孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」 孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」
Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
(11)会社から共同体へ。
糸井
じゃあ、今日の話の最後に
質問があればうかがいましょうか。
そうですね、せっかくですから。
糸井
普段聞きづらいことでも‥‥はい、どうぞ。
──
今日はありがとうございました。
おふたりにとって「これは読んでおけ」
「これはすごく影響受けた」という、
好きな本があれば教えてください。
僕は内村鑑三さんの
『後世への最大遺物』という本が好きなんです。
100年くらい前の講演録で、
言葉遣いは文語調ですけど、
読んでみるとめっちゃおもしろいんですよ。
ときどき「(大笑)」とか入ったりして。

後世の僕らにとっての内村鑑三って、
「すごい」としか思えない人ですけど、
この講演録ではなんだかとても身近で、
知ってる人のような感じがするんです。
読みながらビンビン伝わって来るものがあって、
いっしょに深いことを
話し合ったような感覚がある。
そういうところがすごく好きですね。
糸井
言葉って、文章として書くときは
精緻な記号の羅列にしたりしますけど、
学生の前でしゃべるときとかは、
それだとお客さんがついて行けないから、
飽きさせないようにしながら
しゃべるんですよね。
ときどき道しるべを出したりしながら。
講演録にはそういう良さがあって。
古くからの名著と言われてるものも、
よく見ると多くがしゃべり言葉ですから。
ソクラテスもそうだし、
親鸞の「歎異抄」だってそう。
聞き手が刺激して、そこに伝えたい言葉を
しゃべっているんです。
ええ、ええ。
糸井
そういったしゃべり言葉の本で言うと、
僕は、吉本隆明さんに話を聞かせてもらった
『悪人正機』という本があって、
これは自分でも何度も読みますね。
あの本はすばらしいですね。
糸井
あれはやっぱり吉本さんがすごくて、
いま自分で読んでもおもしろいんです。
当時わからなかったことを、
いまになってわかったりするんですよ。
そういうおもしろさがありますね。
ああ、なるほど。
糸井
あともうひとつ、最近友達が書いた小説で
『伴走者』という本があるんです。
それは目の見えないマラソン選手と
その伴走をする人、
そして目の見えない女子スラロームの選手と、
その伴走をする人について書かれた
2編の小説なんですけど、
これからの生き方を考えるときに
すごくおもしろい本だと思って、
最近僕はけっこうすすめているんです。

人って「俺はなんかやってやるぞ」みたいに
すごく目的がある人ばかりじゃなくて、
ほとんどの人はそうじゃないところで
生きてるわけです。
この本は
「そういった普通に生きてる人が
誰かの手助けをするって
どういうことなんだろう?」
ってことが、小説の形で克明に、
見事に書いてあるんです。

そして読みながら
「生きがいって、主人公が他者でも構わないんだ」
というのがひしひしと感じられてくる。
選手自体は目が見えなかったりするわけだから、
伴奏者はそれ以上に先回りしないとできないし、
そこの駆け引きやらも含めて、
おもしろいですよ。
──
ありがとうございました。
さきほど言わなかったですけど
『後世への最大遺物』の中身について、
補足させてもらってもいいですか?
糸井
ぜひおねがいします。
僕が『後世への最大遺物』を
おもしろいと思うのは
「個人が後世に残せる
最大のすばらしいものは何か」
という講演タイトルなんですね。
えらいでかいタイトルなんですけど。
糸井
いいですねぇ。
そして内村鑑三という人は、
日本のキリスト教指導の第一人者です。
ですが日本の宗教をまったく否定もせず、
日本ならではの独自のキリスト教を
作り上げた方として知られているんですね。

そういう人が、神父さんの卵とかを前に
「みなさん。諸君が後世に残せるものは
いろいろあります」
と語る話なわけです。

‥‥で、驚くのが、いきなり
「まずやっぱり一番大事なのは、金やね」
って言うんです。
そう書いてあるんですよ。
「一番すごいのは金」
「みなさん金残せますか」と。
糸井
はぁー。
そこにいるのは神父たちの卵だから、
金なんてあるわけないんです。
だけど「金残せるやつはすごいぞ」
「アメリカにはロックフェラーさんという
人がいてね、そういう一財を成した人が
孤児院をたくさん作ったんだ」
「病院を作って女性が
医療に参画できるようにした。
すごいんだ。
いまそんなことがアメリカで起こっておるんだ」
っていう最新情報とかを話してるんですね。
明治の時代に。
糸井
おもしろいですねぇ。
だから「金はすげぇんだ」と。
「だから君たち、金を残せるなら金を残しなさい」
っていう言い方なんですよ。
まったく予想だにしないところから入ってきて、
びっくりするじゃないですか。
糸井
する(笑)。
で「残せないの?
ああ、残せないのか、君たちは。
しょうがない。2つ目行こうか」
と話を続けるんです。

そして
「君、お金残せないんやったら、次はこれだ」
って‥‥あんまり言うと
おもしろくないかもしれないですけど。
会場
(笑)
そして次もこれまたね、
身もふたもないこと言うんですよ。
そして「え? 残せないの?」って。

そして「それも残せないんだったらしょうがない、
3番目はこれだ」
って言って、4番目、5番目まであるんですね。

ちょっとネタ晴らしすると
2つ目は
「事業を残せ。会社を。
そうしたら、みんな食えるで」っていう。
‥‥たぶん大阪弁ではないと思いますけど。
会場
(笑)
とにかく
「事業を残してる人は偉いよ。
起業家は偉いんだ。
それでみんなの雇用が生まれて、
生活が安定するんだから」
っていうのを、
キリスト教の神父の集まりで言うという。

で、
「だけど、そうか。
君たちは事業も作れないのか。
センスないんか。しょうがないのぅ。
じゃあ、お前ら、努力せぇよ」
みたいなことを言って、
笑いが起きたりしたことも書いてあるんですよね。
糸井
いや、おもしろい。
それで「じゃあ仕方ない。3番目だ」
って行くんですよ。
で、その1、2、3番目にだいぶ
「あれ?」って思うものが出て来て、
「本当に君たち、なんも残せんな」
って言って
「じゃあ4番め。これくらい、
誰でもできるだろう
‥‥これが残せんのか、お前ら」
って言うわけです。
で、「しゃあない。
それももう『できん』って言うならな‥‥」
ということで、
ここはもうしゃべってもいいと思うんですけど。
糸井
はい。
5番目は
「君たちが後世に残せる最大の遺物、
これこそ万人ができる最大の遺物だ。
それは
──自分の生き方である」
って言うわけですね。
糸井
はぁー‥‥。なるほど。
「他の人に
『あの人はすごい生き方をした。
自分はとてもいい影響を受けた』
と思ってもらえる生き方。
これだったら、どんなに君らが事業も金も、
何も残せんと言っても、
自分でできることである。
だからそれを残していこう」
というような話なんですよね。
糸井
すごいおもしろい。
しかも講義録だからすごく短いんですよ。
20分くらいであっという間に読めます。
だけど、ものすごくキャッチーで、
全体の組み立てもすごくて。
読みながら、みんなが
キョトンとしただろうなぁって映像も
浮かんでくる。
でも本当に、何度でも読める
深さがあると思うんです。
こういう本なので、僕はこの言い方や話し方に
けっこう影響を受けてます。
青空文庫になっているので無料で読めますよ。
糸井
いいですねぇ。おもしろいなぁ。
じゃあ、もう一人くらい‥‥うちの社員から。
どうぞ。
──
楽しいお話をありがとうございました。
ひとつ質問をさせてください。

(と、ほぼ日の乗組員から
Introductionでご紹介した、
「Mistletoeはどんな会社なのでしょうか?」
という質問がありました)
──
ありがとうございました。
糸井
こんなところでしょうかね。
まぁ、また孫さんも会ってくださると
いうことなので。
はい、ぜひ。今日はありがとうございました。
糸井
こちらこそありがとうございました。
会場
(大きな拍手)
(対談はこちらでおしまいです。
お読みくださって、ありがとうございました)
2018-05-28-MON