もくじ
- 01 追いかけるより、作りたい
- 02 理想の質感と香りを求めて
- 03 “つけ方” も大切です
02 理想の質感と香りを求めて
草場
「unseen HAIR OIL」の成分表を見ると、
ものすごくシンプルですよね。
ヒマワリ種子油とオリーブ果実油、
他にいくつか並んでいて、2行で終ってます。
ふつうのヘアオイルって、
もっと多いイメージですけれど。
山下
ヘアオイルを作ろうとすると
粘性をコントロールするためのものが必要だったり、
使う側も「〇〇オイル」というのが多いほど
栄養価が高くて魅力的に感じるので、
ついたくさん入れたくなると思うんです。
でも、僕が考える心地いいものは
「余計なものがないもの」なので、
逆にどこまで減らせるかという挑戦でした。
草場
こんなにシンプルなの?
ってびっくりしました。
山下
たぶん、いろいろな成分を足したほうが
作るのも簡単だったと思うんですけど、
シンプルな方が使う人にはわかりやすいと思ったんです。
例えば、
つけているときに嫌な臭いがした場合、
オイルの酸化が原因なのか、
自分の髪や頭皮との相性の問題なのか、
シンプルな処方のほうがわかりやすいですよね。
だから、ベースはヒマワリ種子油とオリーブ果実油、
そこに粘性を調整するものと香料だけです。
草場
使うお客さまのことを考えてのことだったんですね。
オイルを作られたあとに、
バームも出されましたよね。
山下
昨年(2024年)、発売しました。
最近の気候は、夏が長くて湿気も多いので、
オイルだけだと軽すぎるという方だったり、
毛先や、乾燥しがちなところに足して
使っていただけたらと思って作りました。
草場
質感がおもしろいですよね。
「オイルを固めました」という感じではなくて、
ちょっとザラッとしていて、
マット寄りに仕上がります。
山下
そうなんです。
理想的な仕上がりを求めて材料を探していたら、
アミコレというブランドの
シアバターにたどり着いて、
コラボレーションしてバームを作らせていただきました。
手触りも大事にしたくて、
つい手に取りたくなるような質感を目指しました。
アイスに「爽」ってあるじゃないですか。
草場
アイスの?!
ありますね。
山下
僕、あれ好きなんですけど、
なめらかなアイスとはちょっと違いますよね。
それで調べてみたら、
氷がほどよく混ざっているから、
舌触りがシャリっとするんですって。
それと同じような考え方ですけど、
バームも、シアバターだけで作るのではなくて、
シアバターにミツロウと香料を少しずつ混ぜて、
シャーベット感が出るように作っていきました。
草場
まさかアイスがヒントになっていたなんて
驚きですけど、
たしかにシャーベット感、出てます!
山下
これが触りたくなるポイントかなと。
それから、バームを手に取るとき、
僕ら男性は指の腹を使いますけど、
女性の場合は爪を使う方もいらっしゃいますよね。
そのときにすごく硬いと、
特に爪がやわらかい方は塗りたくなくなると思うんです。
最後まで使わないうちに
酸化して捨てられてしまうのは避けたいので、
「使いきれるバーム」を目指して、
手に取りやすいやわらかさと、
保湿はされるけど、
髪につけたあと手を洗わなくていいくらいの
質感にしました。
草場
オイルだけではなく、
バームも「手を洗わなくていい」質感を
大事にされたんですね。
確かにしっとり保湿されるけど、
洗いたい感じにはならないです。
山下
僕も含めてですけど、
みんな頻繁にスマホを触るじゃないですか。
そのときに画面が汚れたり、
手がベタついたりしないようにしたかったのと、
僕ら美容師が仕事をしている中で、
指の間にバームが残っているとシザーが滑るので、
それは避けたいんですよね。
でも一方で、バームが持っている保湿効果は、
本来いい役割ですから、
しっかり洗い流さないといけないのは
矛盾してるなとも思ったんです。
だから、髪につけても心地いいし、
手に残っても気にならないものが作りたかったんです。
草場
うん、気にならないですね。
香りは 「unseen HAIR OIL」とは
また違いますよね。
山下
はい。
バームには、
オーガニックのエッセンシャルオイルを合わせようかとも
思ったんですけど、
シアバターの香りとぶつかり合うと思ったので、
まずは香料を入れずに、基剤のシアバターとミツロウだけで
最後まで臭くならずに使えることを前提に考えました。
プレーンで使って臭くなるものだと、
香り以前の問題ですし、
反対に香料や粘性の調整剤によって
基材が酸化して臭くなるのも避けたい。
ですから、
基材だけで粘性がちょうどいいものを選んで、
その上でバランスが崩れないような調香を、
何度も見直しながら作っていきました。
草場 調整を繰り返してできたんですね。
山下
「この剤質に混ぜると、この香りが前に出てくるね」
みたいなことを見ていくんですけど、
香りの濃さの調節が、結構大変でしたね。
草場
最初にシナモンの香りがフワッとくるのが
クセになります。
この香りを嗅いだらもう、直感的に
「unseenのバームだ!」と思ってしまいます。
山下
香りは5つくらい入ってるんですけど、
主軸はシナモン、
ブラックペッパー、シダーウッドです。
草場
ちょっとスパイシーな香りで、
主張はあるけど尖りすぎてない、
毎日でも使いたくなるような質感と香りだなと思います。
私、取るときは基本的にスパチュラでとるんですけど‥‥。
山下 えっ。スパチュラで?
草場
これはもう職業病で、
スキンケアアイテムも全てそうしてるので
クセみたいなものでして(笑)。
ちょっと太めのスパチュラでとって、
体温で少し溶かしてから使ってるんですけど、
「今からスタイリングするぞ」
っていう儀式みたいな感じが好きです。
山下
そうそう、儀式感ありますよね。
僕もすごく好きです。
草場
「よし、整った!」って、
朝からスイッチをオンにしてくれる存在です。
山下
実は僕、もともとバームは使っていなかったんです。
でも、周りにオイルと一緒に使っている方が多かったので、
unseenのオイルと併用したときに、
香りも混ざることを想定して
バームを作らなきゃと思いました。
例えばバームを指に少し取ってつけて、
オイルは髪の長さによって少し多めにつけた場合は、
オイルが少し重めに香って、
ウッドが若干甘く感じられるんです。
その絶妙な香りを気に入ってくださるお客さまがいたり、
バームだけをunseenに変える方も多いです。
草場
私も、unseenのバームに出会うまでは
デイリーでバームを使うことはあまりなかったです。
髪はオイルでまとめれば十分だと思っていたんですけど、
今では顔周りやホールド力が欲しいところは
このバームでなくちゃ、という感じです。
山下
オイルだと軽いけど、
バームをつけておけばとりあえずまとまる、
みたいな安心感がありますよね。
草場
unseenのパッケージの佇まいも好きです。
でも、山下さんが作られるなら
もっと個性的な感じかなと勝手に思っていたので、
実はちょっと意外な感じがしました。
山下
ああ、そうかもしれないですね(笑)。
意外とシンプルでした?
草場
すごく美しいと思いました。
オイルもバームも、
すりガラスっぽい質感の容器に、
白字で unseenのロゴが入っていて、
文字がふんわり浮かび上がって見えるのが、
全体的にやさしい感じに見えました。
山下
僕がヘアオイルを作ることになって
デザイナーと一番最初に話し合ったのが、
「美容室・hodosのスタイリング剤」
という感じで出していくか、
美容室とは関係なく、
独立したプロダクトとして出すか、
どちらがいいかということでした。
前者だと、
当たり前ですけど
僕の色が全面に出ることになるとわかったので、
あえてそれを止めてほしい、
とデザイナーにお願いしたんです。
草場
じゃあ、
独立したプロダクトとして作ろうと。
山下
はい。
このプロダクト自体にファンがついたり、
これをきっかけに hodosを知ってもらうのも
いいかなと思ったんです。
「unseen HAIR OIL」と
「unseen HAIR BALM」、
まだ2つしかないですけど、
特に僕が作ったことを言わずに、
僕がカットした髪形に合うスタイリング剤として
お客さまにご紹介したとしても、
プロダクト自身で世界観を伝えていけるようなものが
作れたかなと思っています。
草場
「unseen」というブランド名は
どのように決められたんですか?
山下
「精神、人生、神」みたいなキーワードから
デザイナーと一緒に考えていきました。
これを話しはじめるとまた長くなるので、
また今度(笑)。
草場 ふふ。わかりました。
山下
そんなふうに、
僕の場合はひとつひとつにこだわりすぎてしまうので、
「自分らしさ」を全面に出すと危険な気がすると、
デザイナーにも最初に相談しました。
理解されないし、売れない気がします、と。
草場
そうなんですね。
じゃあ、わざと間口を広げるというか、
そういうことを意識されて。
山下
そうですね。
プロダクトはまず体験してもらえないと意味がないですし、
デザインに関して言えば
日々生活の中で置いておきたいものって、
トゲトゲしてないものだと思うんです。
心地よくて、使い勝手がいいことがすごく大事。
草場
うん、「unseen HAIR OIL」は、
この形状がすごく使いやすいです。
ポンプ式だから、
フタを外して、さっと手にとって
髪につけられるのがいいですよね。
山下
毎日使うものなので、
不便を感じないように作りました。
これまで僕が好きで使っていたスタイリング剤でも、
「ここが直ったらもっといいのに」みたいな
改善点も取り入れて。
草場 容量も、けっこう多いですよね。
山下
軽いオイルだから、
欲しい質感にあわせて毎日多めに使っても、
すぐになくならない方がいいなと思いました。
草場
私、スタイリングのときは4プッシュくらいつけるのと、
濡れた髪を乾かすときも
ドライヤーのダメージから守るためにつけるので、
毎日結構な量を使っていると思うんですけど、
2ヵ月くらいはもちますよ。
山下
僕の場合は一度に使う量がワンプッシュくらいだから、
もっともっちゃいます。
草場
すごい!
気兼ねなく使えるところもうれしいですね。