糸井とみうらの長い年月。

第4回 これからの半生は、取り戻したいです。
糸井 高校生のころからカセットに
自分で歌を録音しはじめて、
最初のファンが、おかん。
みうら おかんが台所で夕飯つくりながら
オレの曲を口ずさんでたときは、
さすがにこれはいかんと思いました。
糸井 「おかん」じゃなくて「いかん」だと。
みうら ええ、「いかん」だと。
糸井 で?
みうら とにかく、歌というものは、
反発することから生まれると
思っていた時期でした。
反発どころか、拍手が聞こえてくる、
家庭内から。
それは作詞活動に影響を及ぼします。
おかんが歌いやすい歌を作ってしまう、
自分をどうかと思ったり。
糸井 おかんの中に、女全部が入ってるんだよ。
みうら うーん‥‥
じゃあ、入ってるんですよ、
入ってるんですよ。
糸井 入ってるんだよ。

みうら だけど、それを認めちゃうと
全身が萎えるじゃないですか。
糸井 ああ、そうだね。
みうら ぼくは昔からずっと巨乳が好きです。
ほんとに好きなんですよ。
ほんとに好きなんです。
糸井 いま、巨乳のところ、小さい声で言ったな。
みうら だから好きだと3回言ったんです。
その原因は、おかんなんです。
糸井 ああ。
みうら 何年か前、実家に帰ったとき、
ものすごく大きいカップの
ブラジャーを発見しました。
前からうすうす気がついていたことなんですが、
ハッとして、そして、萎えました。
糸井 「しまった」と。
みうら 見なきゃよかったと思いました。
糸井 ああー。
みうら ぼくは去年、親孝行しようと思って、
いろんな場所に両親を連れていきました。
動物園に行ったとき、
うちのおかんのブラジャーが
ボワーンと、外れたんですよ。
糸井 おおー。
みうら それを、うちの親父がすかさず留めてました。
糸井 うわー。
みうら オレは気が動転して、
ブラジャーを留めるどころじゃありません。
親父は何回か経験があるみたいで、
フォローできるくらいになってまして、
スッと留めるんです。
そんときも、2萎えぐらいしましたけど。

糸井 過去にさかのぼって萎えちゃうよね。
みうら ぼくはこれまでいろんなことを
「青春だ」と思って、やってきました。
すなわち、いちばん好きなものから
離れていく作業が、人生です。
でも、近年はそれが裏返って
なかよくしてますよ。
抱きついてもいいくらい親となかよくしてます。
糸井 うーん、いろいろなことを知っちゃったね。
いやぁ、それは、人ごとながら、
想像すると、ジンとくるぐらい重いね。
みうら はははは‥‥。
糸井 オレはおたくのおかあさんには
会ったことはないんだけど。
みうら そうですよね(笑)、考えてみれば。
糸井 クッキーもいただきましたけどね。
みうら うちのおかんのクッキー事件(笑)。
糸井 うん。
クッキーの入ってる袋が曇ってるんですね。

「おかんのクッキー事件」──それは、
みうらさんが高円寺のアパートに
住んでいらっしゃった頃のお話です。
アポ無しで、バイクに乗って現れた糸井重里が
自分の部屋にあがりこみ、
「なんかおもしろいことないの」
「ふーん‥‥」
「飽きた」「次!」
をくり返す、そんな恐怖体験を
みうらさんはたびたび味わわれました。
「なんかないの?」と言われるたびに、
みうらさんは、
ティーバッグで淹れた紅茶を出し、
趣味のエロスクラップを
「ここまでできております」と出し、
おかあさんが実家から送ってくれた
手づくりのクッキーを出したりしました。
おかあさんのクッキーは
ポリ袋で保管されており、
その袋がクッキーの粉で曇っていました。
イトイは「まずい。もういい。次!」と
即座に告げました。
それが「おかんのクッキー事件」です。
みうら いまから考えると
ゾッとするようなことを
糸井さんには、いっぱいしてるんですよ。
これから半生は、もう
取り戻すようにやっていきたいです。
糸井 取り戻すように。
みうら なのにオレは、
同じティーバッグを使って
紅茶を3杯も出して。

糸井 紅茶はね、
悪くなったらどんどんお湯になるわけです。
だから、なんの問題もないんだよ。
ひとつのティーバッグで
8杯淹れても大丈夫なの。
最後はお湯で、
要するにゼロに近づいていくだけだから。
みうら はい。
糸井 でも、おかんのクッキーはなぁ‥‥。
つまり、それは愛情という問題に
突っ込まされていくことになるんだよ。
みうら そうですね。
糸井 「これをおいしいと思え」
みうらも知ってるように、
そういう社会と
オレはいままで闘ってきたわけだから。
みうら はははは。
糸井 みうらのロックが、
好きなものから離れていく青春だったとすると、
オレは社会の
「こうであるはずだ」というものと、
闘ってきたわけです。
みうら おっしゃるとおりです。
糸井 それをみうらは、こう言ったんだよ。
「なんだったら、お土産で持って帰ってください」
みうら はい、はい。
糸井さんの闘いを知っていながらね。
糸井 「返す。もう、お母さんは
 クッキーつくんなくても、いいと思う」
みうら ええ。ホントに、そこまでおっしゃいました。
  (つづきます)

2009-08-06-THU