かっこいい、 草刈さんと周防さん。
第5回 私のほうができます。
糸井 周防さんは、どちらかというと、
学問的に見えますからね。
プロデューサー的な部分もありますし、
全体の環境を丸ごと捉えて表現しようとするから。
周防 はい、そうですね。
糸井 配給のことなんかも、
普通に考えられるでしょう?
周防 いや、配給のことはあんまり
考えたくないので‥‥というか
関わりたくないです。
糸井 前もって調査したりはするでしょう?
周防 作ったものをどうやったら
多くの人に観てもらえるか、
という意味では、考えます。
糸井 「そこは俺の仕事じゃないよ」という
人ではありませんよね。
草刈 いや‥‥。
糸井 違うの?
草刈 この方はそういうタイプですよ。
ほんとうは、私のほうが
プロデューサータイプです。
周防 まったくそのとおりです。
一同 (笑)
糸井 そうか、草刈さんは
自分でプロデュースしてたんだもんね。
草刈 ステージのギャラ交渉まで自分で
やっていました。
でも彼は、作品を作ること以外はいやだ
というタイプです。
糸井 (笑)そうか。
草刈 だから、こちら(周防監督)のほうが、
タイプとしては、ほんとうは
すごく芸術家なんです。
周防 よく言う(笑)。
糸井 そう言われると、そうかもしれない。
草刈 私はバレエという
豊かな環境ではないところでやってきたので、
「なんでもやります」というタイプです。
糸井 なんか、男と女が間違えて‥‥。
草刈 (笑)
周防 まぁ、環境のせいということはあるでしょうね。
つまり、映画に比べてバレエのほうが
商売のシステムが確立されていないので、
何かをやろうと思ったら、
自分でそのシステムを作らないといけない。
草刈がプロデュース公演をやろうとしたとき、
どうしていいかわからなかったんですよ。
バレエ団じゃなくて個人が公演をやる、
そんな例はなかったから。
糸井 それは、まるで
永ちゃん(矢沢永吉さん)みたいですね。
周防 そうかも(笑)。
糸井 聞いてると、そんな気がしてきた。
周防 ほとんどの人がバレエのことを知りませんから、
お金をどう集めて、どういう公演にして、
というところからやらないと
すべてが動かない。
映画は、お金さえあれば、
流通に乗る道はあるわけです。
糸井 「そこ、ぼくは知らない」って
言えますよね。
周防 そう。だけどバレエは、それを言っちゃったら、
誰も知らないんで、何も動かない。
日本のバレエをよくわかっている
優秀なプロデューサーがいたら、
もっと楽に自分の公演ができるはずです。
糸井 でも、いなかった。
運命は取り替えられないですね。
草刈 でもまぁ、そこで勉強できたので
いい経験になりました。
映画の中で踊った
『ダンシング・チャップリン』の振付師は
ローラン・プティさんですけれども、
私がプロデュースした公演は、
ローラン・プティさんの作品集だったんです。
糸井 プティさんの。
草刈 ええ。ですから、つまり
‥‥あんな怖い人とも。
糸井 やるんですね(笑)。
草刈 はい。
糸井 やっぱり草刈さんはプロデューサーだ。
一同 (笑)
糸井 「10年経ったら教えてあげる」みたいな人が
どの世界にもいるけど、
プティさんにはそういう感じもありますね。
やわらかく見せてるけど、
ああいう人は怖いだろうなと思います。
周防 そういえば、できあがった映画を
プティさんに見せに行く前日に
偶然、糸井さんにお会いしました。
草刈 そうなの?
糸井 そうそう。
ちょっと嫌がってた。
周防 さんざん嫌がってました。
一同 (笑)
糸井 ぼくはあのとき
「飛び込んじゃえば大丈夫ですよ」
なんて言ったけど、周防さんのほうも
「まぁ、大丈夫です」って
おっしゃってましたよ。
周防 いやぁ、おっかなかったです。
この映画自体、公開できなくなる可能性も
考えていましたので。
糸井 そういうむずかしい人ともやりあって
プロデュース公演を果たすってすごい。
草刈さんが
「私のほうができますよ」
と言いはじめてからは、
やっぱり完全に、永ちゃんでしたよ。
周防 (笑)
糸井 永ちゃんも、そうなんですよ。
「なんでバリライト点けられないの?」
「なんでプロモーターは
 こう動いてくれないの?」
「なんでそんなところにこれがあるの?」
アーティストとして、
「なんでそんなことやってくれないんだよ」
と言いはじめて‥‥
草刈 いやだ(笑)、
私もよくそういうこと言ってます。
それで、結論はいつも
「自分でやっちゃったほうが早い」
糸井 そうなんです。
「そうすると金がかかるんですよ」
と言われて
「かかるっていうのは、いくら?」
「もしかしたらできるんじゃねぇか」って。

舞台設定も弁当の手配も
「うちでやろう」ということになって
ひとつずつ潰していったら、
結局チケットを売るところからやるようになった。
たぶん草刈さんもそれに近いでしょう?
周防 近いです。
糸井 永ちゃんは
「ほんとうに俺のステージをよくしたい」
「俺が決めたんだからやる」
といって、たった数曲のために
チェコからオーケストラを
呼んじゃったりするんですよ。
周防 今回の映画でもね、
草刈はロシアのトレーナーを呼んで‥‥
それから、フランスからバレエマスターも‥‥。
糸井 同じじゃないですか。
草刈 (笑)
周防 しまいにはキューバ人ダンサーを
スペインから呼んで。
糸井 全部、草刈さんが決めたわけですよね。
周防 そうです。
草刈 若者の配役は
ルイジ(ルイジ・ボニーノ)さんが
したんですけれども。
周防 バレエを完璧に作るためには、
そうしないとだめだと言うんで、
予算枠ないのに、途中から無理やり
バシッと予算を取ってしまった。
(つづきます)
2011-06-29-WED
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HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN