タモリ えー、それとね、誰だったっけな‥‥。 ある芸人が貧乏時代に住んでた木造アパートで、 となりのおばさんが いつも窓からノラネコにエサをやってたんです。 糸井 さっきの「ちーん」のじいさんもそうですけど ノラネコっていうのは、 そういう人たちに支えられて、生きてますよね。 タモリ うん、で、いつもエサをくれるもんだから 時間になるとネコがやってきて、 「にゃーにゃー、にゃーにゃー」鳴くと。 糸井 エサをくれと。 タモリ そう。それなのに、その人、ときどき ガラッと窓をあけて「うるせぇな！」って 怒鳴るっつうんだよね‥‥。 自分でエサやるから集まってきてんのに。 糸井 わはははは、ひどい話（笑）。 タモリ ひどいんですよ。 糸井 でも、ノラネコの面倒を見るくらいの余裕は、 まだ日本にも残ってると。視点を変えれば。 タモリ 2009年はどうかな‥‥。 糸井 そんな（笑）。 タモリ 対昨年度「同じ」で「増えてる」時代です。 糸井 そうかもしれませんが。 タモリ もう辞めちゃったかもしれないけど、 ワハハ本舗に、 ワタナベって女の子がいたんですよ。 糸井 はい、ワタナベさん。 タモリ ある朝、すっごいヘンな目つきをして やってきたんだって。現場に。 で、本番の舞台でも とんちんかんなセリフは言うわ、 ヘンな動きはするわで、 とにかく、 めちゃくちゃおもしろかったらしい。 糸井 その日にかぎって。 タモリ そう、で、舞台が終わってから 「どうしたの、ふつか酔い？」とかって聞いたら、 「ちがうちがうちがう」と。 「死ぬところだったんだから」っつって。 糸井 ほう。 タモリ なんでも、寝るまえに、酔っぱらって お茶でも飲もうと思って ガスコンロに火をつけたら お湯が吹きこぼれて、 ガスがシューシュー出てたんだって。 糸井 え。 タモリ そのまま寝ちゃったらしいんだけど、 ふつうなら死ぬでしょ。 糸井 助かったんだ？ タモリ あまりにもすきまが多くて。部屋に。 助かったらしいんですよ。 糸井 ははぁー‥‥。 タモリ なんか「軽いガス中毒」で済んだと。 それで、ちょっとヘンだったという。 糸井 「すきまだらけ」のおかげで。 タモリ 貧乏が人を助けたんですよ。 糸井 ‥‥すごい話（笑）。 タモリ ま、そういうこともありますからね。 貧乏の場合。 糸井 つまり「ものは考えよう」だと？ タモリ これ、建て付けのいい部屋に住んでたら、 どうです？　完全に死んでますでしょう？ 糸井 そりゃそうですが。 タモリ ま‥‥あんまり関係ない話だったけどね。 糸井 ‥‥ですよね。 タモリ ないね。 糸井 ‥‥最近、今の「世のなかの感じ」を よくあらわしてる言葉に気づいたんです。 タモリ 聞きましょう。 糸井 それは「惜しい」なんです。 タモリ 惜しい。 糸井 なんか最近、すごく気になるんですよ。 みんな、自分のことを 「惜しい」と思ってる気がするんです。 タモリ 惜しいオレと。 糸井 そう、ようするに、みんなが 「オレ、もうちょっとなのにな」と思いながら 生きてるような気がして。 タモリ ほほう。 糸井 自分で自分のことを思ってるだけじゃなくて、 お笑い芸人ならお笑い芸人で お互いに「あいつ惜しいなぁ」と思いながら。 タモリ なるほど。 糸井 その感覚こそが、現代のこの閉塞感を‥‥。 タモリ あのー‥‥、われわれ男が どんな女性に「色気」を感じるかという 問題がありますね。 糸井 ええ、はい、中学生のころ以来の。 タモリ よーく思い出してみてくださいよ。 顔とかスタイルがバツグンの モデルみたいな女には、 そんなに感じなかったはずなんです。 糸井 色気を？　‥‥うん、そうだ。 タモリ じゃあ、どういう女に色気を感じます？ 糸井 ‥‥。 タモリ われわれは「惜しい」って女性に いちばん「色気」を感じるんですよ。 糸井 うわー‥‥。 タモリ ええ。 糸井 さすが‥‥考え抜かれてる。 タモリ うん。 糸井 その「美学」にたどりつくまでには そうとう時間かかってますでしょう？ タモリ まあ。 ＜つづきます＞ 2009-01-04-SUN

（C）HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN