HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

伊藤まさこさんとつくりました。ベトナム手刺繍の服。 Preview 01

伊藤まさこさんが「ずっと、つくりたかった」
ていねいでうつくしい手刺繍の服。
ベトナムのひとたちが持つ最高の技術をいかした、
大人のための上質な服。

たっぷりしているのに、きちんとしていて、
かわいらしさがありながら、幼くは見えないよう、
素材とパターンにも気を配りました。
ブラウス、ワンピース、カシュクール、
それぞれ2色ずつの展開。
どの服も「一箇所のみ」
手刺繍を使って仕上げています。

手刺繍はベトナム在住の田中博子さんひきいる
ホーチミンのチームが担当、
素材と縫製は、これまでも伊藤さんといっしょに
服づくりをしてきた神戸のCHECK&STRIPE。
デザインは伊藤まさこさん、
パターンは“saqui”というブランドを
たちあげたばかりの岸山沙代子さん。
そんなチームで、この服ができあがりました。

大人が着る、
大人のための
刺繍の服を。

伊藤まさこ

私がベトナム刺繍と出会ったのは
今からおよそ20年ほど前のこと。
今でこそ観光地として知られるホーチミンですが、
その頃はもっとずっと素朴な土地でした。
昔から手仕事に興味のあった私は、
焼き物や貝細工、かごなどにも
もちろん興味津々だったのですが、
中でも心打たれたのが刺繍でした。
それも南国らしい派手な色合いのものではなくて、
生成りの布に生成りで刺したシックな刺繍。
その時に買った、はしごレースのリネンの
ナプキンは今でも使っているのですが、
ちっともへこたれない頑丈さも併せ持っていて、
ああいいなぁ、
こんなに質のよいものが
ベトナムで手に入るなんて、
と思ったのです。

「ベトナム刺繍、すごく好きそう。
いいものを作っている人がいるから一度見てみて」

今から2年ほど前、
刺繍作家の古い友人が、そう教えてくれました。
なんでもその友人の
そのまた友人のベトナム在住の方が、
ベトナム刺繍を始めとした手仕事を
日本に紹介する仕事にたずさわっているのだとか。
とにもかくにもまずは見てみたい!
そう思って送ってもらった
刺繍サンプルの写真を一目見て、
何かすてきなものができそうな予感がしたのです。

それからベトナムに住む
田中博子さんとのやりとりが始まり、
私が行っていた当時とは
手仕事の状況もだいぶ変わってきたことを知りました。
機械化の波に押されて、
手仕事の職人さんが少なくなってきているのは
どこの国も一緒ですが、田中さんは
「今ここでふんばらないと、よいものが残らない」
とおっしゃる。
ベトナム行きを決めたのは、
作っているところを
見てみたいという気持ちもありましたが、
その「今ここで」がどの辺りまできているのか、
じっさいに目で見て確認したい
という気持ちもありました。

ベトナム行きがかなったのが
去年の6月のおわり。
訪れたことで、より
「よいものを作りたい」
と思う気持ちが強くなりました。
職人さんの仕事が本当にていねいで美しく、
その洗練された刺繍の数々に心を打たれたのです。
それと同時に思ったのが
「大人が着る、大人のための刺繍の服を作ろう」
ということでした。
今回作った服は、それは手の込んだもの。
そしてそれなりにお値段も張ります。
でもだからこそ大人が着るにふさわしい、
さりげなく上質な服が作りたい。
そう思ったのです。

Vietnam Report

ホーチミンの、
ロアンさんの工房で。

2017年夏、伊藤まさこさんといっしょに
ベトナム・ホーチミンを訪れ、
現地に暮らす田中博子さんの案内で
今回の手刺繍を担当するチームのリーダーである
ロアンさんの工房を訪ねました。
そのようすを、たくさんの写真でどうぞ。

こちらは田中博子さん。
ベトナム・ホーチミンを拠点に、
腕のいい刺繍の職人さんたちと組んで、
上質な手仕事を海外へ紹介する仕事をしています。

経済成長とともに
ベトナムの人たちのすばらしい手仕事は
どんどんなくなっているのが現状。
そのすばらしい技術がとだえないようにと、
田中さんは仕事をつづけています。

伊藤まさこさんといっしょに、田中さんをたよって、
ホーチミンにでかけました。

ここは、今回の服の刺繍を担当している職人のひとり、
ロアンさんがもつ刺繍の工場です。

こちらがロアンさん。
刺繍の職人である仲間をあつめて、
この場所を使って刺繍の仕事をしています。

これは以前、ロアンさんがつくった刺繍の服です。
今回のものではありませんけれど、すごくかわいい!

作業のための部屋は、天井が高く、
窓からおだやかな自然光が差し込みます。
この光がたいせつ。

最適な光は、朝7時半から、夕方4時頃までだそう。
無理をすれば夜間照明でもできないことはないそうですが、
やっぱり自然光がいちばん。

1着の刺繍にかける日数は、
そんなに難しくない種類の刺繍でも、
前身ごろ、後ろ身ごろをあわせ、5日間ほど。
丁寧な作業ですから、やっぱり時間がかかるのですね。

これが最初の工程です。
マス目(空間)ができるように
生地から糸を抜いていきます。

そうしてデザイン画で指示されているサイズの
「空間」を、まず、つくります。
織り密度、糸の細さを考えて、
何本抜くとどのくらいの空間ができるかを計算し、
1本ずつ、繊維を抜いていきます。

抜き終わりました。

つぎに、ふちどりをしていきます。
刺繍枠に嵌め、生地をピンと張って、
作業をしやすくしてからはじめます。
あんまり張りすぎても、刺繍をして外したときに
波をうってしまうので、引っ張り具合が重要です。

6本ある糸のうち、4本を芯にして、
残りの2本をかがっていきます。
この工程は、近い感覚でいうと、
ボタンホールのステッチをつくるのに似ています。

ちなみに、こういう細かで連続した作業は、
ベトナム人に向いているのだそう。

そして「きっちりときれいに作りたい」と思う感覚が、
わたしたち日本人ととてもよく似ているように思う、と
田中さんはいいます。

ちなみに、撮影に協力くださったロアンさんは、
以前、大きな手工芸の会社につとめていました。
その会社が事業を整理するにあたって、
ロアンさんと、彼女のチームは仕事をなくします。
それを知った田中さんが、
「こんなにすばらしい技術をもった人たちに、
刺繍の仕事をつづけてほしい」と、
日本からの注文をうけ、刺繍をするという
いまの体制をつくりました。
今回の洋服には、ロアンさんがその会社にいたときの
チームメンバー7人全員が関わってくれています。

次のステップ。タテヨコ5本ずつを束ねていきます。
「なんとなくの本数」ではきれいに仕上がりませんから、
厳密に本数を数えるのですが、それが早い!
経験の豊富さとともに、感覚が研ぎ澄まされているので、
瞬時に、正確に糸をすくうことができます。

刺繍で花を作るためのガイドを刺していきます。
最終形のひとつ手前の作業です。
まず葉っぱの外側のラインからつくります。

どんどんできてきました。

ほらもう花びらの外枠が!

これが仕上がり見本です。

今度はそれを軸にして、編む‥‥というよりも、
織る、に近い作業をすすめます。
ここからが、とても時間がかかる作業。
この日は完成までを見ることはできませんでしたけれど、
ロアンさんたちに託せば、すばらしい服ができる。
そう確信しました。

写真ではわかりにくいのですけれど、
ロアンさんたちの刺繍には「玉どめ」が見えません。
着用時にゴロゴロしてしまうので、
最後にていねいに外していくんです。
もちろんそれでも糸がほつれないようになっています。
こういう技術も、すばらしいんです。

こうして「ベトナム刺繍の服」づくりがすすんでいきます。
ここホーチミンで仕上げた
刺繍のほどこされた布は、日本に送られ、
伊藤まさこさんプロデュースのもと、
“saqui”の岸山沙代子さんによるデザインと、
CHECK & STRIPEのみなさんの手で、
一着一着、ていねいに仕上げられていきます。

次回予告は2/5(月)更新。
そこから3回にわたって、
できあがった服のディテールや価格などを
順番に、紹介していきますね。
‥‥そうそう、あのひとに、着てもらいましたよ!

2018-02-02-FRI

INFORMATION

ベトナム刺繍の服は、受注販売です。
受注のお申し込み受付期間は、
2018年2月9日(金)午前11時から
2月28日(水)午前11時まで。
お届け時期は、2018年10月中旬を予定しています。

ご予約からお届けまで約8か月をいただく都合から、
お支払い方法はいったん「代引き」のみとなりますが、
10月上旬に「ほぼ日」よりメールをお送りしますので、
その際にお支払い方法を
「クレジットカード」に変更いただくことが可能です。
お届けは国内のみ。
また、お申し込み受付期間を過ぎてのキャンセル、
「ほぼ日ストア」のほかの商品との
とりまとめ発送はできませんこと、ご了承ください。

STAFF

デザイン/スタイリング 伊藤まさこ
パターン 岸山沙代子(saqui)
ベトナム手刺繍コーディネート
田中博子
制作 CHECK&STRIPE

写真 有賀 傑