フィンランドのおじさんになる方法。
著 森下圭子
+武井義明(ほぼ日)
写真 松井康一郎
ブックデザイン 素縫い/SUNUI
184ページ
ISBN-10: 4041018315
ISBN-13: 978-4041018316
18 x 12.8 x 2.4 cm
¥1,600+税
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書籍になりました。
 
その後のおじさんたち。①
 
その後のおじさんたち。②
 
その後のおじさんたち。③
 


その後のおじさんたち。その3
レオさんのこと。

「みんなどうしてる?」

キヒニオに到着すると、
私はきまってエルッキさんとアンニッキさんに、
まずは私も知る人たちのこと、
動物たちの様子を聞いていました。
ところがその日は彼らのほうから口を開いてきたのです。

「レオが死んだ」

それは突然だったそうです。

アンニッキさんが言うのです。
うちの窓が割れたあのとき、レオは旅立ったんだと思うと。
レオさんが息をひきとったのは
雷と雨がひどい嵐の晩でした。
築150年以上の古い木造のお屋敷を修復しながら住んでいる
エルッキさんとアンニッキさんの家には、
古い窓ガラスが使われていました。
厚みのあるしっかりしたガラスですが、
そのガラスががたがたと音をたてるほどの風が吹き、
窓に雨を叩きつけてきました。
そこに容赦なく響く雷。
そして大きな雷の音とともに、
窓のガラスが割れたのです。
別に石が飛んできたわけでもなく、突然。

実はエルッキさんとアンニッキさんは
何よりも雷が怖いのだそうで、
そんな二人にとってはとんだ災難な夜だったのですが、
翌日レオさんの訃報を聞いたときに、
その雷の音も割れて床に散った窓ガラスの破片も、
すべてレオさんがお別れに来てくれたんだ、
そう思ったら腑に落ちたのだそうです。
確信めいた表情でそう語っている二人を見ながら、
確かにそれはレオさんの
律儀さのように思えてくるのでした。

来るもの拒まず、
ただし自分から行くことはあまりなさそうなレオさん。
エルッキさんに連れられて
初めてレオさんのお宅に行ったときも、
日本人の私に家の敷地にある
いろんなものを見せて解説してくれたり、
畑や森の恵みをつかった料理を振舞ってくれました。

流し台はあるけれど水道を使わず、
バケツにくんでおいた水を使い、
調理はすべて薪をくべて煮炊きする。
電気があることを忘れるような暮らしです。
パンを焼くのは週に1回まとめて、母のレシピで。

納屋には朝食にいただくオートミールに混ぜる
リンゴンベリー(こけもも)が
大きなポリバケツに入っています。
リンゴンベリーは潰して砂糖をまぜておけば
日持ちすることを教えてくれたのもレオさんでした。
見よう見真似で覚えたアコーディオンを演奏してくれたり、
畑や森を歩きながら、
昔ながらの知恵を教えてくれたこともよく覚えています。

いっぽう森を育てるきこりの仕事では、
見たことのないような最新機材を使っていて、
それを嬉しそうに見せてくれました。
トラクターはじめ数々の機械があり、
私はいつだって「ぽかーん」としていたと思うのですが、
それでも根気よく機械の説明をしてくれました。

森の木々を伐採したら、
きちんと苗木を植えなくちゃなりません。
レオさんは、私に苗木を持たせてくれて、
今フィンランドでどうやって苗木を植えるか
体験させてくれました。
私なんかにやらせると
時間がかかって仕方ないと思うのですが、
私のそばで丁寧に、
そのつど苗木の植え方をチェックしてくれました。

寂しいよ、寂しいとしかいいようがない。
そうエルッキさんが言っていました。

そう、レオさんが教えてくれたのは
知恵とか知識とか歴史とかテクニックとか、
そういうことだけじゃない。
っていうか、そういうことではなかったんですよね。
改めてそう思います。
レオさん、やっぱり寂しいです。

(つづきます)

 

 

2015-10-24-SAT
takei


   
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そもそものお話  
森下ヒルトゥネン圭子 Keiko Morishita-Hiltunen [coordinate & text]
松井康一郎 Koichiro Matsui [photograph]
武井義明(ほぼ日刊イトイ新聞) Yoshiaki Takei [text & photograph]


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