしないです。すごい完成形だと思います。


恩田:
いやいや、ほんとにそうなんですよ、書きながら考えるんです。

──:
恩田さんは『spring』以外の作品も、書きながら考えるほうが多いでしょうか。


恩田:
私は、だいたいそうです。逆に今回は「40回で終わる」というのが決まっていたので、それがめずらしいくらいですよ。



──:
『spring』では、作中劇が出てきますよね。


恩田:
はい、たくさん出てきます。

──:
あれらは実在の作品ではなく、すべて恩田さんが創造なさったもの‥‥なんですよね。


恩田:
そうです、はい。

──:
元ネタがあったり、オマージュだったりするのでしょうか。


恩田:
そういうわけではなく、私が勝手に、妄想で作った作品です。

──:
私は、その作中劇をまるで「観た」かのように感動しました。

恩田:
わぁ、ありがとうございます。

──:
それ単独でも、そのまま別の作品になるようなすごみがありました。あの舞台ひとつ考えるだけでも大仕事ですよね。

恩田:
ありがとうございます。でも、主人公が作る作品を勝手に想像するのって、この小説を書いているあいだで唯一たのしかったとこなんですよ(笑)。

──:
唯一!


恩田:
まぁ、作中作を書くのもわりと大変だったんですが「あの曲を使って、こんな踊りにして、こんな作品になるんだろうな」と考えるのは、たのしかった。「こんなバレエがあったらいいな」と思いながら書いていました。

──:
私もあの作中バレエはぜひ観てみたいです。恩田さんはこれまで舞台演出のご経験が、あるわけ‥‥じゃないですよね。


恩田:
ないです、とんでもないです。

──:
「どうしてあれが書けるのかな?」と、いま、とても思っています。


恩田:
それも妄想です。「こんなのあればいいなぁ」と、それに尽きます。

──:
作中作にのめり込んでしまい「すごいな、この作品」と思って読みすすめて我に返ると「これも作品だけど、こっちが恩田先生の物語の本筋だった!」と、何度も妙な気持ちになりました。

恩田:
「どういうものを作るか」という部分はまさに、主人公の個性になるところだと思うので、そのあたりの描写は「いっぱい出そう」とは思っていました。

──:
‥‥映画でも小説でもそうだと思うのですが、読者というのは最初はとっかかりがないと思うんです。

恩田:
そうですよね。

──:
それが、どのポイントで引き込まれて説得されていくかは、人によって違うと思います。私は、この「作中の作品のすばらしさ」でした。この主人公の実力が「すごいな」と感心してしまって。

恩田:
いやぁ、そう言っていただけると、とてもうれしいです。

──:
小説の中に作中作がいくつも出てきて、それをまた、異なる人が演じたり語ったりします。しかしほんとうはすべてを「恩田陸さん」というひとりの作家が生んでいるわけですよね。

恩田:
まぁ、ほんとうにすべてが私の妄想なんですけれども(笑)、冒頭から、バレエを観たことがない方にもわかってもらえるように、バレエ自体に魅力を感じてもらおうと思って、書いていきました。



恩田陸さんへのインタビュー、次回につづきます。 次回のWeb版掲載は1週間後の予定です。
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写真:金川晋吾

恩田陸さんの新著
『spring』(スプリング)

8歳でバレエに出会い16歳で海を渡ったある少年を中心に、ひろがっては集結していくストーリー。いつもとらえどころのない視線で彼が見つめようとしていたのは「この世のカタチ」だった──物語に次々に登場するのは、彼と同時代に生きた4つの視点。芸術とは何か、創作とは何か。何度でも読みたくなる、構想・執筆10年、恩田陸さん渾身のバレエ小説です。

今週の一枚
やぁ、カワイコちゃん。

しろすけさん

顔をせばめながらも笑っている、食後のくつろぎタイム。

しろすけさんのドコノコブック
最近の「今日のダーリン」をご紹介
糸井重里が毎日書く ほぼ日目次ページのエッセイです。
大きな怪我とか、大病をしたスポーツ選手が、治療や療養、苦しいリハビリに耐えて復活するけど、このことのすごさって、なかなかわかられないだろうな。もちろん、ぼくにもわかってなんかいるわけはないけど、「さぞかし」ということだけは思ってるんだ。
平凡な風邪を引いたっていうだけだって、いやなものだし苦しいよね。突き指をしたとか転んで捻挫したとかだって痛い。ちょっとした手術なんていっても怖いしさ。ああ、そうだ歯医者さんだけでも怖がる大人も多い。
そういうことをちょっと思い出したら、日本とか世界の舞台で活躍するスポーツ選手が、大病したとか大怪我したとかっていうことは、生活できる「ふつうにもどる」のが成功じゃないからね。あらためてまた国内で優勝するとか、世界で活躍するとか、超人のようなものに「もういちどなる」のが成功でしょう。実にまぁ、とんでもないと思わない?
だけど、それをやってのけている選手は、よくいますよね。うん、身体の怪我や病気だけじゃなく、メンタルを病んだりする場合だってあるからなぁ。ニュースにはならないところで、家庭の事情だとか、職場とかの人間関係だとか、チームでの問題だとか、そういうこともたくさん抱えているかもしれない。それでも、新聞記事的にいえば「不死鳥のように甦る」選手がいるんだよなぁ。
すごいなぁ、と大きな敬意をもって見てたんだけど、このごろは、もうひとつ思うようになったんだ。ああいう復活の物語って、それを支えている人がいる。いまごろだけど、そのことに気がついたんだよね。手術に成功した、リハビリはきつい、病気の前以上のトレーニングや体力づくり。そういうことのいちいちに、医療関係の人や、コーチ、トレーナーたち、食事やこころを支えてくれる人たち、さらには経済を応援してくれる人、いいライバル、声援をくれるファン、話し相手…。選手ひとりじゃなく、たくさんの「チーム」が本気で、復活して活躍することを信じて、力を集めているんだよね。
その「チーム」の「目に見える代表」として選手がいる。だから、あんなに必死になれるし、よろこべるんだよな。復活した選手への拍手は、チームへの感謝でもあるんだ。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
感謝がエネルギーになるし、感謝がタフなこころをつくる。


──2024年3月27日の「今日のダーリン」より
糸井重里の
ひとことあとがき
いままでも、たくさんのスポーツマンやアスリートのことを知ってきて、リハビリの「すごみ」をいつも感心していたんですよね。で、ここにきて、あらためて池江璃花子さんのパリ五輪出場のニュースなんかも入ってきて、書きたくなったことでした。「じぶんのために、こんなにたくさんの人が誠意をこめて力を貸してくれている」って、ひとたび実感できたら、だれでも「いい人」になっちゃうしかないよ、と思ったんだよね。「感謝」って、礼儀じゃないんだよな。「感謝」って「感動の交流」なんだよね。「感謝」って、それはもう、爆発しちゃうようなエネルギーなんだよね。
(糸井重里)

今日の「今日のダーリン」もぜひごらんください。
※糸井重里の「今日のダーリン」は、ほぼ日刊イトイ新聞で毎日更新しています。
いまのほぼ日
おすすめのコンテンツを紹介します。
いまのほぼ日、どうなってる?
読みのがしたら、もったいない。
大阪へ行って、戻る。たのしいぞ。
嘘のニュースを作りつづけて20年、「虚構新聞」の展覧会が、4月8日(月)まで大阪で開かれました。その会場に、なんとほぼ日のデザイナー「かとう」がデザインした壁紙が展示されているらしい。そこで担当の「ひらの」が「かとう」を誘い、テキスト中継しつつ大阪へ向かいました。虚構新聞をおひとりで作りつづけるUKさんの、ウィットあふれる嘘センスがいつもながらの輝きを発し、ペラペラキャラとたんたんキャラのほぼ日担当2名がナイスハーモニーを醸す、味わいぶかい中継となりました。大阪の空気感もいいし、たのしいぞ。
眠りがだいじ、とは聞くけれど。
「ねむれないくまのために」のコンテンツでは、快眠セラピストの三橋美穂さんにお話をうかがうシリーズを連載してきました。本日の更新で完結。「眠りはだいじだよ」とよく聞きますが、最終回は「眠らなかったらどうなるのか」を具体的にお訊きしました。まさか朝6時に起きた人が夜の9時には酒気帯び状態になってしまうとは‥‥。私(菅野)は毎夜9時に眠くなってしまう日々がつづいていたので(そして夜中に目が覚めてしまう)、ハッとしました。「年齢と睡眠」の回の「早く寝ないようにするコツ」も参考になりましたよ。
ほぼ日のページへ

今週のおたより
恩田陸さんの登場に驚いてくださったみなさま、メールをありがとうございます。 すでに3刷重版が決まったそうです。さすがです!


恩田陸さま! だいすきです!『spring』、昨日本屋で買って、チョコレートテリーヌを切るように少しずつ読んでいます。菅野さん、恩田さまを呼んでくださってありがとうございます!
この春はほぼ日に
草野さん 、恩田さんと、自分の長年好きでいる人たちがつづけてあらわれ、とてもうれしいです。
(さざなみ


「小説で音楽を書く」むずかしさ。私は音楽が好きなので、これ、すごく感じます。1本のライブレポートを読むのも、自分で書くのも、なかなかこれだ! と感じるものに行き当たらない。文字で伝えるより、実際に音楽が演奏される場に身を置いたほうが、何十倍もリアリティを感じられるのに、と、もどかしくなることがあります。それを小説で、しかも動きもあるバレエを描写してしまう恩田さんのすごさといったら、逆にあまり想像したくないかもしれません(笑)。10年もの取材を通じて、バレエの世界観にくわしくなっていく。恩田さんの取材のようすや考えていることも知りたいな、と思いました!
(c


恩田陸さん、背筋のピシッとした少年のような文体が好きです。バレエになじみがないので、興味を惹かれました。新刊で買って読むリストに入れました。
(タイ ライ サム


あまり読書家ではないのですが、今回から恩田さんということで、どんなふうに作品を書いていらっしゃるのか、知らない一面が見れるかなぁとたのしみです。あと、お写真が金川さんなのも見逃していないですよ。
(ほ

よくお気づきになりました! 恩田さんインタビューの写真担当は、第162号で「あいすもの」を執筆くださった、金川晋吾さんです。


私も小説を読むのが好きです。でもしばらく読んでいないことに気づきました。古賀史健さんの『さみしい夜にはペンを持て』以来でした。恩田さんの『spring』読みたいと思います。ドラマは『舟を編む』を毎週たのしみにして観ています。確かに「真実は小説より奇なり」ですが、それでも小説も読みたい、映画やドラマも観たい。そして感動したり考えさせられたりです。
(はればれ

ほんとうは自分のストーリーだけでこりごりなはずなのに、さらに別の物語で泣いたり笑ったり、ですね。恩田さんの今回のインタビューの後半にその話題が出てきますが、はればれさんのおっしゃるとおり、自分の線上にあることとはまた別の軸を味わう行為が、私たちには必要なのかもしれません。



読者さんからのメールの中に、玉縄桜のことを書いていらっしゃる方を見つけて、とても近い範囲にお住まいではないかと拝察いたしました。最近、通り沿いの桜の前に新しい説明看板を見つけて、早咲きのソメイヨシノから玉縄桜が生まれた、と説明があり、そうなんだ、と今年知りました。ほぼ日ファンの方がお近くにいらっしゃるのかもと想像がふくらみました。
(p

いま、このメルマガを読んでいる人が、あんがい身近にいらっしゃるかもしれませんね。ほら、隣にも、後ろにも‥‥。
私は「ファン」や「推し」という言葉とあまり縁がないな、と思っていました。音楽家や作家、美術家、映画監督に好む人はいるものの「入れあげる」ということがなかったのです。しかし尊敬する気持ちはすごくあって、この延長のごく近いところに「推し」の気持ちがあるのだろうな、と考えるようになりました。
数十年前、私は岡本太郎さんのコンテンツ担当になり、太郎さんの芸術作品を観てあるき、本もたくさん読み、いろんな方々にインタビューしました。すっかりTAROマニアのようになりましたが、自分の仕事のひとつでもありましたし、心酔しているのとはちがうな、と思っていました。
あるとき、旅先の混み合った場所で、多くの人が苛つく出来事がありました。暗いムードになったとき、ある方がほんのちょっとだけ気分がよくなる行動をしたのです。見ると、その人のリュックには、太陽の塔(岡本太郎作品)のキーホルダーがぶらさがっていました。「ああ、ああ、わかるよ。この人、太郎ファンなんだ」と思って、仲間であるかのような気持ちになりました。そしてそれにならい、私もまわりの方にゆずる行いをすることができました。さらにキーホルダーの主に「太陽の塔ですね」と声をかけてしまい、思いっきりキョトンと無言返しされてしまいましたが、それはそれ、これが私にとっての「推し」だ、とわかった瞬間でした。いまも喫茶店で隣り合った方がほぼ日手帳を持っておられると、太陽の塔のときのように、声をかけたくなります。
上のコーナーで「もしかしたらご近所に、WEEKLYを読んでいる方がいるかも」というおたよりを紹介しました。同じものに親しんでいて、しらぬまにつながっている。
このメルマガもいつか太陽の塔のキーホルダーのようになれたらいいなぁと夢見ます。
来週の配信は4月10日、春本番です。ではまた。(ほぼ日 菅野綾子)


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