HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

写真の都合を気にしないほうが、

遠くまで跳べる。

──
次に、ラフォーレ原宿の
「GRAND BAZAR 2015 WINTER」
について、お願いします。


あのラフォーレ原宿のでっかいビルに、
「ババーン!」出ていた光景、
とっても印象的で、よく覚えています。
瀧本
この場合も、ラフスケッチの段階から
ほぼできあがっていて、
「赤いラインを、女性が跳び越えている」
というイメージは固まっていました。


アートディレクターの矢後直規さんの
頭のなかでは。
──
ええ。
瀧本
でも、それって、イメージはできるけど、
写真に撮ろうとすると難しい。


実際に跳んだ場面を撮っても、
スポーツ写真みたいになっちゃうんです。
──
絵に描くのとは、別の難しさがある。
瀧本
単純に、跳んだ瞬間を撮っても、
ここまで構成的な写真にはならないです。


この女の人もハイヒールを履いてますし、
髪の毛だって、こんな感じだし。

──
実際、この女の人は、
このようなヘアスタイルだったんですか。
瀧本
ウィッグと地毛を混ぜて
造形的につくったんですが、
自立しないんです。重くて。
──
ですよね、この感じですと。
瀧本
なので、上から吊ってるんです。釣り竿で。
──
おお(笑)、その役目の人が。
瀧本
赤いラインは、木にペイントしています。


もちろん、
ラインと人を同時に撮ってるんですけど、
モデルさんのオーディションでも
「足、どれくらい開く?」
という部分が、かなりの重要ポイントで。
──
イメージがぴったりでも、足が開かないと。
瀧本
オーディションって、たいがい、
ポートフォリオを見て、
顔と全身の写真を撮って終わり、
みたいなことが多くて。


いつも実がないなー‥‥と思うんですけど。
──
打ち合わせのときに、
できるだけ突き詰めたい瀧本さんとしては。
瀧本
ですから、このときのオーディションでは、
ここの事務所で、
実際、本番と同じセッティングをつくって、
同じように足を開いてもらいました。


20人から30人くらいのモデルさんが
来てくれたんですが、
身体の柔らかさはもちろん、
実際に、本番と同じポーズをとったときに、
どう見えるのかもわかるし。
──
オーディションの段階から、
本番のための「検証」がはじまっていると。


実際、どう撮ったんですか。
瀧本
まず、この体勢をキープしてもらうには、
両足を固定する必要がありました。
──
固定?
瀧本
はい。最終的には、
女性が赤いラインを跳び越えているような
構図になっていますが、
女性の左足は、地面に着いているんです。
──
えーっと、つまり、この女性は、
赤いラインを飛び越えているんじゃなくて、
左足を床に着けていて、
右足を頭より高く挙げている‥‥状態?
瀧本
そう。さらに、右足も固定されていてます。


つまり、モデルさんには、
頭より高い位置に固定した右足のヒールに、
足を突っ込んでもらってるんです。

──
この方は‥‥それで、転ばないんですか?
瀧本
写真には写ってませんが、
おしりのあたりに「支え」というか、
つっかえ棒を当てて、
この体勢をキープしてもらってます。
──
さらに、髪の毛を釣り竿で吊って。
瀧本
そう(笑)。で、その状態で、
モデルさんの右足の上のあたりから‥‥
つまり、
上から下を見下ろすように撮影してます。
──
その上下感、まったくわからないです。
瀧本
白バックで撮ってるんで、
天地の感覚が、曖昧になってるんです。
──
そんなにがんばって撮ってるふうには
見えないというか‥‥。
瀧本
はい、がんばって撮ってるけど(笑)、
でも、その「がんばり」が見えちゃうと、
失敗だと思ってやってます。
──
どうしてですか。
瀧本
伝えたいことが、
最初にポンと目に入ってくるイメージが、
いい広告だと思うからです。


「がんばって撮ってます!」
「すごいことしてます!」
という写真に見えちゃうと‥‥やっぱり。
──
お話を聞いていると、
ラフスケッチという2次元のイメージを
3次元で組み上げて、
再び、写真という2次元に戻す作業って
思った以上に大変なんですね。
瀧本
絵って、都合よく描けるから‥‥(笑)。
──
現実世界には、単純に「重力」もあるし。
瀧本
そうですね。


ただ、はじめにイメージを描く人の
「こうしたいんです!」
という世界観は、やっぱり大切です。
──
それが、仮に「重力無視」だとしても?
瀧本
はい。


写真の側の都合を考えて絵を描く人も
いらっしゃいますけど、
それだと「跳べる幅」が、
どうしても、
現実的な距離になっちゃうと思います。
──
なるほど、いい意味で、
写真のことを気にしてくれないほうが、
遠くまで跳べる‥‥と。
瀧本
逆に、無理難題をポーンと投げられると、
最終的には、
新しいところへいける写真になります。


試されている感じがして、
燃えてくるっていうこともあるし(笑)。
──
「瀧本さんなら、何とかしてくれそう」
瀧本
それが毎回だと困るんですが‥‥(笑)。
──
すごいなあと思うのは、
アートディレクターさんの描いたラフと、
結果として、
ほとんど同じ構図になっていることです。


この再現力というか‥‥到達する意思?
瀧本
もちろん、すんなりいくわけでもなくて、
このときもポラを切り貼りして、
赤いラインをどう入れたらいいかとか、
手作業でいろいろ試しながらやってます。


アナログで細かい作業で
試行錯誤する部分も、かなり多いんです。

──
で、そうやって撮った写真が、
あのラフォーレ原宿のでっかいビルに、
ババーン! ‥‥と。
瀧本
はい。

(つづきます)2018-08-01-WED