HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督 2017・はじめての2年目編
23 小銭と錦帯橋

携帯電話と、320円。
ホテルを出る時に、必ず持っているものです。
知らない街をランニングをするのが
遠征先でのささやかな楽しみ。
その中でも岩国は、見て楽しい、
走って嬉しいお気に入りの町です。

目的地を錦帯橋に設定したら、
自分のペースでとことこ走ります。
現役時代と一緒、とはいかなくても、
できる限りは体力と体型をキープしておきたい。
そのためのトレーニングは欠かせません。

さて、錦帯橋に到着した僕の前に立ちはだかったのは、
「橋を渡るための料金」でした。
300円です。かろうじて持っています。
けれど、この所持金320円の内訳は、
ランニング中の水分補給のため、
どんなに高い自動販売機でも、
1本160円、2本で320円あれば給水できるやろう、
という想定に基づいたもの。
ここで300円出してしまったら、僕はホテルに帰り着く前に
干からびてしまうかもしれません。
(どうしよう‥‥)
せっかくの橋だから渡りたい。渡ってこそ橋なのです。
しかし、残金20円では‥‥
でもでも、体調には代えられません。
仕方なく川辺に降りていき、
そこで子供のようにバシャバシャと水しぶきを上げて
一人涼んでいる頭上を、人々が嬉しそうに渡っていきます。
その中に、うちのコーチやスタッフがいた、
ということを知ったのは、ホテルに戻ってからでした。

「橋の向こうに、有名なソフトクリームの店があるんですよ!
 いやー、うまかったっすよ!」
「えっ? 走っていったんすか? しかも、渡ってない?」
「橋の下にいた!? 水浴びしてた!? ぷぷっ」

さんざん自慢されて笑われて、羨ましさのあまり唇を噛んだ夜。
それでも岩国が好きです。次は渡ります。
野球も観光も、下調べが大事なのです。




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