〈答が欲しいなら 君も問いかけてみるといい〉 「先刻から訊いてるじゃないか あんたは何者なんだ 何をしにここへ来たんだ?」 男が落花生をつまんで口に入れた 旨そうにビールを飲んだ だが言葉はない 「あんたもしかしてキムさんの劇団の人?」 頭を左右に振った 「どうしてここを知ってるんだ?」 黙ってうつむいている 威圧感はないが無言が私を苛立たせる 「用がないなら出てってくれ」 男がすっと立ち上がった 思わず身構えたが 一礼しただけで男は出て行こうとする 「ちょっと待てよ」 振り返って男が言う 〈問いかけることで僕は答えていた〉 痰がからんでいる 咳払いした 〈僕が答なんだ 行くぞ 君も来るか?〉 好奇心が湧いた 携帯だけ持って並んで外へ出た 男はゆったりと大股で歩いていく チワワを散歩させている女とすれ違った 川にぶつかると左に折れた 駅とは反対方向だ しばらく行くと小さな空き地があった 草が茂っている 〈ここだ〉 男は草の上にあぐらをかいた 立ったまま私は男を見下ろした ここに何か特別な意味があるのか 折れ曲がった段ボールで囲って 青いビニールをかぶせたものが目に入った 私の視線を追っていた男が言った 〈安心したかな ホームレスと分かって〉 つまらない落ちだ 死ぬまでせこい自分史を生きているがいい 憎まれ口を叩きたかったが抑えた 挨拶する義理はない 黙って帰るほうへ歩き出した 〈ビールをご馳走さま〉 かまわず歩いていると うしろで男が歌い出した 言葉は分からないが哀しげな調べだ 西アフリカあたりの歌だろうか 心の中で言った 歌うだけか あんたは コオロギみたいに? 正面から西日が目を射た 携帯が鳴った