詩人と漫画家と、絵本。~エピローグ~  このページでは、 谷川俊太郎さんと松本大洋さんの対談のなかで、 『かないくん』の内容を含んだ部分を掲載しています。 絵本を読んだあとに、おたのしみください。

うさぎについて。
── うさぎは谷川さんのテキストには出てこなくて、
大洋さんのオリジナルなんですが、
「うさぎの飼育当番」っていう
大洋さんが考えていた裏の設定がありましたよね?
松本 ぼくが考えたかないくんは、
クラスの「うさぎ当番」なんです。
かないくんはやっぱり、休みがちなんで、
クラスの子たちとは少し距離があるんだけど、
うさぎはいつきても、
同じように振る舞ってくれる。
だから、わりとかないくんはうさぎが好きで、
つくえの落書きもうさぎで。
谷川 なるほど(笑)。
ちゃんとできてるんだ。
松本 自分なりの設定なんですが。
で、かないくんがいなくなって、
そのあと、うさぎ当番を引き継ぐのがこの少年で、
うさぎを追っかけたりしてる絵とかも
あったりするんですが、
なかなか、かないくんほどうまくいかない。
でも、最後のところで向き合うところは、
かないが一番好きだったうさぎを抱っこして、
ああ、ようやくうさぎもなついたんだな、
っていうところでふたりが会うっていう。

木について。
松本 木にもぼくの勝手な設定があって、
最初に出てくる木と、後半の木は
同じ桜の木なんです。
ソメイヨシノって、樹齢がだいたい
60年から70年くらいだということなので、
60年振りにおじいさんが
かないくんを思い出してるときの桜は
そろそろ枯れかかってる、
という感じにしました。
── じつは、後半に登場する老木の桜は、
一度、大洋さんがボツにしたものでした。
松本 絵としては気に入ってたんですが、
谷川さんのつくった物語のなかに、
ぼくが少ししゃしゃり出すぎてる気がして、
間引いた一枚だったんですよね。
そしたら、最後になって、
祖父江さんが「一枚増やそう」っておっしゃって。
── 祖父江さんは、
48ページできっちり収めたいっていう考えも
お持ちのようでした。
松本 おかげで復活して、結果的にはよかったです。

スキー場について。
松本 最後がスキー場っていうのがすごく、
なんていうんだろう、
ちょっとあの世っぽいって思ってました。
谷川 そうですよね。
ぜんぜん意識してないんだけど。
松本 さぁーっと、白くて、
街とか森じゃなくてスキー場っていうのが
すごく、抜けがいいって言うとへんですけど。
みんなが白くなっていっちゃったみたいな。
谷川 うん、そういう感じね。
── 最後をスキー場にしたのは
なにか理由があるんですか?
谷川 ぜんぜん意識してないんですよ。
じぶんの意識下から自然に出てきたもの。
死をはじまりととらえるっていうのは、
ほかの詩でも書いてるし、
そういうふうに死を意識するようになったのは
歳とってからの傾向としてあるんです。
それは一種、思想っていったらオーバーだけど、
考え方のひとつとしてあった。
でも、最後がスキー場なんていうのは、
ぜんぜん考えてませんでしたね。
なんか、そうなっただけみたいな(笑)。
よくわかんない。
ぼく、ぜんぜんスキーもしないし、
スキー場のイメージあんまりないんだけど。
たぶん、なんていうか、
リフトの上でケイタイが鳴るって、
かっこいいと思ったんじゃないかな。
なんかそんな発想だったような気がするの、うん。
リフトに乗ってて、ケイタイ鳴って、
おじいちゃんが死んだ、っていうのは、
ちょっといいな、みたいな。
それでスキー場になっちゃった。
── 映画っぽいですね。
谷川 絵本ってちょっとね、
シナリオに似てるんですよ、映画のね。

木にひっかかってる飛行機について。
松本 ずっと見ていた谷川さんの子ども時代の写真が
模型飛行機を持っていたので、
最初のほうのページに出てくる木に
ひっかかってる模型飛行機は、
それを意識して描きました。
── 木に引っかかった模型飛行機を
谷川少年が取りに行ってる。
松本 はい。
谷川 (笑)
▲最後のおまけに、この写真を。
 対談のあと、大洋さんが探して送ってくださった、
 「ダンボールに入ってスイカ食べてたり」
 している大洋さんの子どものころの写真です。
 「引っ張り出してみると、
  思ったよりバカっぽくなかった」とのこと。







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