entoanのフリンジサンダル INTERVIEW entoan 櫻井義浩さん & 富澤智晶さん 長く履けて、修理もできる。手縫い & 一枚革のフリンジサンダルをつくりました。

2018年、東京とTOBICHIでお披露目し
その後の展示会でもご紹介してきた
entoanのフリンジサンダル。
アッパーに上質な一枚革を使い、
靴職人である櫻井義浩さん・富澤智晶さんらの手で、
ていねいに、手縫いでつくられた、
アッパーのフリンジが特徴的な
履き心地のよい一足です。
TOBICHIでは、櫻井さん・富澤さんが驚くほど
おおぜいのかたがお求めくださり、
いまも大切に履くかたの多い「名作」のひとつ。
もともとentoanは、展示会を開き、
そこに来てくださったみなさんの足のサイズをみて、
オーダーを受けて、一足ずつ靴をつくるというのが
「いつものスタイル」ですから、
これまでTOBICHIでの販売のみとしてきましたが、
今回、あたらしい試みとして、
この「フリンジサンダル」を
「ほぼ日」で販売をすることになりました。
そこにいたるまでのいろいろを、
越谷のアトリエにおじゃまして、おふたりに聞きました。

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[後編]木型を使って、丁寧につくりました。

──
このフリンジサンダルは、
富澤さんのデザインですよね。
富澤
そうです、entoanで私にとって
初めて定番になったデザインかもしれません。
ほかにも作ったものはありますが、
今もちゃんとしたラインナップに残っているのは
このフリンジサンダルと、マウンテンブーツだけです。
──
entoanらしさもありつつ、
櫻井さんとは違う個性がありますよね。
富澤
ありがとうございます。
やっぱり櫻井が作る靴と違うものを作りたかった、
っていうのがありました。

──
ユーザーとしてこういう靴が欲しいなっていう
気持ちも、ひょっとしておありだったのでは?
富澤
そうですね、
自分の履きたいと思うものを作りたいということは
いつも思っています。
けれどもentoanでは、やっぱり、櫻井が上司で、
彼のGOがでないと、製品化できないので。
櫻井
えっ! そんな?! そんなんじゃないでしょ(笑)。
──
entoanっていうブランドとしてのジャッジは
櫻井さんに託しているということじゃないですか。
富澤智晶っていう別のラインじゃなくて、
あくまでentoanで出すのだから、っていうところで、
パートナーである櫻井さんのジャッジが
必要だっていう意味ですよね。
富澤
(笑)そうですね。
櫻井
ああびっくりした。
そんなふうに思ってるのかと。
──
ひょっとして、櫻井さんから、
「こうしたら?」みたいな意見も
あったんですか。手縫い以外に。
櫻井
「これ一枚革だけど、
裏も付けたほうがいいんじゃないか」とか
「こういう革を使ったらいいんじゃない」とか、
提案はしました。
‥‥ほぼ採用されてないですけど(笑)。
富澤
私が「いや、こっちのほうがいい」と。
櫻井
一枚革ではなくて、貼り合わせて裏も付けたほうが、
もう少しピシッとした靴の形になるので、
そのほうがいいんじゃないかなって思ったんです。
──
そこは富澤さんはどういうふうに受け止めて、
どう考えたんですか。
富澤
私は、最初の思いが変わらなかったんです。
革靴を履いたことない人が
気軽に買って履けるものにしたかった。
けれども裏を付けてってなると、
より革靴的になり、見た目も変わりますし、
構造自体が変わるとともに、作り方も変わってしまう。
──
なるほど。
富澤
この革は、一枚側でも張り感があります。
柔らかすぎると、木型を抜いた後に
フニャッとしちゃうんですよ。
なので、ある程度張り感があるもので、
厚すぎないこの革が、理想的だったんです。

櫻井
革っていろいろな厚さがあって、
厚い革は、薄くして使うこともできるんですけど、
もともとの厚さで使ったほうが
強度とかそういう面でいいんですね。
これはもともとの厚さのままで使っているんですので、
しっかり形が保てるんです。
富澤
それから、革じたいにオイルが入りすぎていると、
素足で履くとペタッとします。
これはそんなにオイリーな革じゃないんですよ。
なので、履いたときのサラッとした感じも好きで。
櫻井
一枚革だと、ぼくは、
ソックスに色移りするんじゃないかなって
心配しました。
富澤
確かにそうなんですよね。ただ、
これはサンダルなので、
基本的に素足で履いていただきたい、
という思いがありました。
それに、革が落ち着いてくれば、色移りも減り、
色つきのソックスなら大丈夫ですよ。
ちなみに、entoanがいつもメインで使っている
イタリアのバダラッシ・カルロ社の革です。
ずっと使ってきた革で、信頼も大きい。
──
はい。そして色も素敵だなと思いました。
経年変化が楽しめそうですよね。
富澤
はい、経年変化も素敵ですよ。
結構、はやめに色が変わりますから、
初めての方でも革の変化のおもしろさが
わかりやすいと思います。
‥‥あとは、なにか、特徴というと‥‥、
木型を使って作ったということですね。
これまでのサンダルは木型を使わずに作り、
それでも足の形になっていたんですが、
木型を入れたほうが革が立体になるので
最初からの履き心地もいいし、製作も安定するんです。
量産するとなったらやっぱりしっかり安定した
クオリティのものをと思ったので、
それで木型から作って。

──
木型って、いちからつくるんですね。
たいへんな作業なのでは?
富澤
原型はあるんですが、
パテを塗って少し盛って厚みをだしたりとか、
あと逆に削ったりとかして、理想の形に近づけます。
そして、自分の足を基準に削るんですけど、
じゃあ自分の足がほかの人と比べてどうなのか、
自分はこうだけど、たぶんもう少し広げたほうが
ほかの人は履きやすいな、とかもあったので、
サンプルをサイズの近い人に履いてもらって
「どう?」と確かめながら、調整していきました。
ちょっとの変更でもパターンが変わっちゃうので、
一回木型をいじったらその都度サンプルを作って、と、
それを繰り返していきました。
──
やっぱり、たいへんな作業なんですね。
entoanで木型を使わないタイプは、
例えば、「ほぼ日」と一緒に作った
ルームシューズがそうですよね。
櫻井
はい、あれは、使っていませんね。
──
ということはこのサンダルは
entoanならではの靴に近い作り方をしている。
富澤
そうですね、作り方を、ちゃんとした革靴に
アップグレードした、っていうことですね。
──
そして、あらためて、
フリンジが本当にかわいいなと思います。
このデザインはどういうところから?
富澤
これは櫻井のアドバイスがすごく大きくて‥‥、
「この靴は何が売りなの?」ってよく聞かれるんです。
私が普通のものを作ると「面白くないと思うよ」と。
もっと、entoanらしいというか、
自分たちの個性のある靴を作ったほうがいいと。
そして、そう聞かれると自分でも答えられず、
作っても「やめよう」となったりしていました。
それでこのサンダルは
「何が売りなのか」っていうのをしっかり考えて、
それをデザインに起こしてみたんです。
普通のベルトじゃおもしろくないから
ちょっと編んでみようとか、
このフリンジも、一枚革を
折り返してみたらいいんじゃないかとか、
そんなふうに、自分なりに考えたデザインです。

──
なるほど。
このフリンジが切りっ放しなので
履いていくうちにクルクルっと
手前に反ってくるのもかわいいですよね。
富澤
はい、ちょっとだけ曲がってきますね。
──
ところでさきほど、
オイルを使いすぎない革を使いました、
っておっしゃいましたが、
手入れにはオイル使うのではないかと
ちょっと思ったんですけど、そこはどうですか。
富澤
革靴を購入されると、
使い始めにお手入れをしたいという方がいるんですけど、
このフリンジサンダルに関しては、
しないでいただきたいです。
なぜなら、革の質感が変わってしまうから。
そして塗ったクリームなどの油が、しみになりやすい。
この革、銀面といって、表面を少し傷を付けたような、
ヌバックに近いような素材なものですから、
油分を吸収しちゃうんです。
それも、一気にシュッと入ってしまう。
全体的にムラなく入ればいいんですけど、
結構それが難しいのでムラになります。
お手入れせずに履きはじめていただければ、
履いていくうちにだんだんツヤツヤしてくるので、
そうなってから、初めてお手入れをしてください。

▲クリームをつけた部分の色が濃くなり、質感も変化しています

──
大事なポイントですね! 
もし汚れが付いてしまった場合は?
富澤
ブラッシングがいいですね、
強い汚れなら革用の汚れ落としを。
櫻井
革靴は軽くブラッシングするというのが
長持ちの秘訣のひとつですよね。
──
淡い色は汚れが怖いと、
最初に防水スプレーをかけたくなりますが‥‥。
富澤
揮発性の高い防水スプレーでしたら大丈夫ですよ。
──
わかりました。ほかに注意点はありますか。
富澤
履くとき、ベルトを外して、
くつべらをぜひ使ってほしいです。
一枚革って、無理矢理引っ張って履くと伸びてしまう。
普通の靴は、履き口のところに伸び止めテープが入り、
かかとに芯が入っているので、
そんなに伸びてこないんですけど、
一枚革は伸びちゃうとそのままなので、
くつべらを使って、ベルトはしっかり外して、
履いてから金具を留めていただきたいなと思います。
そのほうが長く安定して履いていただけますよ。
くつべらをお持ちじゃないかたも、
せめてベルトは外して脱ぎ履きしていただけたら。
──
ありがとうございました。お話をお聞きして、
本当にたくさんの配慮と判断が
この1足に詰まってるんだなあって思いました。
富澤
ずっと試行錯誤の連続ですが、
靴は、やっぱり長く履いてほしいという思いが強くて‥‥。
私もこのサンダルを最初に作ったときから履いてるので、
6年ぐらいになりますけれど、
履くたびに自分も「いいな」と思いますから、
みなさんにも、長く履いてもらえたらうれしいです。

──
ありがとうございました!

(おわり)

2023-03-17-FRI

entoanのフリンジサンダル

TOBICHI東京/京都にてご試着いただけます。
サイズ感や履き心地を試したい方は、
ぜひお立ち寄りください。

期間:2023年3月14日(火)〜4月26日(水)

TOBICHI東京

TOBICHI京都

entoanのプロフィール

entoan(エントアン)は
靴職人の櫻井義浩(さくらい よしひろ)さんが主宰、
同じく靴職人の富澤智晶(とみざわ ちあき)さんとともに
オリジナルデザインで、手づくりの靴をつくる工房です。

セミオーダーの革靴をはじめ、
鞄や小物、最近では家具などにも着手。

素材の良さ、ていねいに仕上げるその技術と
しずかに「もの」と「ひと」をみつめるセンスで
注目を集め、その活動の幅をひろげています。

おふたりについてより詳しくは
こちらをご覧くださいね。

entoan official website:
http://www.entoan.com/