祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第5回
正義と悪のロールケーキ。

糸井 伸坊、どっち食べる?
ん?
糸井 白いロールケーキと黒いロールケーキ。
ふーん、黒いのはなに?
糸井 ま、黒っていうのはチョコレートだね。
白はホワイトチョコレート。
じゃ、黒いほうを。
糸井 伸坊がそうやって、
「悪の黒」を選ぶなら、
オレは「正義の白」を取ろうかな。
ははははは。
糸井 ‥‥いや、オレも悪に染まろうかな?
チョコレートが食べたいだけだろう。
糸井 いや、やっぱり、正義をいただきます。
ほら、君の皿に悪が。
そして、ぼくの皿に正義が。
おおげさだね。
いただきます‥‥うまいなコレ。
糸井 うん、うまい。
うまいね。
糸井 ほんと。
これは、なかなか‥‥。
糸井 あのさ、伸坊、
悪と正義をさ、こう、半分ずつにしない?
ふはははは。
糸井 ほら、ぼくら、人間だからさ。
悪も正義も両方あったほうが。
糸井 そそそそそ。
両方あるのが人間だから。
じゃあ、そうしよう。
糸井 人間だからね。
ウン、正義も悪くない。
糸井 悪も正義もうまい。
あのさ、この、
ホワイトチョコレートっていうのはさ、
そもそもチョコレートなの?
糸井 どういうこと?
だってさ、チョコレートなのに
ぜんぜんチョコレート色じゃないじゃん。
糸井 まぁ、そうだけど、
いいじゃないか、そんなこと。
いや、いいんだけどね、別に。
糸井 ホワイトチョコレートで有名な
「白い恋人」だって、
たしかに白いけど、「恋人」じゃないだろう?
え?
糸井 恋人でもないのに
平気で「白い恋人」って呼んでる人が、
どうしてホワイトチョコレートが
チョコレートかどうかを気にするんだ。
なんだ、その理屈(笑)。
糸井 そうじゃないか。
野放しでしょ、「白い恋人」のほうは。
ホワイトチョコレートがチョコレートかどうかより、
「白い恋人」が恋人かどうか気にしようよ。
なんだかわかんないけど、
オレが悪かった。
糸井 わかればいいんだよ。
む、この、悪のほうのロールケーキもうまいなぁ。
どっちもうまいねぇ。
糸井 悪のなかには、
ちょっとだけ正義が入ってるね。
ほんとだね。
一方、正義は正義だけだ。
糸井 だからつまんないんだよ、正義は。
伸坊、両方、食べた?
食べた、食べた、両方。
糸井 両方食べたオレらは、いい人だよ。
どっちもあるからね。
糸井 どっちもあるからさ。
(おいしかったみたいです。つづきます)
2014-06-19-THU
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写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN