東北の仕事論。気仙沼 藤田商店 篇
第2回 殻付きウニが自宅に届く。
──
藤田さんは、お父さまとおふたりで、
お仕事されてるんですか。
藤田
ええ、親父も71で、現役です。
──
ただ、藤田さんご自身は、
はじめは、ワカメの道には進まずに、
仙台のほうで、
料理人をやってらしたと聞きました。
藤田
そう、そもそもうちは、
漁業と海の家をやってたんですよ。
──
おうちの目の前の、海水浴場で。
藤田
砂浜で地引網体験をしてもらったり、
産地直売所をやってたり、
俺が高校生のころには、
海産物の宅配みたいなことなんかも
やりはじめて。
──
漁師の家なのに。
山田
今でいう「六次化」を、
かなり先んじてやってたんですよね。
──
ネットも何もない時代に、
今の藤田商店にもつながるDNAが、
育まれていたんですね。
藤田
タンクに水中ポンプで海水を揚げて、
ウニやホタテをそこで活かして、
道を挟んだ向こう側で炭をおこして、
買ってくれた人は、
その炭焼き台で焼いて食べてもらう。



そんなことも、やってました。
──
究極の産地直送っていうか。
産地で食べちゃう。
藤田
当時は、バブルの時代だったもんで、
週末を中心に、
たくさんのお客さんがきたんです。



俺もまだ、小学生だったんですけど、
チップとかも、ものすごくて。
──
チップ?
藤田
そうそう、坊主、これやるからって、
見たら5000円だったりとか。
──
週末ごとに、お年玉が!
藤田
そうそう、そんなお客さんが、
全国からいっぱい食べに来てました。



で、地元に帰っても、
こういうものを食べたいってことで、
宅配をはじめたんです。
──
海を、めいっぱい活用されて。
藤田
うん、焼き鳥とかも焼いてましたよ。
小学生のころから、海の家で。
──
キャリアがちがいますね。
藤田
親父は、結婚式の司会もやってたし。
──
え?
山田
そんなこともされてたんですか?
藤田
勉強したのかなあ、やってたんです。



へたすると、週2とか、月4回とか。
結婚式の司会で出てってました。
──
漁師さんなのに‥‥。
藤田
そんなこんなで、高校生のころには、
もう海の家を仕切ってましたし、
料理には、興味があったんですよね。
──
それで、まずは料理の道へと。
藤田
高校を卒業したら、
仙台の調理師専門学校に入って、
仙台で板前になって、
和食の料理人をやっていました。



で、同級生のみんなが
地元に帰ってくるタイミングで、
いっしょに帰ってきて、
こっちでも、
しばらく料理人をしてたんです。
山田
それ、何歳のときですか。
藤田
23、4くらいかな。
──
みんなが地元へ帰るタイミング、
というのがあるんですね。
藤田
まあ、大学を卒業する歳とかね。
地元で就職したりするので。



そういうのを見てたら、
なんか、地元で飲んでるほうが
楽しそうだな~と思って。
──
で、気仙沼にお戻りになったと。



料理人をお辞めになったのには、
何か理由があるんですか。
藤田
結局ね、カウンターに立っていて、
いいお客さん‥‥ま、たとえば
お医者さんだ何だって来て、
おすすめ出してよって言われてね。
──
ええ。
藤田
今日はこれですって出すものより、
仕事が終わって、
家に帰って食ってるもののほうが、
はるかにうまかったりして。
──
はあ‥‥。
藤田
なんか違うなあって思いが。
──
なるほど、ワカメひとつにしても、
おうちで食べるほうが、断然。
藤田
魚も、貝も、タコなんかもね。



むきたてのウニ丼を、
ふつうにパックに入って売ってる、
保存のために
ミョウバンに浸かってたウニと
くらべちゃうと、
どうしたって、
ぜんぜんレベルが違うんですよね。
──
そうなんでしょうね‥‥。
藤田
で、それくらいの時期になって、
これからは、ネット販売だぞーって。
──
時代がやっと藤田商店に追いついた。
山田
藤田さんは、もともと料理人だから、
厨房のようすも想像できるし、
料理人の気持ちもわかるんですよね。



そんな生産者、なかなかいないです。
藤田
料理長にお店の形態を聞いたりして、
こんなのありますよって、
素材やレシピを提案したりしてます。
──
ワカメやメカブのほかには、
藤田さんは、たとえばどんなものを。
藤田
ウニ、タコ、アワビ、それとサケを少し。



このあたりは、カキの養殖も盛んなので、
カキの仕入れ販売と、
夏場には、ウニ。自分でも採りますし、
買い付けもしています。
山田
藤田さんのところでウニを注文すると、
殻付きで届くんですよ。
──
殻付き?
藤田
届いた時点では、
まだ、トゲトゲが動いてたりしますよ。



もちろん、ウニって、割ってみるまで
中身の品質がわからないんで、
殻を開けて、
ちーゃんと身が入ってるのを確認して、
ワタだけ処理して送るんですが、
まだ届いた時点では、生きてるんです。
──
ふつうに食べてるウニとは、
どんなふうに、違うものなんでしょうか。



ま、ぜんぜん違うとは思うんですが。
藤田
雑味がないって言われますね。
で、磯の香りが強くて、味も濃厚だって。
──
先ほどから、ミョウバンという‥‥。
藤田
ウニをですね、そのままほっといたら、
2、3日しかもたないんです。



そこで、ミョウバン水につけておくと、
余分な水分が抜けて、
日持ちするようになるんです。
──
じゃ、賞味期限を延ばすために。
藤田
でも、そのミョウバンじたいの香りが、
薬品っぽい感じがあって。



つまり、ウニを食べるほうからすれば、
よけいって言うか、
販売する側の都合でやってることです。
──
ともあれ藤田商店さんにお願いしたら、
我が家にも、殻付きのウニが。
藤田
届きますよ、もちろん。



うちでは生簀でウニを活かしてるんで、
お客さまから、いつほしいって
着日と時間を指定してもらっています。
そこに、ピンポイントで配達してます。
山田
しかも「生簀」って、水槽じゃなくて、
容れ物を海に沈めてるんです。
──
じゃ、海にいるのと同じ状態だ。
藤田
ウニの「開口(かいこう)」と言って
採っていい日は、月に3回くらい、
朝の2時間くらいなんですけど、
海から採ってきたウニを、
海の生簀にはなして、
コンブなんかの海藻を餌として与えながら、
生かしておくんです。



で、注文が入った個数だけ生簀からあげて、
ご希望の日時に合わせて、
ピンポイントで届けています、生きたまま。
──
不思議ですよね‥‥ウニって。
どういう生物なんですかね、このひと。
藤田
何だっけ、棘皮動物?
──
ぼくらがおいしいといって食べている、
あの部分は何なんでししょう。
藤田
卵巣‥‥生殖巣でしょ。
──
ウニ本人は、何を食べてるんですか。
藤田
コンブをはじめとした海藻類の他にも、
魚とか貝類なんかも食べますね。



カゴ漁でタコを採るんですけど、
サバとかサンマを
エサとして入れておくんです。
そこにウニも入ってくるんです。
──
ええ。
藤田
そうすると、そのウニは、
タコのエサであるサバやサンマを
食べているので、
殻を開けると「脂玉」といって、
食べた魚が、
脂の玉になって入ってるんですよ。
──
あぶらだま! へええ‥‥。
藤田
つまり、ウニが食べたものによって、
ウニの味も変わってくる。



でも、個人的にはやっぱり、
コンブなんかの海藻を食べたウニが、
粘り気も出て、いちばんうまいな。
──
藤田さんは、海藻は何が好きですか。
やっぱり、ワカメとメカブ?
藤田
どうかなあ‥‥コンブもおいしいし、
フノリ、マツモもいいです。



ヒジキも、海苔も、うまいですよね。
──
ああー。おいしい海藻って‥‥。
藤田
あるんですよ、たくさん。



お好きな方は、
誰がどういうところで採ってるとか、
気にしてるみたいです。
──
つまり、それしだいで、味や品質が。
藤田
違ってきますよね、やっぱりね。
<つづきます>
2019-03-12-TUE