第8回 眠りは、取引でも貸し借りでもありません。

井上 結局眠りにはいろんなパターンがあって、
知人のやってるうまい方法があるから、
あれに限るよ、なんていうのは、
やめることですね。
糸井 つい、やりたくなっちゃいますね。
それいいなぁと思っちゃいます。
井上 自分で見つけるほうがいいでしょうね。
試行錯誤をして、いい方法を。
どうせ、パターンがいくつもあって
それが、なんとかなると思うんです。
それほど、性能がいいですからね。
糸井 その自信と言いますか、信じ方が、
やっぱりポイントですね。
井上 そうですね。
ある程度自己管理ですから
自分の頭使わなきゃいけないですけど。
いま、偉い人の頭使って考えるとか、
お金払って考えるとかばっかりやる時代でしょ。
そんなのは、全然報われないわけです。
自分の頭で、自分を知って、
それで自分に一番いいような眠りを
編み出せば、いいわけです。
それは、いっぱいあると思うんです、正解。
そのいくつかのうちの一番よさそうなのを
実行すればいいだけの話です。
糸井 「オレは、ずーっとその浅い眠りしかなくて」
って、ずーっと言ってる人というのは、
そこで本当は安定してるというふうに。
井上 それは、その人のうまい方法で、
その人の生活には、
一番やりいいパターンなんでしょうね。
だけど、他の人がそれやって
うまくいくという保証は全然ないわけです。
糸井 つまり、そうやって生きていて、
特に病気にもなっていないんだとすれば
病気になるとすれば、
逆に考えすぎてのストレスというのが
あるかもしれないですね。
井上 そうです。そうです。
そういうことを、かえって考えすぎて
余計な悩みを背負い込んで
それでうまく眠れないなんてことの方が、
現代人は多いんじゃないかと思います。
 
糸井 ぼくは、若いときに、
もっと若い人に助言したことがあって
目覚まし時計をかけるときに、
「引き算をするな」
って言ったんですよね。
井上 なるほど。
糸井 つまり、いま何時で、何時に起きるから
計何時間眠れるぞ、とか、
ああ、何時間しか眠れない、とか
数字を考えただけで、
起きてる時間がつまらなくなるから。
井上 そうですね。
糸井 それを吉田戦車さんに言ったら、
「ほんとにいいこと聞きました」と
言われた覚えがあります。
自分ではなるべく、引き算しないで、
目覚ましとか、かけるようにしてたんです。
絶対にその方がいいですよね。
井上 そう思いますね。
糸井 多すぎても、足んなくっても、
何か感じの悪さが昼間に残っちゃうんですよ。
井上 1分でも2分でも余分に寝るなら
それだけ、眠りに対する借りを返した、
借金をせずにすんだなんて計算をするとね、
それは、もう全然報われないわけです。
眠りは、そんなもんじゃなくて、
かなり流動的なものですからね。
糸井 きっと自己催眠みたいに、
調子悪いな、みたいなのとか
つくっちゃうんでしょうね。
井上 そうですね。
ですから、結果として、
寝てもいいんだぞという信号を
自分が自分の脳に送れるかどうか、
ということでしょうね。
ですから、例えば、寝る前に
パジャマに着替えるとか歯を磨くとか、
そういうことでスイッチが切り替わるわけですよね。
ですけど、昼間のことを反芻したりなんかすると
結局眠りを追っ払っちゃうんですよ。
糸井 考えてもしょうがないことを
儀式で乗り越えるみたいなことが、
無意識にできてるわけですよね。
井上 そうですね。
それは、もうかなり催眠的といいますか、
心理的なものですよね。
糸井 こうでなきゃダメだという儀式よりも、
こうであると眠れるんだという
ポジティブな言い方のほうが
よりいいですね。
井上 そうですね。
糸井 「オレは、真っ暗にしないと眠れないんだよ」
という言い方をする人は
真っ暗じゃないとき、つらいですよね。
井上 そうですよね。
糸井 「オレは真っ暗にすると眠れるんだよ」
という言い方だったら
より簡単に、ですよね。
井上 はい、はい。
糸井 やっぱり甘くすることですね。
井上 そうですね。
ですから、あまり眠りに究極のとか
グルメ的発想、思考は、
労多くして功なし、です。
そういう意味じゃ、現代人は
眠りに対して不満が多い分だけ、
かえって損をしています。
糸井 戦乱状態にある国の人は
そんなふうな悩みはないと思うんですよ。
おそらく。
井上 そうなんです。
糸井 ぼくがよく思ってるのは、
学生時代とか、仕事がヒマだったときって
もっと眠かったし、寝てたんですね。
それは、いつでも寝られるという状態があるときって、
つい寝ちゃうんだけども、
そのときに、とても元気だったかというと、
そんなことはなくて、
とても病弱かといわれるとそんなこともなくて。

結局、忙しけりゃ忙しいなりに
なんかバランス取れてるんで、
学生時代はいつでも眠いんだよ、って、
ぼくはよく学生に言うんです。
学生って寝てもいいんですよね。
 
井上 結局、そういう、うまい適応能力を
睡眠というのは備えてますから、
その時代に、その時点で一番やりやすい、
しかも効果的なものを
出してくれてるんですよね。
ですから、それをあえてひん曲げなくても
素直にやっていいわけなんです。
糸井 さっきの長距離トラックの
運転手さんの話なんかは、
普通に考えて労働の無理というのを
ある程度管理する必要がありますよね。
井上 そうです。
ですから、問題は睡眠管理じゃなくて、
覚醒の管理なんです。
ほとんどの問題は覚醒の問題なんです。

睡眠は結局、
覚醒のサポートをするような形で従ってますから、
覚醒の方がよっぽど大事なわけですね。
糸井 光と影の関係で、光をどう当てるかが、
影をつくるわけですものね。
井上 眠りの方が光かもしれないですね。
糸井 そうか、そうですね。
井上 いろんな意味で関連が濃いですから。
 
(つづきます。)
2008-02-22-FRI
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