その2 「桐の箱」が意味するもの。
糸井 そして、最初のサンプルが出来上がったとき、
「誰がつくってるんだろう」ということを思いました。
そのへんは三浦さんがプロデュースしてるわけですから、
「誰か」が絶対あるはずだと。
順番にお聞きしますが、
箱に使う桐はまずどうしたんですか。
三浦 やっぱり僕らにとって、桐っていうのは
“スーパー特殊”な素材です。
三角屋も数寄屋をつくりますから、
他の木材の工務店よりもはるかにたくさんの
いろいろな素材を持っているんですけれど、
桐は多くはありません。
というのは、ほかの木材と比べて、
乾燥する速度、保管方法が違いすぎるんですね。
木で木じゃないというか、もうまったく違います。
そこで今回は、北路(きたじ)桐材店さんに
お願いをしたんです。
糸井 家で桐って、どういうところで使うものなんですか。
三浦 かつては欄間とか、上等な襖、障子が桐でした。
障子というのは軽くて柔らかいっていう、
その両方の特性が欲しいので、
そういう意味でひじょうに上品でいいんです。
糸井 ぼくの京都の家の2階のクローゼットは──。
三浦 全部桐です。
糸井 やっぱり!
三浦 壁ごと全部桐にしています。
糸井 あれ、しびれますね。
で、しかも昔の箪笥じゃなくて、
いまの箪笥なんですよ。
三浦 はい、現代のデザインです。
かつて着物を並べてたものとは違う、
まあ言うたら、立体的な箪笥ですよね。
人が入っていける箪笥。
だから床も壁も桐で、引出し等も桐です。
僕らが使うとしたら、保湿性とか保温性、
快適ないい環境を維持するために
「包む」ようなところには桐を使うんです。
あとは、床の間の落とし掛け、いいものは桐ですね。
力のある床柱に対して、力のあるものを当ててくると、
やっぱり野暮なんです。
そこで、ひじょうに柔らかくて軽快なんだけど、
大切な材質として桐を使うんですよ。
糸井 桐が生えてるところって、そんな見ないですよね。
三浦 そうですよ。なかなかそんなに。
糸井 花札にはありますから、
あるような気はするんだけれど。
三浦 僕の感じ的には、姿形のカッコいい木じゃないんです。
たとえば、娘さんが嫁入りする時の
桐箪笥用に植えるとか、
景色ではなくて。何かの理由があって植える。
やはり使うために植えてる木だと思うんですよ。
糸井 炭にするために木を山に植えたっていうのと似てますね。
三浦 似てますね。
やっぱりまず手に触れることとか、
この大切なお箸を包み込むものとしては、
もう桐以外にないということは、すごく比較的早く
決断できました。
あとは、日本の桐であることが重要です。
いまたくさん中国産の桐が日本に入って来ていますが、
正確にはだいぶ違う。
糸井 桐は桐でも桐じゃない?
三浦 桐のようだけど、圧倒的に違ってる。
薬剤が滲みこみやすいし、そういう意味では、
どういう処理をしてここまできたかっていうのが
見えないところから受け取るというのは、
ひじょうに怖いんです。
そういう意味では北路さんは、
日本の国産の桐を、自分が全部原木から製材して、
乾燥まで全部自分の目の届く範囲で、
このいい状態まで持って来てるんですね。
製材から製品になるまでに
たぶん10年近くかかってると思います。
その過程はやっぱり人に任せられない。
糸井 そういう桐を分けてもらったんですね。
三浦 そういうことも含めてケアができる、
ちゃんと安心して口に入れるお箸を包む桐は
やっぱり北路さんしかいない。
北路さんにとっても箸箱ってたぶん経験がないんですけど、
包むっていうこととか、桐箪笥をつくる中に
ノウハウってたくさん入り込んでるので、
彼とやり取りをすれば、最終的なお箸の
箱の形になるんじゃないかと。
糸井 これはくり貫きなんですよね。
三浦 くり貫きなんです。
その理由は、掃除のしやすさです。
この隅の部分っていうのは不潔になりやすいので、
丸くして、掃除しやすく清潔に保てるようにしたいと。
加工しやすいのは、パーツ、パーツで、
面ごとに組み立てていくのがはるかに楽なんですけど、
そうすると、継ぎ目の部分にいろんなものが入り込んで。
糸井 こんな話聞くと、
箱だけくださいって言いたくなる(笑)。
そういう人が現われるかもしれない。
── 磁石を付けるみたいなことは
どちらが考えられたんですか。
三浦 これはこちらから、当初からです。
他のものはよく、留まってなかったり、
もう一つゴムを巻いたり紐を付けたり、
もう1パーツが要るんですけど、
でも、そのパーツはね、僕の経験上、
なくなるんですよ。
どこか行っちゃうっていうのがすごく多くて。
結果的には、そのへんにある輪ゴムで締めてる。
それってひじょうにカッコがよくない。
糸井 昔だったら、こういう、こういうスライド式のね。
三浦 ありました。
けれどもスライド式だと溝があるので、
そこに不潔なものが入り込みやすい。
もう極力シンプルなものにするには
磁石がいちばんだったんですよ。
糸井 しかもスライド式は
桐には向いてないですよね。
三浦 そうなんですよ、もたないんで。
糸井 この微妙なエンタシスのような曲線もきれいですね。
これは、こういうふうに機械を
セッティングするんですか。鉋というか。
三浦 そうですね。標準の姿は決めてますけど、
誤差の範囲は調整しながら、
並べて比較して調整してます。
ほぼ一緒ですけども、
問題ない範囲での誤差はあります。
糸井 だから膨らみを感じるんですね。
三浦 桐は柔らかいんで、
エッジが立ってても丸くなっていくんです。
この丸みを初めからつけておくことで、
これからつく丸みがプラスに、
いい丸みに見えてくるんじゃないかなと。
糸井 とげとげしいところをなくしてますね。
(次回は「竹」の話です。)
2013-08-29-THU
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