2015年11月、TOBICHI2にて開催された
「H.P.E.谷由起子 ラオスの布と手仕事展」
のイベントとして、谷由起子さん、岩立広子さん、
そしておふたりが敬愛する陶工の
鈴木照雄さんによる座談会がひらかれました。
近代化の波にもまれるラオスの「手仕事」の現在は、
谷さんにとって、希望と諦念とのふたつの波にゆられる、
とても不安定な状況。
そんななか、この仕事を続ける意味や、
「手仕事」の未来について、3人が語ります。
座談会といっても、丁々発止の会話ではなく、
ひとりずつが、じっくりと語るスタイル。
当日の雰囲気をなるべくそのまま、お伝えします。
  • 谷由起子さん

    1999年にラオスを訪れ、山岳少数民族に出会い、
    自給自足の営みでうまれる手仕事に感動、
    移住して、現地法人HPEをつくり、
    手仕事の布の製造・販売を続けている。
    「布のきもち。~あれから」
    「布のきもち。」

  • 岩立広子さん

    1960年代に染色作家として活動を始め、
    のちに染色工芸の研究家に。
    中南米やインドなどで「手仕事」の収集をつづける。
    「岩立フォークテキスタイルミュージアム」館長。
    「手仕事には未来がある。」

  • 鈴木照雄さん

    陶工。1948年山形うまれ。大学在学中に作陶を志し、
    工藝家・鈴木繁男さんに薫陶を受ける。
    装飾を排した素朴で力強い味わいは、
    民藝運動初期の雰囲気をもつと言われ、人気が高い。
    宮城県の栗駒陣ヶ森窯にて、
    粘土も釉薬の原料も地元で調達しつつ作陶を続ける。
    栗駒陣ヶ森窯

その1
岩立さんと鈴木さんのこと。      
2016-02-02

その2
布を見れば、谷さんがわかる。
2016-02-04

その3
ピカソもクレーもできなかったこと。    
2016-02-09

その4
それでも地球は回っている。      
2016-02-11

その5
進化する「伝統」。     
2016-02-16

その1
岩立さんと鈴木さんのこと。
今日は、私がほんとうに心から尊敬するおふたりと
一緒にお話しさせていただける機会を得て、
ほんとうにありがたく思っています。

まず、私から、おふたりのことを
簡単にご紹介させていただきます。
岩立広子さんは、世界の布のコレクションを
ずっと続けていらっしゃる方です。
お名前は昔から存じ上げていたんですが、
なかなかお目にかかるチャンスがなく、
じつは初めてお会いしたのは2年前。
まだ最近のことです。
岩立フォークテキスタイルミュージアムで
「カンタ」というインドの旧ベンガル地方の布の展示と、
岩立さんの講演会があり、それをお聞きしたのが、
私と岩立さんとの出会いでした。


初めてのカンタ・岩立コレクション
岩立さんのコレクションを拝見して、
お話を聞いて、もうしみじみ思ったこと、
改めて強く自分のなかで
確認したことがありました。

うちの仕事の原点というか、
もともとの村の女の人の手仕事の原点は、
岩立さんが集めていらっしゃるような布、
そこにあるんだ、っていうことなんです。

私が作っている布は、今は、
あくまでも商売として回している布ですが、
いったいここは何時代なんだろうって思うくらい、
「今」なんだけれども、昔の時代に近いような、
そういう人びとの力でつくられた布です。
村の人にその技術が残っていたのは、
20年、30年前ぐらいまで、
非常に閉鎖されていたからです。
今日、ここ(TOBICHI2)に
並んでいるものを作っている人たちは、
非常に素朴な村の、ふつうの女の人です。
ついこの間までは、自分たちの衣類を賄うために
糸になる素材を育て、糸を作り、
布を作って着ていました。

それが今は私と一緒に、もともとの仕事の延長として、
商売のための布作りをしています。
けれども、商売で回す布作りでは、
岩立さんが集めてこられたような布には、
まず、到達できないんですね。
けれども到達できないなりに、
そこを常に目標として見ながら、
仕事を続けないといけない。
それが私にとっては歯がゆく、
いまも、悔しいことでもあります。
鈴木照雄さんは、やきものを作る方です。
10年ほど前に、ある民芸品屋さんで
たまたま、鈴木さんの湯呑とお皿に出会いました。

何気なく買った湯呑でした。
鈴木さんのお名前も知りませんでしたし、
そもそも、作者が鈴木さんだということは、
ずいぶんあとになってから知ることになります。
それをラオスに持って行って、毎日使っていたら、
その湯呑の表情が
だんだんと、奥深くなっていきました。
そのうち、私の目には、
最近日本で作らたはずのこの湯呑が、
非常に古い時代に作られた
やきもののようにしか見えなくなりました。
どうしてこんなものが
今の日本でできるんだろうか。
その湯呑を見ながら日々考えていました。
鈴木さんの作であるということを知って、
日本で今生きている人がお作りになっているのに、
うちの村の人のようなもの、
そして、岩立さんのコレクションの布、
それに共通するものを感じるんですね。

鈴木さんには、どうしてこういうものができるのか。
それは、いまもはっきりわかってないんですけれども、
それは非常に私にとって大きなことで、
みんなが鈴木さんみたいなことができたら、
これからの手仕事にとって、
すごく大きな光だなと思っているんです。
ただ「そんなことができるのかな?」っていうことも、
同時に思うんですけれど。
2016-02-02-TUE
岩立広子さんが応援する
谷由起子さんのラオスの布展を
TOBICHI2で開催します。

岩立フォークテキスタイルミュージアム

第7回展
「インド北部の毛織物   ─ ヒマラヤ山麓、山の民の巻衣装 ─」

Woolen Textiles of North India 
― Wrap-around Garments in the Himalayan Mountains ―

2016年3月19日まで (期間中:木・金・土曜日 開館)

インド北部 ヒマラヤ高地、
カシュミール織物の逸品と、
ヒマーチャルプラデーシュ州の山の民の
手紡ぎ手織りの愛らしい巻衣装から、
沙漠地帯の遊牧民が陽除けのために纏うブランケットなど。
インドならではの羊毛の手仕事を見て頂きます。


岩立フォークテキスタイルミュージアム

住所: 〒152-0035 東京都目黒区 自由が丘1丁目25-13

TEL:03-3718-2461

サイト:http://iwatate-hiroko.com/index.html

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN