草場 「香らず香」は、
私のメイクアップサロンでもよく使っているんです。
私自身はあまり香水を纏わないですし、
ヘアオイルやボディクリームも
香りが残らないタイプで、
材料に含まれるエッセンシャルオイルも
徐々に消えていくようなものを使うことが多いんですけど、
いろんな方が出入りされて
それぞれ香りの好みも違いますから、
香りが残ってないほうがいいなと思うんですね。
だからお一人が帰られて、
次のお客さまが来られるまでの間に
「香らず香」を焚いています。
もうこれがないとという感じで
手放せないです。

竹内 僕も香水は使わないので試したことがなかったですけど、
香水のような香りにもちゃんと効きますか？

草場 私は「香らず香」を焚いてから、
消えたあとに部屋の窓を全部開けて
空気を入れ替えていますけど、
全然気にならないですね。

竹内 それはよかったです。
「まず無くす」という考え方としては、
お茶も一緒なんですよね。
香りを作る山藤さんもそうなのかも知れないんですけど、
お茶の味を作るときも、
引いていく作業だなと感じます。
「この味を引き出したい」と思ったら、
足すよりはまず他のものを引いたほうが
その素材が持っている特徴が出てくる。
自然にあるものを使うので、
自分が作った味だとは一切思わないんですけどね。

草場 ええ！ そうなんですか。

竹内 僕がやっているのは自然栽培というか、
放置栽培ですよね。
雨が降らなかったり、逆に雨が降り続いても、
僕らが使っている植物たちはわりと元気なんです。
天候や他の植物と競って育ってくれたもののほうが、
味わいが濃い。
肥料とかをたくさんあげて甘やかすと、
見た目はきれいに育つんですけど、
持っている体積に対して味の量がすごく少ないんです。
ゆっくり育ったほうが、
味をじわーっと蓄えてる。

草場 すごくおもしろいですね。

竹内 季節ごとやオーダーごとに
お茶をブレンドするんですけど、
たとえば高知の牧野植物園さんと一緒に作ったお茶は、
旨味と野趣を両端に置くとすると、
野趣に寄せているんですよ。
植物をバーンと感じられる味ですよね。
一方で、銀座にある料亭さんには
旨味の方に寄せて味わいを調整したり。
どちらも引くという作業をすると、
自分が作った感じじゃなく、
「自然が育ててくれた味」になる気がします。

草場 いろいろな要素を、
ものすごく緻密に考えてらっしゃるんですね。

竹内 細かい違いが、たくさんあるんですよ。
たとえばドクダミは、
１年のうちに３日間しか摘みどきはないと思っています。
一般的には花が咲いた「開花期」に摘むといいと
言われているんですけど、
実は花が “咲きかけ”に摘むと
苦みもえぐみもなく、
高山烏龍茶（台湾の標高1,000m以上の高地で栽培される、花のような香りと甘みが特徴の烏龍茶）みたいな
風味がするんです。
薬効も一番高いと、
牧野植物園さんの研究結果にも出ていました。

草場 えー！
１年のうち、たった３日‥‥。
そういう知識は、
竹内さんご自身で試しながら得ていかれるんですか。

竹内 そうですね、
実際に試しながらという感じです。
ヨモギも標高によって全然味が違うこともわかりました。
味と香りのバランスがいいなと思うのは350ｍですけど、
1000ｍくらいまで上がると
信じられないようないい香りがします。

草場 ヨモギが？
想像できないです。

竹内 でも逆にヨモギ餅のような味は出ないんですよ。
何かを得るためには何かを捨てて、
ちょうどいい具合のところを探していくような作業です。

草場 やっぱりそこも引き算なんですね。
「香らず香」も、
料理やお茶を追求されている竹内さんだからこそ
行きついたものなんだなと感じました。

竹内 草場さんも、
以前ご自身のヘアメイクのスタイルについて
おっしゃっていましたよね。
足していく感じではないと。

草場 そうですね。
私もヘアメイクをする上で、
ただ華美に作っていくというよりも‥‥
もちろんそういうジャンルもあるんですけど、
私はその方に
いかに居心地悪くなく感じてもらえるかを考えています。

竹内 居心地がいい、ではなくて
「居心地悪くなく」というのが草場さんらしい。

草場 メイクって
その人を引き立てることは大事なんですけど、
メイクをした自分の顔が好きじゃなかったとか
鏡を見て恥ずかしくなったことがある方って、
メイクから遠ざかってしまうんですね。
そういう経験をできるだけなくしたいと思って、
「居心地悪くないように」といつも考えています。
たとえばもともとツヤがある方ならそこを活かして、
他の部分のツヤを抑えて
余分なツヤは足さないとか、
そういう「引き算」はすごく取り入れています。

竹内 草場さんのお仕事の仕方は
「私がやりました」っていうエゴがないですね。
メイクをしてもらう方が主役という。

草場 それは、竹内さんの
「僕が作ったんじゃなくて自然のもの」
という考え方とも通じるものを感じます。

竹内 ねぇ。僕もそう思います。

草場 香りやお茶の作り方にも共感する部分が多かったですし、
さらに尊敬の気持ちも大きくなって、
やっぱり竹内さんは仙人だなって
改めて思いました（笑）。
また仁淀川町に伺いたいです。

竹内 ぜひ。
こっちに戻って仕事を始めるときに、
京都と東京にお取引先を持ちたいと考えていたんです。
田舎に引っ込むというより、
逆にみなさんに行ってみたいと言ってもらえるような
自分たちでありたいと思って。

草場 それはもう、
実際に伺った私が言えます。
みなさん一度は行ってほしい！ と思いました。
tretreのインスタグラムも拝見しているんですが、
季節ごとの花や緑の写真を見るだけで癒されています。

竹内 とくに仁淀川の源流の方は、
まだ誰も触れていないような水だから
不純物が少なくて、
光が水の中まで通って青く見えるんですよね。
いつでも見に来てください。

草場 今日は学びの多いお話が聞けて
すごくうれしかったです。
どうもありがとうございました。