轟木節子がつくる、気持ちのいい服。BIWACOTTOM(ビワコットン)

BIWACOTTONの魅力。 轟木節子×開発者座談会

BIWACOTTONを織る
杉岡織布の杉岡定弘さん、
製品を開発した大手アパレルの
カイタックファミリーの山下秀一さん、
デザインしたスタイリストの轟木節子さん。
この3人が、
BIWACOTTONの開発から、その魅力までを語りました。

※この座談会は2018年7月に行いました。

轟木さんと
BIWACOTTONの出会い。

轟木
私が BIWACOTTON(ビワコットン)と出会ったのは、
2017年の夏。雑誌で
「涼を感じる物選び」という企画があって、
代官山のインテリアショップにリサーチに行ったとき。
最初は、私、ビワの葉っぱの方のビワが大好きなので、
ビワだと思って説明を読むと、ビワ違いで(笑)。
杉岡
琵琶湖のビワでして(笑)。
轟木
触ってみたら、すごくサラッとしてて、これは涼しい!
で、その日に山下さんに問い合わせて、
撮影用に貸していただいて。
山下
ちょうどBIWACOTTONの服を世に出し始めた頃で。
ユニセックスのアイテムを用意したけど、
メンズにばっかり売れちゃうな、っていう時期だったんです。
やっぱりレディースをやりたいなあ‥‥って。
それで、レディースの服のことだったら、
スタイリストさんが一番よく知ってるにちがいないって思って、
轟木さんと出会ってすぐに、図々しく電話したんですよ。
「レディースをつくってみません?」って。
そこから始まったんです。

左から、山下さん、杉岡さん、轟木さん。

轟木さんがデザインしたBIG Tシャツ。

こちらはフレンチスリーブインナー。

江戸時代から続く高島ちぢみをさらに進化。
独特の風合いとストレッチ性を持つ
綿100%の生地が誕生。

杉岡
BIWACOTTONっていうのは、
そのルーツが高島ちぢみというもので。
山下
日本全国、ちぢみっていう布はいっぱいあるんですよね。
杉岡
あるんですよ。江戸時代からあります。
新潟県の小千谷(おぢや)とか有名ですね。
小千谷縮は高級品ですよ。
山下
ちぢみって、地域で製造工程が多少違いますもんね。
杉岡
共通するのは、表面に凸凹があって涼しい肌ざわり。
昔の人たちにとって着心地がいいっていうので、
いろんな工夫をされてきたんでしょうね。
よかったんだと思うんですね。日本の風土に。
山下
肌に触れるものはやっぱりちぢみがいい。

BIWACOTTONは、さらさら、しゃりしゃり。
綿100%でのびちぢみする、気持ちいい質感。

轟木
江戸時代から続いているってことは、
手で織ってたんですよね?
杉岡
手織りです。手機(てばた)で、
地元で栽培した綿で、
このへんの水で洗ってたんだと思います。
それがだんだん機械化されていったのが今のかたちです。
轟木
すごいですねえ。
さっき水路を見かけました。水が豊富なんですね。
山下
いやあ、日本にもいいものあるんですよ。
轟木
ほんとに。
杉岡
高島ちぢみの独特のシワは、
糸を強く撚ることで生まれます。

BIWACOTTONの糸は
強く撚る高島ちぢみの糸にさらに撚りをかける。

杉岡
ステテコなんかで親しまれていたんですけれど、
この布をファッションアイテムにしたいと思ったとき、
山下さんたちからまず言われたのが、
高島ちぢみの特徴はすごくいいんだけど、
まず高島ちぢみって名前に閉塞感を感じると。
轟木
「和」という印象がつよいですね。
杉岡
ファッションの世界でやっていくなら、
名前をまず変えて、素材も改良しましょう、
と提案いただいて。
ちぢみの特徴を
もっとブラッシュアップすることにしました。
杉岡
高島ちぢみのプレミアムゾーンというか、
そういう究極のところを追求して、
いろんなものを作りました。
山下
いくつかの究極を作った中に
BIWACOTTONの原型があった。
轟木
この生地感がいいですよね。
山下
この素材の感じが。
杉岡
クレープっていうのは、
織りは粗いんですが、撚りの力で縮みます。
縮んだことで、
その粗く織られた部分の空気も含まれて波打つ。
クレープって語源がもともとフランス語で、
薄いものって意味もあると思います。
薄くて波打つ、っていうのは
高島ちぢみの定義のようなもので。
轟木
同じだったわけですね。
杉岡
その特徴はやっぱり活かしたほうがいい。
そういう古臭いって言われるような技術も
活かされているんですよね。

幅180cmで織った薄い布が
幅88cmに!

轟木
すごく伸びますね。
杉岡
ほんまに。
山下
いや、もう、カットソーのニット生地みたいな。

仕上がった生地は横幅88cm。

綿100%の平織りなのに、ぐぐっと伸びる。

杉岡
平織りで、糸の縮みを最大限生かしてるんです。
山下
一般的には、縮んでる素材っていうのは
伸ばしたら伸びっぱなしになるはずなんです。
それを戻すために
通常はポリウレタンの糸を入れるんですよね、
ストレッチ素材っていうのは。
だけど、これ、ストレッチ性があるんだけども、
ポリウレタンは入れてないんですよ。
なぜ戻るんだっていう話なんです。
轟木
綿100%の織りで
こんなに伸びる素材、見たことがありません。
山下
糸を限界近くまで撚っていることと、
エンボス、つまり型押しをしているということです。
山下
平織りですが、
アコーディオン構造みたいになってるんです。
轟木
作るのがたいへん、なんですよね。
山下
糸って、撚れば撚るほど強くなるだろうって
思うものですが、
強くなるってことは、イコール堅くなるってことですよね。
堅くなると実はもろいんですよ。
轟木
はい。
山下
ガラスみたいなもので。
ガラスって硬いけど、落としたら割れるでしょう。
この糸は、もう極限まで堅くしてるから。
ちょっと負荷かけると、切れる可能性があるんですよ。

強撚の糸を使い、隙間を設けて生地を織る。
このあとエンボス(型押し)をすることで、
伸縮性があり、風通しがよく、肌に張りつきにくい
独特の特徴が生まれる。

轟木
織ってる幅と、仕上がりではずいぶん幅が違いますよね。
杉岡
BIWACOTTONは、わりと広い幅で織って、
それを一番狭い、幅88センチで仕上げるんです。
轟木
織ったときの幅は何センチですか?
杉岡
70インチですから、180センチ近くはあるんですけども。
轟木
わあ。
山下
180cmが88cmになる‥‥半分以下ですね。
杉岡
織り縮みっていうのが、もう織っている時点であります。
山下
縮みすぎる、って言われるんですよ。
いや、そこが味なんですけどねえ。
狙いなんですけどねえ。
轟木
おもしろいですねえ。

鬼っ子が、いい子に。

山下
これだけ伸びてこれだけ縮むもんですから、
断裁は1反1反、パターンを変えてやってます。
そして、じゃあ、縫おう! となってみたら、
これまた大変で。
轟木
ニットを縫うようなこと?
山下
いや、ニット以上ですね。
杉岡
以上ですねえ。

綿100%なのに、伸びて縮みます。

山下
たとえば、洗いや染めの工程も手間がかかってます。
ふつう、製品って、染まってる生地を裁断して、
縫いっぱなしで市場に出ていくものが多いんですけど、
これは全部、縫ったあとで染めたり、洗ったりしてるんですよ。
製品染め・製品洗いっていうものですね。
なんでかっていうと、生地ができあがってきた状態で、
普通の生地より、縮んでる状態なんですけど、
実は製品で染めたり、洗ったりするとさらに縮むんですね。
轟木
その縮みも考えたうえで縫ってるってことですか?
山下
そうです。その縮率をちゃんと読んで、
しかも色ごとにまた縮率が違います。
だいたい、さらに10パーセント縮むんですね。製品で。
通常で考えたら、もうとんでもなく効率が悪い。
杉岡
だから、あんまりみんなやりたがらないですよね。
山下
普通で考えたら、生産効率悪いね、
無理だよね、ってあきらめる素材ですよ。
ただ、やはりこの縮みがあってこそのこの風合いなんで。
まあ、とにかくやり続けようっていうことで。
杉岡
山下さんだから、その工程を思いつく。
山下
僕、もともとジーンズを作っているんですよ。
ジーパンの生地や製法も独特ですからねえ。
手間がかかることが苦にならない。
洗い工場も必ずセットになってますから、
個体差があったり、製品を洗うっていうことは、
ジーンズではあたりまえなんですね。
杉岡
BIWACOTTONは、生産性っていう基準からすると、
鬼っ子ですね。
山下
もう常識外です。
杉岡
でも、織りにくいものに挑戦するっていうのは
機屋(はたや)としてはすごい面白い部分だと思いますね。
めぐり合わせも、ラッキーでした。
まず、山下さんにアパレルへの道を示してもらって。
轟木さんに入っていただいてほんまによかったなと思います。
轟木
たいへんだけれど、ものづくりのたのしさがある!
BIWACOTTON、鬼っ子だったのに。
いい子に育ったんですね。

トップページへ

このコンテンツのトップにもどる
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN