アトリエシムラHOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

アトリエシムラのストール

うつろう色、残る色、いま生きている色。

第3回
うつろう色は、生きている色。
藍(広重)

広重

染料:藍、白樫、玉ねぎ

日本には、たとえば1000年前の布が、
確かに残っていて、見ることができます。
今、染めをやってる僕は、
「そこまでこの色残せるかな」って、思うんですよ。
昔の人がやってたことが、今できていないのかも、と。
100年もつかどうか、それも「どうだろう?」って思うくらいで。
もちろん、全部が真っ白になるってことは、
たぶん、ありえないんですけれど。

今、昔の色の再現をしているところは多いです。
たとえば奈良時代の布(きれ)から染料を抽出します。

でも、今見られる1000年前の布は、
すでに古びているわけで、
染めた当時のものではないですよね。
色がうつろう、変わっていくということですけれど、
その“限りがある”ところが大事な気がします。
消えること、変わることに意味があるというか。

▲「広重(グレー)」(藍、白樫、玉葱)。¥45,360(税込・販売手数料別)

藍の色はもつ、つまりあせにくい、
というイメージがあると思いますけれど、
それも保存方法によります。
実は、藍っていうのは――、
常に自分の藍を飛ばしてるんです。
光とか、水とか摩擦とかで、こぼれ落ちていく。
飛ばしがちな体質なんです。

「藍は藍でくるめ」と言います。
藍で染めた反物であったり、布というものは、
藍の風呂敷でくるむと、色があんまり変化しません。
藍同士が飛ばし合ってるから、もちが長いんです。
藍の風呂敷に藍のものが入ってるっていうのは
当然のことなのです。
昔の人の知恵ですよね。

それだけ、藍という染料が貴重だった。
そして高価でもあった。

▲藍甕(あいがめ)。

その貴重で高価なものを、
なんとか少ない素材から、たくさんの染料を抽出しよう、
きれいに染められるようにと薬品が開発されて、
できたのが、化学染料、だと思います。

貴重な染料であるからこそ開発されたんですね。
少ない染料で何とか使えるものにしたいっていう、
願いがこもったのが、薬品。
動機はやっぱり“善”から始まってる。
もっと手軽にもっと濃く‥‥。

それは藍に限ったことではなくて、
紫根(しこん)という、すごく貴重な、
紫を出してくれる染料があるんですけど、
僕らが一生懸命、手で揉んだり足で踏んだり、
昔ながらのやり方をでやってるものと、
化学的に抽出して染めたものには、
色の差は、確かにあります。

“うつろわない”んですよね。
化学系でやると、色がうつろわない、
生きてる感じがしないんです。
自分のところでやってるからこそですけど、
うちの色は、逃げやすいけれども、
そのぶん、顔というか表情もあって、
やっぱりそのほうが僕は好きだなと思うから、
僕個人としては、化学に手を出そうとは思わないですね。
やり方として、化学がいけないとは思ってないんですけども、
何かしらやっぱり、自分が素直に喜べない。

限りのあるもの、壊れやすいもの、
それを大事にしなくちゃ、と思える瞬間は、
“うつろい”が、“限り”が、あるかどうか、
そういうところにある気がしていて。
永遠じゃない、ということ。

一方で、僕らは命をもらってるということがあります。
植物を、殺して、生かしてる。
だからそのぶん、自分の命を削れるかっていうのが、
とても大事。
命を削れるものと出会ってるかどうか……かな
と思いますね。
そこにある、命のやり取りということが、
アトリエシムラのテーマとしてあるんです。
やり取りをしてるかどうか、
そこまで真剣になれてるかどうかっていうのは、
やっぱり、命削らないとわからない部分ってあると思うんですよね。

STAFF
モデル:KIKI / 撮影(モデル):菅原一剛 / 写真(取材):神ノ川智早 /
スタイリング:轟木節子 / ヘアメイク:草場妙子

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