HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
10 自画自賛コーナー

勝てばうれしい。負ければ悔しい。
当たり前にして単純なこの気持ちを、
毎日毎日皆で分かち合っています。

実際のところ、
「負ければ悔しい」ばかりが先行しているものの、
育てることも同時進行のファームでは、
星取表だけで物事を判断するのは難しいものです。
選手ばかりではありません。
僕の監督としての未熟さが、
これまで何度浮き彫りになったことでしょう。
僕も現在進行形で二軍に育ててもらっています。

けれど、日々ほんのわずかずつとはいえ、前進しています。
手ごたえがあります。
お若い方には馴染のないフレーズでしょうが、
チータだって
「三歩進んで二歩下がる」と歌っているではありませんか。
ファンの方にとっては苛立つようなわずかな進歩ですが、
どうか信じて見守っていただけますようお願いいたします。

ともあれ、勝ったら大いに褒め合い、自信を積み重ね、
負けたらそこから学ぶべきことを見出す。
そして何よりも、
「もうあとはない」という気持ちで臨みたい。
負けることに慣れてしまうと、
最後の最後まで食い下がるという気持ちを失います。
俺たちどうせアカンやん、と、
簡単に諦めてしまう状態が
日常化するのが一番怖いことです。
ゲームセットの最後の瞬間まで
気持ちを切らさない心の強さこそが、
今のファームが最も必要とすることです。
僕を含めて、
来年ユニフォームを着ていられる保証なんて
誰にもないという現実を噛みしめなければ。

それにしても、褒められるのは嬉しいものです。
このところ投手陣が外野でアップを行うため、
バッティング練習の球が彼らに当たらぬよう、
護衛のように守備についているわたくし。
フライを捕ると、
「おおおーーー」
と、あちこちから歓声が上がります。
「いやー、田口さんの守備なら
 安心してアップできます!」と、
背後を行き来する小松聖投手が
満面の笑みで励ましてくれます。
小松投手の人柄からすると、たぶん褒めてます。
本気でそう思ってくれているのです。

しかし今度は誰かが、
「新人選手よりうまいかも!」
と野次るのです。
こっちは褒められてるのかどうか、微妙。
でも、人間は単純なもの。
とりあえずそんなふうに言われれば、
ボールを追うのが楽しくなるのも本当のところです。

褒められたり、
「俺、いけてるやん!」と思わせてもらえることは、
過信にならない限りは自信につながります。
今のファームには、
そんな「行ったるで!」ムードが必要です。
なので最近、僕は勝ちゲームのあとのミーティングに
「自画自賛の時間」を作りました。
その日の試合で活躍した選手を指名して、
思い切り己を褒めろ、という主旨です。

たとえば先日の試合で活躍した吉田雄人選手は、
「俺は~、すごいです!」
と高らかに宣言してくれました。
ええぞええぞー!
しかし中には、名前を呼ばれてもモジモジして、
「しっかり‥‥打てました‥‥」
なんていう控えめなコメントに留まる場合もあるのです。
「なんやお前その自画自賛は!?
 このコーナーをつぶす気か!?」
コーナー、と無意識に叫んだ僕は、
二軍ばかりか、解説者としてNHKでの3年間にも、
だいぶ育てられていたことに気づいたのでした。




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