Hobo Nikkan Itoi Shinbun
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン ゼネラルマネージャー塚越隆行さん✕糸井重里 対談
第5回 自分の声が自分に返る。
糸井 ディズニーは、もともと
ビジネスをソフトから働きかける方法で
やってきた背景があると思います。

例えば、ぬいぐるみを売るということで、
キャラクターをもっと
好きになってもらうことができます。
そしてキャラクターは、ぬいぐるみという形で
みんなの家に入っていけるわけです。

だってさ‥‥みんな、抱っこして寝てくれるんだよ?
俺なんかそんなことされませんよ。
「糸井さんはみんなに会いたがってる」といって
俺のぬいぐるみをつくれば
いいのかもしれないけど、ま、無理です(笑)。

そういうことを、ディズニーはずっとやってきました。
それをもっと思い出して、
「メディアが変わったからどうのこうの」
という狭い変化の説明をするだけじゃなく、
キャラクターやコンテンツの関わり方を
もっと考えたほうがいいと思ったのです。

「こんなものが新発売されますよ」とか、
「いまはアメリカではこんな新作をつくってますよ」
とか、そういうことをいっぱい知る広場のようなものを、
MovieNEXという、
総合表現の場で出せればいいんじゃないのかな。
すぐに銀座通りのような人通りは
できないかもしれないけど、
ちいさな小屋を建てるとこからはじめてもいい。
実は、ちっちゃな映画会社は、
そういうことをすでにやっています。

塚越 そうなんですよね。
糸井 ディズニーのような大きな会社になると
そのていねいさは、なくなるのが普通です。
だけど、喜ぶお客さんがいると信じて、
これからのプロモーション展開を
やっていくのがいいですよね。
塚越 それはいま、まさにぼくが
社内でみんなに
くちすっぱくして言ってることだったんです。
ぼくは糸井さんのおかげで
まったく、その整理がついたわけです。
「じゃあ、糸井さん、
 それを一緒にやりましょう」
って、次の瞬間、口から出てました(笑)。
糸井 でも、「それは遠慮しとく」つったの(笑)。
塚越 「なんでですか。
 そこまで教えてくれといて、
 ねぇ、糸井さん、なんか手伝ってよ」
糸井 「だって俺はいま、よその仕事はしてないから、
 よしとくよ」
と言ったんだけど‥‥
カレーのあとにお茶飲んでても、
塚越さんは、ずーっと
「なんか、できる気がする!」と言うわけです。
塚越 ぼくからすれば、
新しいコンテンツの楽しみ方をつくって
広げていくということをしたいわけだから、
それをするには
糸井さんがいちばんいいって、もう決めてた。

糸井 会いたがってる場を
いっぱいつくることなんだよ、
そしてそこで商売をしたい人はいっぱいいるんだから、
塚越さんがやればいいじゃん、
俺はもう自分の仕事に戻るよ、
コーヒーもおいしかったし、みたいな感じで
店を出ようとしたら。
塚越 そしたら。
糸井 会いたがってる場を
いっぱいつくることなんだよ、と
自分が言った声が、自分に聞こえてきたの。
「そうだよ、会いたがってる場を
 いっぱいつくることなんだよ!」
塚越 ‥‥って、糸井さんが言ってね(笑)。
糸井 「塚越さん! ひとつあるよ。
 まだ海のものとも山のものともつかないけど、
 第1号議案みたいなアイデアが
 ぼくらのなかにもあるんだったよ」
と言いはじめた。
塚越 つながりましたね。
糸井 「いま、気仙沼の山の木に
 ツリーハウスをつくろうとしてるんだけど!」

塚越 うん。即座にぼくは、おもしろそうだ! と
乗り気になりました。
ツリーハウスと聞いただけでわくわくしますよね。
ある程度お話をうかがって、
最初のほうは、ツリーハウスで映画館をつくろうか、
ということに発想が行きました。
糸井 だけど電気も要るし‥‥。
塚越 技師も要るし‥‥。
糸井 あきらめました。
塚越さんが考えようとしていた
MovieNEXのコミュニケーション広場のような計画も
ゼロに近くて、
ぼくらのツリーハウスも
ざっくりした場所だけが決まってる、
というくらいの話でした。
どっちもヒヨッコだけど、
「はじめてやったこと同士」シリーズですから、
それはお互いさまです。
塚越 「可能性はあるね」
そういうとこだけ、握れました。
糸井 そして、効果のほどは、
お互い、まったくわかんないわけだよ。

塚越 そうそう、そこがポイントです。
糸井 はたして人がMovieNEXをどう評価するか、
東北のツリーハウスがメディアとして広がっていくのに
100年かかるかもしれないとか、
そんなことは誰にもわからない。
塚越 けれども、ぼくたちは
当人同士が話をしたから、
進めることができるわけです。
糸井 そうなんです。
やっぱりそこは
「やること全体をどう思うか」で、話をしたからね。
震災直後に比べれば、あたりまえですが、
被災地は落ち着いた状態にあります。
そのときに何をやればいいかといえば、
「人の出入り」が、普通の町として欲しいのだと思います。
しかも楽しいことで
人が行ったり来たりするということが大切です。

効果は読めなかった、しかし、ぼくは少なくとも
ツリーハウスをつくれば
「人は呼べる」という自信がありました。
塚越さんにも、MovieNEXについて考えている希望は
山ほどあるわけです。

そういうわけで、
気仙沼の「ツリーハウス1号」は
MovieNEXの協賛でつくりました。

最初に塚越さんが
すべてをのみこんでスポンサーしてくれた。
この意味は、思った以上に大きかったです。
ひとつのツリーハウスを建てるということが
いったいどういうことかが、まずわかりました。
塚越 ぼくらもこういうことははじめてでしたから、
「こういう組み方があるんです」と
社内外に示すことができました。
これは大きな意味をもっていたんですよ。
コンテンツそのものにふれて
いっしょにエンターテイメントをつくっていくのを
ローカルでやっていく。
そういうひとつの道が切り開かれたわけです。

糸井 「場所」というものをスポンサードする。
そこを、宣伝にもイベントにも
どう使ってもいいのですから
アイデアをまた、考えることができる。
塚越 そうそう。いいですね。
糸井 ツリーハウス1号の建設当時は
「モンスターズ・ユニバーシティ」の発売時期だったから
建設チームのつなぎに
「モンスターズ・ユニバーシティ」のロゴを
入れさせてもらったりして遊びました。
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンという会社が
あたらしいことをやろうとしたり
お客さんとなかよくしようとしてるかが
わかってもらえるとうれしいな、と
現場の人たちも真剣になっていてくれました。
そしてそれは、伝わったと思うし。
‥‥俺、こんなに
実際にやってるビジネスの話をしたことないなぁ。
塚越 でも、ホントの話ですもんね。
「モンスターズ・ユニバーシティ」のロゴ入りつなぎは、
MovieNEXのプレゼントにも使ったら、
大人気でしたよ。

(つづきます)
2014-02-25-TUE
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