“無い”ことの心地よさ

TALK

tretreの「香らず香」ができるまで

HOBONICHI

お香なのに香らず、
不要な匂いを取り去る「香らず香」
実は商品になる前の段階から興味を持ち、
工房のある高知・仁淀川町での取材に立ち会った草場さんが、
作り手の竹内太郎さんにどのように作られたのか
あらためて伺いました。
日本一の清流といわれる仁淀川の近くで暮らし、
自然と深く関わりながらものづくりをする
竹内さんの様子にも、
ぜひご注目ください。

タイトル写真川村恵理

竹内太郎(たけうち・たろう)

tretre代表。高知県出身。 京都で麺料理店に16年勤務した後、 2015年に高知・仁淀川の上流域で
tretreを立ち上げる。 自然のままのうまみをたのしめる
「摘み草茶」をはじめ、 山の暮らしのまわりにある素材をつかった お茶やアメニティを手掛ける。

tretre /トレトレ

日本一の清流といわれる高知・仁淀川。 その上流域で、 「ハーブティー」や「ヒノキウォーター」のような アメニティをつくっているブランド。 澄んだ水や空気、 四季折々の花や風の香りなど、 山の暮らしのここちよさを感じられるような 製品が並びます。

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02 真っ当なものづくり

竹内 消臭効果のあるお香を作ろうと思いついてから、
初めはヒノキ自体に消臭効果があるので、
ヒノキの香りをくゆらせたらどうかと考えました。
それでヒノキオイルをたくさん配合したお香を
作ったんですけど、
木が燃えたような香りしかしなかったんです。

草場 オイルはヒノキの香りがしても、
火を点けたらその香りにはならないんですか。

竹内 そうなんです。
お香屋さんが作る「ヒノキの香り」は、
実はヒノキと感じられるように
香りのブレンドを調整されているもので、
実際は焚き火のような香りになってしまうんです。
最初は落胆したんですけど、
これもたまたまご相談したほぼ日のスタッフの方が
「焚き火の香り、いいじゃないですか」
って言ってくださって。
「香らず香」って禅問答のような名前も
つけてくれたんです。
香りをなくすことをもたらすお香、
みたいなことでしょうか。

草場 実は私もそのお話を、
香りのお仕事をなさっている山藤陽子さん
一緒にいるときに伺ったんですけれども、
山藤さんも「香らず香」は絶対に商品化してほしいと
おっしゃってました。
香りに包まれた生活を送ってらっしゃると思うんですけど、
必要に応じて香りを一度消すことも
求められているんだなと思いました。

竹内 そうですよね。
「香らず香」という名前をいただいてから
あらためて消臭できるお香を作りたいと思って、
淡路島にある薫寿堂というお香屋さんにご相談したんです。
そうしたら、社内の幹部の方たちから
「お香なのに香らないって、なんやそれ!」
という反応が起こったみたいで。

草場 なんとなく想像できます(笑)。

竹内 というのも、
ご先祖さまは香りを食べるということらしいんですよ。
お香をお仏壇に立てることで
煙と香りを召し上がっていただくという意味があるので、
それをなくすのはけしからんと。

草場 そういう意味があったんですね。

竹内 しかも、僕からは
マンション暮らしの方も多いから
煙も極力なくしてほしいとお願いしたので、
「煙もないし香りもないのは
お香として意味がわからん」と。
でも研究部門の方は、
昔に比べてお寺や檀家さんが減ってきて
仏壇を置かない家も多いので、
危機感を感じておられたんですね。
「ライフスタイルに合うものを作っていかなあかん」
と理解していただいて、
手練りから試作を始めてくださいました。

草場 開発はスムーズに進んだんでしょうか。

竹内 僕からヒノキオイルを送ったり、
担当の方が「ヒノキの葉っぱでやってみましょう」
と言ってくださったりして、
試行錯誤を重ねました。
行きついたのがこの「香らず香」で、
高濃度茶カテキンを通常のお香の10倍入れて、
備長炭も配合したものです。
普通のお線香って
田舎のおばあちゃん家の匂いのイメージだと
思うんですけど、
あれはタブ(椨/タブノキ)という木の匂いなんですね。
タブはお香を作るときの「つなぎ」で、
お蕎麦でいう小麦粉の役割をしている、
とても大事な材料なんです。

草場 それがあるからきちんと形になる。

竹内 そうです。
でも僕はその匂いもなくしてほしいとお願いをしたので、
タブを極力減らす代わりにヤシガラを炭化させた
「ヤシガラ炭」を採用してくださったんです。
ヤシの実せっけんとかを作ったときにできる、
実をとったあとのヤシガラを炭化させたものですね。

草場 ヤシガラ炭でも、つなぎになるんでしょうか。

竹内 お香の生地になるものを
大きいローラーで薄く伸ばしていくんですけど、
タブの配合が少ないとローラーに貼りついて
はがすときにモロモロになってしまうらしいんです。
それでは棒状にできないので、
ヤシガラ炭の生地で成型できるように
加水量を調整したり、
工夫を重ねてもらって実現できました。

草場 薫寿堂さんとの出会いもすごいですよね。
これまでのお香の常識を覆すようなものを作られて。

竹内 本当にすごくラッキーです。
ちゃんと匂いが消せるお香ができたし、
お願いできてよかったなと思っています。
お家でお魚を焼くときに、
換気扇の対角線上で「香らず香」を焚いてもらうと
匂いを連れ去ってくれるのでおすすめですよ。

草場 対角線上ですね。
いいことを聞きました。

竹内 もともとは自分の暮らしを快適にしたいという
動機からはじめたことでしたけど、
みなさんにもよろこんでもらえるような形になって
うれしいです。

草場 それはものづくりとして
一番真っ当な形ですよね。
何かしら無理をして作り出すのではなくて、
必要だから作る、世の中にないから作るという。

竹内 本当にそんな感じなんですよ。
取引先の料亭さんなんかも、
やはり香りをとても気にされているんです。
例えばカウンター割烹だと、
強めの香りを纏われていたときは大変だし、
お手洗いにも強い香りの消臭剤や芳香剤を置くと
出てこられたときに周りの方も気になってしまう。
そういうときに「香らず香」を焚くと、
ふわっと香りながら
不要な匂いをすうっと引いていってくれるので
ちょうどいいと思います。

草場 今その情景を想像してみて、
香りって目には見えないですけど
すごく美しいなと思いました。
「香らず香」のパッケージもそうなんですけど、
この細さとシンプルな色、香立て、
灰の落ち方まですべてが、
華美な美しさではなくて
無駄を削いだ美しさを感じます。
だから使うときもうれしいんですよね。
箱から取り出して火を点けるところまで。

竹内 この墨黒は原材料の
備長炭とヤシガラ炭の色なんですよね。
そのくらい炭が入っているから、
実は火を点けずに数本立てておくだけで
消臭効果が期待できると、
薫寿堂の研究者の方がおっしゃってました。

草場 へえ!
うちは3人家族で、
朝のトイレが混み合うんですね。
誰かのあとに入るときに
「香らず香、焚いた?」っていうのが合言葉なんですけど、
ある日帰ってきたら
火を点けていないのが立ててあったんです。
きっと夫が置いておくだけでも消臭されているのを感じて
無意識にやっていたんだろうと、
今気づきました。

竹内 ああ、それもいい使い方ですよね。

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