その3 茶道具の匠と組みました。
糸井 そして竹ですね。長尾宗湖(そうこ)さん。
このかたは、茶杓をつくるかたなんですよね。
竹は誰か、となったとき、
三浦さんが思いついたのがこのかただったわけですか。
三浦 竹はね、じつは僕たちが付き合ってる、
建築部材としての竹屋さんというのは
おおぜい、いるんです。
庭の竹屋さんもいるし。内装としての竹屋さんもいるし。
この長尾さんは茶杓、ひしゃく。
日常使いのお箸もつくっておられますが、
主に茶道具をつくられている職人です。
糸井 竹の箸ってお茶に登場する場面があるんですか。
三浦 あります。茶懐石ですね。
正式には杉の箸ですけども、竹の箸も使います。
茶事で使うお箸は長かったりするんですけれども、
寸法もやっぱりいろいろ、八寸、一尺、尺二っていって、
もう二寸刻みであるんですけど、
僕たちが見てて、自分が日常使うには、
この八寸っていう、24センチが、
いちばん適してるんじゃないかなと思って。
糸井 デザインについては少しやり取りがありましたよね。
最初に来たのがものすごく繊細で細く、
しなやかな箸でした。
「これがいいんじゃないか」
っていう気持ちはわかったんですが、
もう少し「出かける場所」を意識したかった。
ご飯をかっこむ人もいれば、
トンカツを箸で切ろうとする人もいる、
その現実とどう照らし合わせるかっていうところで、
三浦さんとやり取りしましたよね。
三浦 そうですね。
糸井 そのやり取りは、長尾さんは平気だったんですか。
三浦 平気です。初めに長尾さんにお願いをする時から、
リクエストに対して応えてください、
決まりきったものを作る企画じゃないんです、
ということはもう大前提でした。
ですから基本的にはこちらのリクエストは
すべて聞いていただいています。
僕たちの場合は、つい、
材料から姿形とか仕上げを考えちゃうんで、
竹の特性をより活かした形となると、
いちばん初めにお出しをした、
もう他の材料ではあり得ない、
繊細なものになったんです。
糸井 たしかにカッコよかったですよね。
茶杓をつくる人が箸をつくっているということが、
すごくそのまま納得できるような形でした。
三浦 あれはもう竹にしかできない姿形です。
でも糸井さんのおっしゃる理由はよくよくわかる。
特別な箸ではなくて、毎日使うんだよ、という。
糸井 結局、それを鈍くしたんじゃなくて、
きれいなまんまで実用性のほうに持って行けたというのは、
今回、時間もかかったけれど、面白かったことですね。
三浦 全部の技術とか、その人のセンスとかを出す
必要はないんですけど、
真四角のお箸を作った中で、
長尾さんらしい技術だったり、センスが見える。
もともとが、あまりに繊細ですから、
今回ちょっとそういう「日月(じつげつ)の面取り」を
意匠的につけさせていただいて。
糸井 日月の面取りっていうんだ、これは。
これはよかったよね。
つまり愛着を持つ理由になりますよね。
三浦 これは、すべての形がもちろん一緒じゃなくて、
型があるわけでもないですし、
1本ずつ、パッと、ひじょうに速い速度で
欠き取っているんです。
茶道具の中に出て来る欠き取り
そのものではないんですけど、
技術的に立体的な形状をつくる中に
こういう加工がたくさん出て来ると思います。
糸井 そうなんだ。
カッコいいね。
三浦 長尾さんの作業を見てると、
竹っていう素材に向き合うには
速度がいるんだなってわかります。
長尾さんの作業の姿と速度を見てると、
ひじょうに素材と合った動きをしてると僕は思って、
結果的に長尾さんの顔の見える意匠を
入れさせていただけたことは、
長尾さんにとっても
ひじょうによかったんじゃないかなと思います。
糸井 そう聞くとまた面白くなりますね。
伝統の工芸みたいなところで、
新しいことをやりたい人とやりたくない人がいますよね。
必ずしも新しいことをやりたい人がいい人なんじゃなくて、
やりたくないっていう人とやりたい場合もありますよね。
そのあたりの加減は、プロデュース的に面白いですね。
三浦 そういう意味ではひじょうに頭の固い人たちというか。
糸井 もともとがね。
三浦 もともとひじょうに固いし、
超一級の固いものも作れる人たちなんで、
そういう人と仕事をするのは、
正直、やり取りも多くなるし、
ぶつかる部分もたくさん出て来るんですけど、
それがね、僕らに
期待されてることのような気がするんです。
糸井 三浦さんが触れているのは、
全部そういうタイプの人ばっかりですね。
三浦 そういうタイプばっかりです。
糸井 この真竹に決まるまでに
「煤竹(すすたけ)」というのも見せていただきましたね。
「煤竹は無理だ」っていうところから
始まったとも言えます。
‥‥どのぐらい無理なんですか。
三浦 やっぱり丸が一つ変わります。
糸井 単純にそうなんだ!
三浦 単純に高い。
けれども、いいんですよ。
そういう意味では材質そのものがビンテージで、
1本もので、姿が全部違う。
どこに煤竹の縞が入っているかが、
自分にしかないっていうのは、
特別なお箸にとってはすごくいい素材だと思いますけど、
加工の姿形が違うっていうのはやっぱり不細工だし、
今回のプロジェクトには合わないと思いますね。
選択肢としては、安全な素材としては煤竹と、
こういう真竹と二つありますけど、
その間に染竹っていう、圧力と熱を加えて、
煤竹色にするものもあるんです。
糸井 染めちゃうんですね。
三浦 そうなんですよ。
糸井 圧もかけてるんですね。
三浦 そうですね。でも、それはやっぱり、
口につけるということを含めて、
もう初めから選択肢にない。
糸井 でも、いくらでも売ってますよね。
三浦 売ってますね。お箸じゃなければ
問題があるレベルではないので、たくさん使っていい。
僕らも建築資材に使ってるんですけど、
今回は選択肢から省きました。
だから、竹としてはもう二択なんです。
  (次回、最終回は、仕上げのこと、
 そして京都の職人さんの話です。)
2013-08-30-FRI
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