糸井とみうらの長い年月。
第3回 おまえ、なにかまちがってないか。
みうら ぼくは、音楽については
いったんあきらめたんですけど、
あるとき、友人の石井くんが、
糸井さんの事務所に入社することを聞きまして
「やった、この出会い。
 これは、オレの時代が
 来たのかもしれない」
そう思っちゃったんです。

「友人の石井くん」とは
みうらさんが大学時代に
同じアパートに住んでいた親友、
京都出身の石井基博さん。
元糸井重里事務所の社員、
「ほぼ日」乗組員の大先輩です。
いまも、ときどき事務所に遊びに来てくれます。
糸井 出会い、っつったって。
みうら 糸井さんに出会ったのは石井なのに、
自分だと勘違いしたんですよ。
だから石井に
「ぜひとも糸井さんに会わせてほしい」
と、ガンガンに言いました。
石井も「いいよ〜」なんて応えてくれて
やっぱりこいつはいいヤツだと
思ってたんですけど、よく考えたら、
ぜんぜんわかってないヤツでしたよね。
だって、石井は入社してすぐなのに
気軽に「いいよ〜」って言ってたから。
糸井 すばらしいよね、
そのへんの、君らの「あうんの呼吸」。
みうら それで、石井に
糸井事務所に連れてってもらって、
あの有名な「カセット事件」が
起こることになりました。
たしかにオレは糸井事務所で
何時間も自分の歌を流しました。
はじめはちょっと糸井さんが
聴いてくれてるような気がしたんです。

糸井 ははは。

「カセット事件」とは、
友人である石井さんのツテで
糸井重里事務所を初訪問したみうらさんが、
自作(作詞作曲&演奏&歌)のカセットテープを
えんえんと流したという出来事。
みうらさんの記憶によると、糸井は当時
「ネクタイを締めた人たちと打ち合わせ中」
だったらしい。
にもかかわらず、
ときどき自分で解説を語りながら
ノンストップで歌を流しまくったそうです。
みうら 糸井さんは会議をやってらして、途中で
「ちょっと! ボリューム下げて」
とおっしゃいました。
だけど、オレは
食らいつこうと思って、流しつづけました。
あとで
「おまえ、なにか、
 大きいことまちがってないか」
と言われて、
あれ? おかしいな、と思った──
それが、はじめての出会いです。
糸井 その日がね。

みうら 初日です。
糸井 初日に「テープ」ですから。
みうら 「マンガ」のほうがあとでしたね。
糸井 石井が、
「ぼくの友達で
 スーパースターになるって
 ヤツがいるんです」
と紹介したの。
思えばたしかに、
マンガでスーパースターには、
なんないよね。
みうら なんないですね。
糸井 やっぱりスーパースターは音楽で、でしょう。
だけど、それは誰にも通じてなかった。
石井もわかってなかった。
「なんで、マンガ描いてて
 スーパースターになるんだよ」
と訊いたときにも
「そのへんがおもろいんですよねぇ、あいつ」
なんて言ってたから。
みうら 糸井さんに会う前に、
例のヘンタイよいこ集会を見たから‥‥。
糸井 つまり、オレのことを
「この人は音楽の人だ」と。
みうら 思いました。
だって、糸井さんは
そのイベントの、トリだったもん。
トリがえらいに決まってるじゃないですか。
糸井 オレがやったバンドはトリじゃないよ。
みうら そうでしたっけ? トリに決まってますよ。
まぁいいや、とにかくそれまでは、
音楽の人は音楽をやる、
文章の人は文章を書く、
そう決まってる時代だったんです。
だからあのイベントはもう、
たいへんショックな出来事だったんですよ。
糸井 ま、音楽が人を
二枚目ぶらせるという話だよね。
なんていうの、セレナーデ?
つまり、求愛の歌。
みうら ええ、そうですね。
糸井 求愛はね、
みうらの原点ですよね。
見苦しいほど愛されたいんだ。

みうら そうです。
糸井 すべてセレナーデ。
みうら 「いっそセレナーデ」でなく。
糸井 ぜんぶセレナーデ。
  (つづきます)

2009-08-05-WED