HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
番外編 神戸で二軍の練習を見学してきました。 田口壮×糸井重里対談

こんにちは。
ほぼ日刊イトイ新聞の永田です。
今回は、「はじめての二軍監督」番外編です。

この連載がはじまったとき、
田口壮さんが監督を務める
オリックス・バファローズの二軍の試合を
「観に行きたいね」と糸井重里と話していたのです。
できれば、ホームグラウンドの神戸サブ球場へ。

いつかそのうちに‥‥
と言っているうちに月日は経つもので、
あっという間に9月になりました。
カレンダーをチェックしてみると、
神戸サブ球場でバファローズが試合をするのは
もう数試合しかありません。

そこで、もう、ここで行くぞと決めて、
「ほぼ日」の野球コンテンツを
つくっているチーム(永田、トミタ、杉本)と
糸井重里で行ってきました。
9月13日、ウェスタンリーグ、
オリックス・バファローズ対中日ドラゴンズ戦。

結論からいうと、この日の試合は雨で中止になりました。
「あらゆる天気をちょうどよくする男」
糸井重里の謎の力によって、
到着したらぴたりと雨はやんだのですが、
残念ながら試合は中止になってしまったのでした。

ところが、そのおかげで、
室内練習場で二軍の練習をじっくり見学でき、
短い時間ではありましたが、
田口壮さんと糸井が話すことができたのですから
これはこれでまさにちょうどよかったという気もします。

正式な対談は予定していなかったので
ばたばたと記録したものですが、
田口さんと糸井の話がおもしろかったので、
練習風景の写真とともに、
連載の番外編として、
2回に分けてお届けいたしますね。

プロとアマチュアの差
糸井
思えば、ユニフォーム姿の田口さんに
お目にかかるのははじめてですね。
まあ、プレイヤーではないですけど。
田口
監督です(笑)。
糸井
さっき、練習を観ながら、
少しだけ解説してもらったんですけど、
それがもうおもしろくて、おもしろくて。
田口
あ、そうですか?
糸井
たとえば、ブルペンで新人投手が
投球練習をしているのを観ているときに
「ようやくストライクが入るようになってきた」
っておっしゃった。
プロのピッチャーがストライクが入るのは
当然じゃないかとぼくが言ったら、
「そもそもアマチュアとプロは
 ストライクゾーンが違うんです」と。
田口
プロのほうが狭いですからね。
糸井
まあ、言われてみれば、甲子園とか観てると、
たしかに外角を広く取ったりはします。
そういうところも含めて、
プロとアマはだいぶ差があるってことですね。
田口
それはずいぶんありますね。
ぼくは野手ですから、
バッティングの面からいうと、
プロになってストライクゾーンが
狭くなるのはありがたかった。
けど、そのぶん、プロの球は、
球速、キレといったレベルが
ものすごく高くなるので、たいへんでした。
糸井
ああ、やっぱり違いますか。
田口
ぼく、ルーキーのときに、開幕戦に出してもらえて
デビューとしては順調だったんです。
ところが西武戦のときに先発を外された。
理由を訊いてみたら
「おまえに西武のピッチャーの変化球は打てん」と。
糸井
(笑)
田口
そんなにすごいのか、ってぼくも驚きました。
だから、しばらくプロの球に慣れるまで、
西武戦には出してもらえなかったんです。
糸井
当時の西武のピッチャーというと‥‥。
田口
工藤(公康)さん、郭泰源、
石井丈さん、潮崎さん‥‥。
糸井
あ、全員すごい(笑)。それはイヤですね。
田口
イヤです。出してもらわなくてよかったです。
糸井
そのプロとアマの差に戻りますけど、
ピッチャーからするとまず
「ストライクがとれるかどうか」だと。
で、バッターはどうなりますか、と訊いたら
「スイングスピードです」と。
田口
うん、そうですね。
プロとアマ、一軍と二軍のバッターは
スイングスピードが違います。
糸井
それは、単純にパワーの差ではなくて。
田口
それだけじゃないですね。
最短距離でバットが出てるかどうか、とか。
糸井
スイングスピードが速くならない選手は
一軍へ上がれませんか。
田口
そうとも限らないんですが、
スイングスピードが遅い選手は、
早めに始動しなくちゃいけなくなりますよね。
スイングスピードが速い選手は
ボールが手元まで近づいてきてから
それを見極めて反応しても間に合いますけど、
遅いと、ピッチャーが投げてすぐに判断して
振りはじめないといけない。
糸井
なるほど。
田口
ですから、早めに始動して、
ゆっくりとしたスイングスピードで
ボールの軌道に合わせるというやり方もある。
けど、それはぼくらが教えるというよりも
選手が自分で自分のスイングをわかって
つかんでいかなくてはいけないんです。
糸井
「ぼくはこれ以上どうしても
 スイングスピードが上がらない、
 この速度のままで打つには
 どうしたらいいですか?」
というふうに訊かれたら‥‥。
田口
訊かれたら教えることはできます。
けど、遅いスイングスピードのままで打つ方法を
いきなりぼくらが教えるわけにはいかない。
それは、選手の限界を定めてしまうことにも
つながりかねないので。
糸井
はーー、おもしろいですねぇ、
そういう練習の話って。
単純に、これをくり返せばうまくなる、
みたいなことではないんですね。
田口
たとえば、うちの、ある選手は、
足の踏ん張り方がおかしいんですよ。
具体的にいうと、いつも、
つま先がちょっと浮いてるんです。
そうすると、体重が前に乗り切らないんですね。
この直し方がぼくにはわからないんです。
糸井
「わからない」?
田口
そこを変えると、身体の使い方が
根っこから変わっちゃうんです。
靴の中敷きを調節するという方法もあるんですが、
そうすると、今度は
ふくらはぎをやっちゃう可能性が出てくる。
糸井
あああ、そういうことですか。
いや、やっぱりおもしろいです、練習論。
田口
そうですかね(笑)。
9分割のストライクゾーンって‥‥?
糸井
あの、プロ野球中継を見ているときに、
画面の隅にストライクゾーンを
9分割した図が出るじゃないですか。
で、そこにこう、配球が表示されていく。
ぼくは、あの図が、野球の見方を
狭くしているような気がするんですよね。
あれがあると、素人の野球ファンはすぐ、
「ボール1個分の出し入れ」みたいなことを
言いたくなっちゃうんですけど、
それはまあ、できる人もいるでしょうけど、
機械みたいにできるわけじゃないですよね?
田口
できないと思いますね。
糸井
はははははは。
田口
できる人もいるとは思います。
でもまあ、大半の選手はそんなに気にせず
野球をやってると思いますね。
糸井
だから、よく、テレビで観ていると、
ピッチャーが明らかに投げ損なって、
パーンとホームランを打たれたときに、
あんまりがっかりしてないんですよね。
「あんなところに投げちゃった」
っていう顔をしていない。
むしろ「あんなところに投げやがって」って
言ってるのはお客さんだけで。
田口
たしかに、たしかに(笑)。
糸井
それは、やっぱり、投げた本人が、
そんな機械みたいに投げられるもんじゃないんだ、
っていうのを知ってるからだと思うんですよね。
だから投げ損なっていいとか、
悔しがってないとは言ってないですよ。
田口
わかります(笑)。
糸井
そういう意味で、あの9分割はね、
ちょっと野球をややこしくしてるなあ、と。
田口
だから、ぼくが新人のピッチャーを見てて思うのは、
9分割するまえに、1個でいいんじゃない?
っていうのはありますね。
糸井
つまり‥‥真ん中だけ。
田口
そう。そこに目がけて投げたら、
勝手に散らばるので。
実際ね、「投げ損ないの変化球」とか、
ものすごく打ちにくいですから。
糸井
そうなんですか。
田口
真っ直ぐを投げ損なって
甘いコースに来るのは打てるんですけど、
「曲がらないスライダー」とか最悪ですよ。
このへんから入ってきて、
曲がると思って打ちに行くでしょう?
曲がらないと空振りですよ。
あれ? 曲がらんかったわ、って。
だから、バッターとしては、
「おまえ、投げ損なうなよ」と。
糸井
はははははは、それは、バッターからすると、
「投げ損なった」ってわかるものなんですか。
田口
わかります。
スピードも軌道もスライダーっぽく入ってきて、
回転も若干おかしいけど、スライダーやなと。
で、「曲がんのやろな、よっしゃ」って振ったら、
ぜんぜん、曲がってこない。
なんでそこで曲げ損なうのって思いますね。
糸井
でも、そういうものの総合力が野球だから、
そこがおもしろいじゃないですか(笑)。
田口
そうなんです!
だから、失敗しても‥‥うまくいく(笑)。
糸井
3割打ったらすごいぞ、っていう
失敗のスポーツですからね。
田口
そんなの、仕事だったら困りますよね?
糸井
うーん‥‥いや、でも、
さすがに7割失敗されたら困るけど、
「まずはストライク入れろ」っていうのは
けっこうありますよ。
田口
え、ストライク来ないんですか(笑)。
糸井
しょっちゅうあります。
「アウトローいっぱいにスライダー!」
とか言ってないで、まずは真ん中に来い、って。
田口
いっしょですね(笑)。
(次回につづきます)
2016-09-24-SAT


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