「訊きたいのはこっちだ いったい何のつもりなんだ!」 からだが重力を感じない 気持ちに濃さがない 目の前の男は現実なのか夢なのか 目をつぶりまたあけてみた 男は消えていない なんだか急に拍子抜けした 〈映像アーカイブには 今年の紅葉がある 去年の紅葉も 一昨年の紅葉も おそらく一昔前の紅葉も やがて来年の紅葉も 君は見るだけか?〉 そうだよ見るだけだよ 見るだけで何が悪い 思ったが口には出さなかった ひょっとしてテレビ関係か どこかにカメラを隠してるのか 何と言ったかな あの番組 「びっくりカメラ?」 かすかに笑ったように見えた 男がテーブルのグラスを手にとった 〈何本の人の手を経てきたのかこれは その前にどれだけの時間を経てきたのか このどうでもいい品物の ほんとうの源をどこまで辿れるか もちろん素粒子レベルにまで遡って〉 答えるつもりはさらさらないが 哲学はやめてほしい 男がグラスを突き出した 思わずビールを注いだ 私は何をしているのだろう 見も知らぬ闖入者に 〈ありがとう〉 一口飲んで男が初めて私の目を見た 〈貨幣は一個の物だが その働きは波動だ 理性はともすれば粒子化しようとするが 本来は波動だ 君は考えるだけか?〉