あらためて、福田利之さんのこと。
読者のみなさんにはすっかりおなじみ、
イラストレーターの福田利之さん。
今回あらためて、お時間をいただいて、
インタビューさせていただきました。
そしたら、まだまだ、いろいろと、
知らないことがありました。
たとえば、福田さんのお父さんのこと。
著名なカメラマンで、
あの上田義彦さんのお師匠だったって、
ご存知でした?
福田利之さんのイラストと人の魅力が、
あらためて伝わったらと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。
福田さんへは、初インタビューでした。
このインタビューは、2018年4月〜5月に
武蔵野市立吉祥寺美術館で開催された
『福田利之展|吉祥寺の森』会場で収録させていただきました。
第4回
父・福田匡伸さんのこと。
写真
──
もう5~6年前に
写真家の上田義彦さんを取材したとき、
はじめて知ったんですが‥‥。
福田
あ、はい。
──
上田さんが
有田泰而さんに弟子入りなさる前には、
福田さんのお父さんのところで
写真の修行をされてらっしゃった、と。
福田
そうなんです。上田さんの大阪時代に、
1年くらいいらっしゃったんです。
──
何か覚えてることって、ありますか?
福田
会社の人と社員旅行みたいなものに、
行ったことがあって。


父親は「スタジオノブ」って名前で
写真の会社をやっていて、
カメラマンやアシスタントをはじめ、
社員も何名かいたんです。
──
そこに、若き上田さんが。
写真
福田
そう、奈良県の十津川に行ったとき、
上田さんが
ものすごい大きな石を抱えて、
吊り橋を渡っていた記憶があります。
──
何されてたんですか、それ。
福田
いや、それはわからないんですけど、
その光景を、よく覚えています。
──
そのとき、福田さんは‥‥。
福田
小学校かなあ、中学生くらいかなあ。
──
では、そのあとに、
上田さんは有田泰而さんのところへ。
福田
そのあたりの経緯は、
僕はぜんぜん知らないんですけど。


とにかく、あの日、
大きな石を運んでいた上田さんが、
あの有名な
上田義彦さんだったってことには、
だいぶあとに気づくんです。
──
若いころにニューヨークに住んで、
有名な『LIFE』などで写真を撮っていた
写真家であり、
静物写真の道では第一人者とされていた、
お父さんの
福田匡伸(まさのぶ)さんって、
福田さんから見て、どんな人でしたか。
福田
そうですね‥‥さっき横尾忠則さんから
いちばん影響を受けたって言いましたけど、
本当は、いちばんは、父親だと思います。
写真
──
おお、そうですか。
福田
はい。結局は。
──
お父さん、商業写真の方ですよね。
福田
そうですね、オリジナルの自分の作品も
つくっていましたけど、
サントリーだったり、松下だったり。


なので、そういう撮影に使う小道具が、
たくさんある家でした。
古道具とか、アンティーク調の道具が。
──
なるほど。
福田
そういう環境だったので、
いま、自分が古いものが好きなのって、
父親の影響でしょうし‥‥。
──
ええ。
福田
そういう親が言いがちなことですけど、
好きなことをやれ、
他人とちがうことをしないとダメだって、
ちっちゃいときから、
そのことばっかり言われて育ちました。
──
なるほど。
写真
福田
でも、そういうふうに言われ続けると、
逆に「いや、ちがう」って反発して。


子どもって、そうじゃないですか。
だから自分は、
ふつうのサラリーマンになりたいって、
ずーっと思ってたんです。
──
え、そうなんですか。
福田
当時は、父親のことを
家族よりも仕事を大切にする人だって
思っていたこともあり、
自分は、そういうふうにはならない、
世間はそんなに甘くない、
きちんとした会社の社員になって、
ちゃんと給料をもらって、
家族を大事にしようと思ってたんです。
──
へえ‥‥。
福田
結局、そうはなれませんでしたけどね。


自分も、こうやって、
父と同じフリーの道を歩んでるわけで。
──
お父さんの写真については、
どんなふうに思ってらっしゃいますか。
福田
写真の詳しいことはわかりませんけど、
黒と白の使い方が、すごく上手です。


ひとつの作品をつくるあげるために、
強い集中力を発揮して、
ライティングひとつにしても、
徹底的に突き詰める、
ディテールにこだわっていた人でした。
写真
──
福田さん、わからないと言いながらも、
すごく見てますね、お父さんのこと。
福田
陰影‥‥つまり黒の深さを操ることで
商品を際立たせたり‥‥
とにかく平面的な写真ではないんです。
──
お父さんと、作品論までいかなくとも、
それぞれの表現について、
互いに話したり、議論したりとか‥‥。
福田
それは、なかったです。


ふだん、あまり家にいませんでしたし、
わりに早く亡くなりましたし。
──
そうなんですか。
福田
ただ、当然、僕が絵を描いているのは
見ていたので、
イラストレーションだって
人とちがうことをしないとダメだぞと、
ずっと言ってました。
──
その言葉は、いまも残ってますか。
福田
残ってますね。


まあ、そんなこと言われたからって、
人とちがうことが
簡単に見つかるわけじゃないですが、
満足のいくものが描けても、
いったんは、疑うようにしています。
──
疑う?
福田
もっと別の方向はないかなあ、とか。


誰かと同じになっていないかな、
オリジナリティはあるかな‥‥とか。
写真
──
ちなみに、カメラの道に進もうとは
思わなかったんですか?
福田
思わなかったですね、まったく。
──
それは、どうしてですか?
福田
どうして‥‥そうですね。
たぶん、一生越えられないでしょうし。
──
みなさん、同じようなこと言いますね。


やっぱりそう思うものですか。
お父さんは超えられないって。
福田
思いますね。
──
お亡くなりになったのは?
福田
僕が30代の前半くらいのころです。
──
あ、自分と一緒です。
福田
ああ、そうですか。


それくらいの年齢で父親がいなくなると、
考えること、ありませんでした?
──
うちの父親は
自分とまったくちがう仕事をしていたので、
仕事の話って
あんまりしなかったんですけど、
もうちょっと話したかったなと思います。
福田
僕もそう思います。
──
お父さんの写真と
福田さんのイラストレーションって、
似ていると思いますか?
福田
似ているのかなあ。
似てるようで似てないんじゃないですか。


でも‥‥似てるところも、あるのかなあ。
──
お父さんの写真は、好きですか?
福田
うん、好きです。
写真
<つづきます>
2018-09-02-SUN
ほぼ日ホワイトボードカレンダー2019
ファイルポケットつき
のイラストも、福田利之さんのお仕事。
写真
ほぼ日ホワイトボードカレンダー2019では
卓上版を全面リニューアルしました。
何度も書いては消せるメッセージボードに、
紙片などを収納しておける
機能的なポケットを、組み合わせたんです。

【ファイルポケットつき】
という名前で、生まれ変わりました。
でも、他にない機能を備えた卓上版ですが、
やっぱり見ためも「うれしく」したい。
そこで、福田利之さんです!
すてきなイラストを描いていただきました。
森の仲間たちがカレンダーを彩ります。
ぜひとも、ごらんになってみてくださいね。