その3なぜ椅子は壊れるべきなのか。

子どもの椅子は、いま年間に
5500脚くらいつくりますが、
これをつくることが出来る職人というのは
ほんとうに限られています。
というのも、難しいんです。
そこまで腕のある職人がとても少ない。
とくにぼくの設計する椅子は、構造が複雑で、
誰でもつくれる椅子ではなかったりしますから。

たとえばビス(金物)は、
座面の下から留める以外には使っていない。
ほかは基本、木組みだけでつくっています。
それはものすごくタイトに、
0.1ミリ単位の調整が必要です。

もっと構造を簡単にして、金具をたくさん使えば、
誰にでもつくることができる椅子になるんですが、
ぼくはあえてそうしていません。
なぜかというと、ある程度のところで
壊れるようにしているからなんですよ。
「子どもたちには、壊れる椅子を使ってください」って、
ぼくは保育園のかたに言うんです。
全部ビス止めにすれば
壊れなくて丈夫な椅子ができるんですけど、
そうすると、当たり前の話なんですけど、
子どもが乱暴になるんです。
いつまでたっても壊れないから、
いくらでも乱暴になれるんですね。

でも、ちゃんと壊れて、なおかつそのあと、
家具屋さんが来て修理をしてくれる。
「こうやって修理するんだよ」っていうことを、
子どもに見せながら、
一緒に、修理をしてあげる場というのを作ってあげたい。
そこまで含めて、やっとぼくの考える
「子どもの椅子」になるんです。

今回、道歩さんの「カレー皿」といっしょに
販売させていただくスプーンですが、
基本的な考え方は、ファーストスプーン
(指の匙)とおなじです。
おとなだって、さじ面は浅いほうが食べやすいだろうと、
じぶんの家族のためにつくったものです。
カレー用と限っているわけではないのですが、
カレーやシチューにはとても向いています。
それを、訪ねて来られた道歩さんが見てくださった。
これは、じぶんひとりで手づくりをしていて、
仕上げの拭き漆も自分でやっています。
保育園の仕事のあいまに、すこしずつやっています。
いずれ、工房でもつくることができるように、
とは思っているんですけれど、
現状はそんなつくり方なので、
あまり数ができないんです。

かたちは、最初からデザインするというよりも、
「身近な人が使いやすいと思うかたち」を優先しています。
木の匙でいうと、妻の意見が大きい。
いちばん近くにいる人とトライ&エラーを繰り返して、
「使いやすい」と言ってくれるかたちをめざすほうが、
「これ、売れるかな?」とか
「みんなは使いやすいのかなあ」と考えるよりも、
ずっと、ものづくりには役に立ちます。

名刺の裏に「木を料理するひと」と書いているんですが、
木工って、料理と同じで、いい材料を集めてくることが
ぼくの仕事の半分以上かもしれないと思っています。

いまこの工房に持ってきている木は、
買い付けた木の1割程度です。
ほかの木は、山あいで自然乾燥をさせていて、
出番を待っている状態です。

「材木さがしの旅」は、
時間をみつけては出るようにしています。
いい木材を見つけては購入するわけですが、
まず、年輪をひとつひとつ数えて、
樹齢を記録するところから始めます。
そして7桁のコードをつけて、
トレーサビリティ(生産から消費までの追跡可能性。
食品などでも、よく使われることば)が
しっかり取れるようなかたちにしているんです。
ぼくらが保管している材木はすべて、
どこで買い付けて、いつ製材して、
乾燥度合いがどうなのかっていうのも、
すぐにわかるようにしています。
ぼくらの製品を使うお客さまに、
たとえスプーン1本でも、どこ産の樹齢何年の木から
できていますよっていうことを、
ちゃんとお伝えできるようにしたいんです。

それは、特に子どもたちに
伝えてあげたいという気持ちが強くて。
単に「木製品ってぬくもりがあっていいね」
っていう感覚的な仕事はしたくないんですよ。
じゃあどうしたいかっていうと、
子どもたちに、どういう経緯でできていて、
「これは実は80歳、90歳のおじいちゃんの木なんだよ」
と説明をしたい。
「君らのおじいちゃん、いくつかな?」
なんて、話がつながることってすごくでかいと思います。

そういう話をすると、
子どもたちも物を大切にするんですよね。
「物を大切にしなさいよ」なんて言わなくても。

(おわり)

2016-05-25-WED