谷川俊太郎 × 松本大洋   詩人と漫画家と、絵本。   『かないくん』をつくったふたり。     谷川俊太郎さんが一夜で綴り、 松本大洋さんが二年かけて描いた絵本、 『かないくん』ができあがりました。 絵本をつくるにあたって、 ふたりは直接顔を合わせませんでした。 ぜんぶの作業が終わったこの日、 物語を書いた詩人と、絵を描いた漫画家が、 はじめてのような、旧知のような、 不思議な挨拶を交わしました。 そして、絵本について、お互いのことについて 深く、長く、ことばを交わしました。 谷川俊太郎さんと、松本大洋さん。 わくわくするような顔合わせの対談を たっぷりとお届けします。
 
#10 絵とことばの距離。
 
── 一冊の絵本をつくり終えてみて、
お互いに似ているところというか、
通ずるところを感じたりしますか?
谷川 そうですねぇ、この絵を見てると、
なんか、どこか共通するものがあるから、
こういうふうな絵を描いてくれたんだな
っていうふうには思うんですよね。
── なるほど。
谷川 画面の割り方とかね。
だけど、まだはっきりわかんないですね。
だって、こんなにきちんと話したの
はじめてなんだし(笑)。
松本 ほんとですよね(笑)。
谷川 あとは、ネットでの知識しかないですから。
まぁ、『ピンポン』は読んだし、
映画も観ましたけどね。
松本 ありがとうございます。
谷川 あと、『Sunny』を読みはじめたぐらいだから。
── 大洋さんはいかがですか?
松本 あの、谷川さんって、
好きなものがはっきりしてるじゃないですか。
谷川 そうですね。
松本 ぼく、そういうの、すごくないんですね。
谷川 あ、ほんと。
松本 雑なんですね。
谷川 自分の好みはあんまりないんだ。
松本 そうなんですよね。
だから、すごくそういう人に対して、
まぁ、コンプレックスとまではいかないけど、
うらやましいんです。
「ぼくはこのメガネが好きだ」とか、
「この万年筆が好きだ」とか、
きっちりしてる人が。
谷川 ぼくもぜんぜんうるさくないんですよ。
これじゃなきゃダメだっていうのはないの。
だけど、もしなんか買うんだったら、
絶対、自分の好みで買ってるのはたしかですね。
松本 ぼくは、そういうふうだから、
自分で選ぶって苦手で。
だから、好きなものがある人っていうのは
すごいなぁと思って。
谷川 はーー。
じゃあ、食べるものも好き嫌いないの?
松本 ないですねぇ。
うーん、たとえば、蕎麦は好きですけど、
蕎麦が好きっていうだけで、
ここの蕎麦がいいんだとかは、ない。
谷川 逆に、関心があることっていうのは、
どういうこと?
松本 漫画はすごく好きなので、
いつも散歩していても、何をしていても考える。
谷川 漫画のこと考えてる。
自分の描く漫画のことを。
松本 そうですね。
自分の描く漫画のことは、
好きで考えてるんですけど、
あとのことはもう、ほとんど考えてないかなぁ。
といっても、漫画と関係ない時間も
だいたいぜんぶ、たのしいんですけどね(笑)。
谷川 でも、漫画なんですね。
大洋さんの絵本なんかももっと見てみたいけど。
松本 そうですねぇ、漫画を描いてると、
ほかのことは、あまりやれないですね。
ただ、今回、絵本をやってみたら、
思ったよりたのしかったですね。
すごく、いい緊張をしたっていうか。
谷川 大洋さんの描く絵本というのは、
やっぱりそうとうオリジナルだから、
絵本の世界でもすごく目立つと思うなぁ。
松本 そうなんですか。
谷川 うん。
だから、おもしろいテキストがあれば、
絵本も出していいんじゃないかと思いますけど。
松本 ありがとうございます。
── あらためて、
完成した『かないくん』を見て、いかがですか?
谷川 なんかね、絵とことばの離れ方が、
ぼくはすごくいいと思ってる。
松本 ああ。
── たしかに、ことばで出てくる具体的なものを
はっきり描いてあるようなところって、
意外と少ないんですよね。
松本 何度も描こうと苦労したところもあるんですが、
やっぱり、描いたときに、
絵として、バチッとこなかったんですよね。
うーん、たしかに「絵的なことば」があるところは
そう描いたほうがいいんだろうと思ったんですが、
まぁ、ぼくの画力の問題もあるんですが、
それができればって思いながらも‥‥。
谷川 いや、描いてくれなくてよかったです。
だって絵本の場合、
絵とことばの距離が一番のツボだからさ、
離れすぎてるとわかんないし、
くっつきすぎもぜんぜんダメだし、
できあがったものはその具合がすごくよくって、
そこがいいんじゃないかなと思うんですけどね。
松本 実際にことばどおり描いたほうが
ことばの印象から逆に離れてしまったり、
ということは、たしかにありますよね。
谷川 うん。そうすると、なんかこう、
べったりしちゃいますね。
奥行きが出てこないんですよね。
その点、この絵本は
すごく奥行きが出てると思うんです。
そのものを描かないことで、表してるというか。
だから、評論家がよろこぶんじゃない?
深読みのしがいがあるから。
一同 (笑)
── 最後に、この絵本の言い出しっぺの
糸井重里の話なんですが、
糸井は谷川さんのテキストも大洋さんの絵も、
それぞれできあがったときに見てたんですが、
絵本の形になったものをはじめて読んだときに
泣いてしまって、自分でびっくりしてました。
谷川 ねぇ(笑)。
── 絵本でそんなふうになったのは、
はじめてのことだそうです。
で、その場で、谷川さんに電話をかけて。
谷川 そうそう、なんだかねぇ(笑)。
なんでだか、俺、よくわかんなくてさぁ。
松本 (笑)
谷川 もしかすると、傑作なのかもね。
一同 (笑)
谷川 じぶんたちじゃ気づいてないんだけど(笑)。
── すばらしい絵本ができました。
ほんとうに、どうもありがとうございました。
松本 ありがとうございました。
ほんとに、うれしかったです。
今回は、こういう機会を与えていただいて。
谷川 ありがとうございました。
(谷川俊太郎さんと松本大洋さんの対談は
 これで終わりです。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 読後の感想などございましたら、
 メールでお送りください。
 また、最後に、絵本の内容を含む部分を、
 ちょっとしたエピローグとしてご用意いたしました。
 『かないくん』を読んだあとに、下のボタンを押して、
 物語の裏設定や制作の裏話などを、お読みください)
詩人と漫画家と、絵本。~エピローグ~  『かないくん』を読んだ後にどうぞ。
2014-01-31-FRI
 
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