新春スペシャル大放談!  タモリ先生の午後 2009 「惜しい」の発見。



糸井 1970年代だったかなぁ、
中野の駅前に電話ボックスがあったんです。
タモリ うん。
糸井 その電話ボックスに電線が引いてあって、
明かりがともってるんですよ。

‥‥あきらかに不自然でしょう?
タモリ 不自然。
糸井 そこでね、ちょっと勇気を出して
なかをのぞいたら‥‥
地面にしゃがんでる人がいたんです。
タモリ へぇ。
糸井 で‥‥電話がなくて、位牌があった。
タモリ うわ。
糸井 たぶん、暮らしてた‥‥。
タモリ ふつうの一家が住んでる家の2階に
まったく別の一家が住んでることなんて
けっこう、ありましたもんね。
糸井 あ、つげ義春のマンガにあった。
タモリ そうそう、『李さん一家』だっけ。
糸井 最近、ちょっと思うんですけど‥‥、
所属とか所有の関係が
あまりにハッキリしすぎてることに
疲れてるんじゃないでしょうか、われわれ現代人は。
タモリ ことしは問題を提起するなぁ。
糸井 ぼくがよく例に出すのが
「道ばたに落ちてるギンナン」なんです。
タモリ ほう、ギンナン。
糸井 あれって「誰のものでもない」ことに
なってるじゃないですか、一応。

落ちてるのを集めたら、商品になるのに。
タモリ ホームレスの人たちは、拾ってたりするよね。
上野やなんかで。
糸井 そう、でも「道ばたのギンナン」のほかに
「誰のものでもないけど、糧になるもの」って、
ちょっと見当たらないんですよ、現代では。
タモリ うーん。
糸井 ぜんぶ、誰かのものじゃないですか。
タモリ ‥‥銚子の漁港のこっちっかわにね、
「急なカーブ」があるんですけどね。
糸井 ほう。
タモリ そこ、秋になると、よく落ちてるらしい‥‥
サンマが。
糸井 あはははは(笑)。
タモリ カーブが急で、サンマが。
糸井 あはははは、おもしろい(笑)。
タモリ 近所の人らが、拾って食べてるんだって(笑)。
糸井 いい話だなぁ。
タモリ でも、まじめな話、
最近じゃあ「ノラ犬」も見かけないでしょ。
糸井 ああ、見ない見ない! 

つまり「所有関係から自由な犬」のことですね。
タモリ ノラネコはいっぱいいるんだけど。
糸井 ああ、そうか、だから「ネコ」を見ると
「むかしが偲ばれる感じ」がするんだ。
タモリ あの‥‥うちの近所にある裏道をね、
ある日の夕方に、散歩してたんです。
糸井 うん。
タモリ そしたら、

ちーん

‥‥って音が
かすっかに、聞こえてくるんですよ。
うしろのほうから。
糸井 ほう。
タモリ なんだろう、かすかに聞こえる‥‥。

ちーん

なんか金属をたたいてる音なんだけど、
なんだかよくわからない。
糸井 ほう。
タモリ その音がね、
うしろから、だんだん近づいてくる。

ちーん ちーん ちーん
糸井 うん、うん。ちょっとコワいですね。
タモリ ふっとうしろを振り返ったら、
遠くのほうから自転車がやってくるんです。

どうやら、その自転車に乗ってる人が
ハンドルのところを
金属の棒で叩いてるみたいなんですよ。
糸井 はぁ‥‥。
タモリ とおくのほうから、薄暗い裏どおりを

ちーん ちーん ちーん

と、だんだん近づいてきて‥‥。

とつぜん、暗闇のなかからスゥーっと、
自転車に乗った
かなりの歳のおじいさんが出てきて、
オレの横を、
そのままスゥーっと、通りすぎてった。
糸井 うわー‥‥。
タモリ オレは、なぜだかわからないけど、
小走りでね、
そのじいさんを追っかけたんです。
糸井 ほう!
タモリ そしたら‥‥100メートルぐらい先で
最後に一回、「ちーん」と鳴らした。
糸井 うん‥‥!
タモリ そしたら、しゃしゃしゃしゃしゃーっと
7〜8匹のノラネコが出てきたんですよ。

‥‥どこからともなく。
糸井 ははぁー‥‥。
タモリ で、そのじいさん、呼び出したノラネコに
となりの空き地でエサをやってんですよ。
糸井 つまり、合図だったわけですね。
タモリ そう、エサが来たぞーと。
糸井 自転車についてる鈴じゃなくて。
タモリ うん、叩いてた。
糸井 ハンドルを。
タモリ そう。

ちーん

って。
<つづきます>

2009-01-03-SAT



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