シリーズ 2012年 宇宙へぴょん!  星出彰彦宇宙飛行士インタビュー on orbit! 地上400キロのチーム・プレイ。シリーズ 2012年 宇宙へぴょん!  星出彰彦宇宙飛行士インタビュー on orbit! 地上400キロのチーム・プレイ。
2012年、2回目の宇宙へ飛び立つ予定の 宇宙飛行士の星出彰彦さん。 今度は、6ヶ月の長期滞在になります。 前回は、退役したスペースシャトルに乗って行った 星出さんですが、 次に乗るのは、カプセル型のソユーズです! ‥‥いや、お好きな人向けの話をしすぎてしまい、 すみません。 個人の突出した能力が クローズアップされがちな宇宙飛行士にあって 星出さんの語る 「軌道上のチームワーク論」は、じつにおもしろい! 仕事論としても、頷きポイントに溢れます。 奥野・山口・ベイ・おーたの「宇宙好きチーム」が はやる心をはやらせっ放しで、うかがいました。 2012年、2回目の宇宙へ飛び立つ予定の 宇宙飛行士の星出彰彦さん。 今度は、6ヶ月の長期滞在になります。 前回は、退役したスペースシャトルに乗って行った 星出さんですが、 次に乗るのは、カプセル型のソユーズです! ‥‥いや、お好きな人向けの話をしすぎてしまい、 すみません。 個人の突出した能力が クローズアップされがちな宇宙飛行士にあって 星出さんの語る 「軌道上のチームワーク論」は、じつにおもしろい! 仕事論としても、頷きポイントに溢れます。 奥野・山口・ベイ・おーたの「宇宙好きチーム」が はやる心をはやらせっ放しで、うかがいました。
星出彰彦さんプロフィール

2012-01-18
2012-01-19
2012-01-20


第1回  地上400キロのチーム・プレイ。

── マンガ『宇宙兄弟』のムック、
『We are 宇宙兄弟』第4号に載っている
星出さんのインタビュー記事を
読ませていただいたのですが‥‥。
星出 はい。
── 全体をつうじて
「宇宙というのはチームワークである」と
おっしゃっていたと思うんです。
星出 ええ、そうですね。
── 宇宙飛行士というと
1週間も閉鎖的な環境に閉じ込められた状態で
共同作業をするテストなど
ものすごく厳しい選抜試験をくぐり抜けるだけの
強靭な「人間力」を持つ「個人」に
注目が集まりがちですけど
当の星出宇宙飛行士は、「チームワークだ」と。
星出 ええ。
── そのあたりを
もっと詳しくお聞きしたいんですが‥‥。
星出 逆の言いかたをするなら、
宇宙飛行士って
ひとりじゃ何もできないと思っています。
── というと?
星出 ロケットを設計してくれる人、
ロケットをつくってくれる人、
完成したロケットを
すみずみまでチェックして、飛ばしてくれる人‥‥。
── ええ、ええ。
星出 宇宙服ひとつにしたって、
誰かに手伝ってもらわなければ着られませんので。
── それは、わかりやすい例ですね(笑)。
星出 われわれは、宇宙へ行くまでのあいだに
地上で訓練を積むのですが
「訓練をしてくれる人」がいないことには
宇宙で困ってしまいます。
── それって「宇宙インストラクター」的な?
星出 そうですね、言ってみれば(笑)。
── その人は
むかし、宇宙飛行士だった人なんですか?
星出 いいえ、ちがいます。
── あ、ちがうんですか。
星出 はい。
── じゃ、宇宙空間でのあれこれについて
教えるプロフェッショナルが
養成されている‥‥というわけですか?
星出 ええ、じつは私も、宇宙飛行士になる前には
訓練計画をつくる側として、
少しだけですが、関わっていました。
── 自分が行ったことのない場所で起こる
いろんな問題への対処法を教えるだなんて、
すごいですね、その人‥‥。
星出 ええ、すごいですよ。

ほかにも、
いざ、われわれが宇宙空間へたどり着いたとき、
ミッションのすべてを
逐一、細かく見てくれているのは、
「地上の管制官」です。
── あ、宇宙の映画でよく見ます。
?
「こうのとり」2号機打上げ時の運用管制室のようす。
写真提供:JAXA
星出 だから、宇宙飛行士は
「地上にいる彼らと分担して作業を行う」のが
仕事なんです。
── つまり‥‥。
星出 「ペイロード(積荷)を
 ロボットアームでつかむ」とか‥‥。
── あ、「把持(はじ)」というやつですよね!
星出 はい、「ロボットアームでつかむ」ことを
そのように言いますね(笑)。

SSRMSに把持された「こうのとり」2号機。
写真提供:JAXA/NASA
── ‥‥すみません、話の腰を折って。
星出 いえ、続けさせていただきますと(笑)、
「地上での総重量15トンの実験室を
 ロボットアームでつかんで
 スペースシャトルから引っ張り出す」
とか
あるいは
「宇宙空間で、より高品質のたんぱく質結晶を
 生成する実験の準備をする」‥‥など。
── ようするに「現場の仕事」ってことですか。
星出 そうです。

で、そういう宇宙飛行士の作業というのは
地上で見てくれている
仲間がいてはじめて、できることなんです。
── まさしく、星出さんが大学時代に打ち込んだ
ラグビーでいうところの
「One for all, All for one」であると。
星出 いろんな考え方があるとは思うんですが、
ぼくは
「宇宙空間でミッションを遂行する」という
チームとしての目標があり、
そのためのたくさんのポジションがあるなかの
ひとつのピースが
「宇宙空間で活動する宇宙飛行士」
なのだと思っています。
── なるほど‥‥。
星出 ‥‥答えになっていましたでしょうか?
── はい、かっこいいと思いました!
星出 そんなことないです(笑)。
── ちなみに、
ひとつのミッションを成し遂げるための
「チーム」には
だいたい、
どれくらい人数が関わっているんですか?
星出 どこまでカウントするか、ですよね。
── ははぁ。
星出 つまり、ミッション遂行にあたって
地上の管制チームは、24時間体制で見ています。

で、その管制チームも
ヒューストン、ヨーロッパ、ロシア、
日本にある。
── ええ、ええ。
星出 日本には種子島に宇宙センターがありますけれど、
射場で、実際の打ち上げに関わる人たちもいます。
── ヨーロッパのロケットは仏領ギアナだし、
ソユーズなんかは
カザフスタンのバイコヌールから
発射されてますよね。
星出 ロケットや人工衛星を開発・製造しているのは
日本を代表する大企業ですが、
その一方で
ロケットや人工衛星に搭載する装置のための
「ネジ1本」をつくっている
町工場の職人さんも‥‥チームの一員なんです。
── ぼくたちが種子島で打ち上げを見た
Hー2Bロケットは
三菱重工が製造していますけれど、
エンジンなど個々のパーツをつくっているのは
広く一般には知られていないメーカーだったり、
大小さまざまな企業が
ロケット製造に関わっているんですよね。
星出 そういうことです。
── 『宇宙を開く 産業を拓く』という本に
「主な日本の宇宙関連企業」
というリストが載っていますが、
超有名企業から町工場みたいなところまで、
数えたら250社以上ありました。
星出 宇宙に限らないことだと思いますけど、
日本のものつくりは
業界最高の精度を持つ中小企業の底力に、
支えられていると思います。
── ええ、ええ。
星出 だから、分かりませんね。
── え?
星出 チーム全体の大きさが、どのくらいかは。
── あ、なるほど。
星出 世界中で何十万とか、そういう単位じゃないかなぁ。
── つまり、星出さんたち宇宙飛行士のみなさんが
仕事をする場所って、
何十万単位の人が関わって飛ばす
ロケットの行き先‥‥なんですね。
星出 繰り返しますが、宇宙飛行士を宇宙へ届けるのが
打ち上げの第一義的な目的ではありません。

国際宇宙ステーションの建設・運用、
さまざまな科学的実験、
宇宙を題材にした、子どもたちへの教育。

そういった目的を達成するための
役割のひとつとして
私たちが実際に飛んで行って作業するのだと
考えています。
── あの、宇宙空間というのは真っ暗だし、
サッカーコート1面分というほど
だたっぴろい国際宇宙ステーションのなかに
数名しか滞在してないし、
ものすごーく孤独なんじゃないかと思うんですが、
どういうときに「仲間を感じ」ますか?
星出 ‥‥「つねに」ですかね。
── ! ‥‥つねに。
星出 朝、起きてその日の作業を
地上と確認するときからはじまって、
作業中に
管制官と通信をしているときなど‥‥
仲間の存在は、つねに。
── 逆に、通信が途切れちゃったときとか‥‥。
星出 仲間がいることを、感じていますよ。
── ははー‥‥。
星出 前回、宇宙へ行ったとき
組み立てミッションに携わった
日本実験棟「きぼう」は
計画段階からカウントすると
20数年もの時間をかけて完成したものなんです。
── そんなにですか!

STS-133クルーにより撮影された「きぼう」日本実験棟。
写真提供:JAXA/NASA
星出 多くの先輩がたが、試行錯誤を繰り返して‥‥
宇宙へ持っていくまでには
4半世紀くらい、かかっているんですね。
── へぇー‥‥。
星出 私、宇宙飛行士になる前には
宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)の職員でした。

入団して最初の2年間は、
名古屋で
主にロケットの開発に携わっていたんです。
── ええ、ええ。
星出 で、その傍らで開発されていたのが「きぼう」で。
── そうだったんですか。
星出 ようするに、あの日本実験棟を
苦労してつくりあげた人たちの中には、
昔から
私のよく知ってる人たちもいるんです。
── そうやって完成した実験棟を、
星出さんが
国際宇宙ステーションにくっつけたんですね。
星出 宇宙で作業をしているあいだ中、
開発に打ち込んでいた人たちの顔が
浮かんでいました。
── それこそ「チームみんなの顔」が。
星出 そう。
── 地上400キロの宇宙空間で。
星出 そうです。

ディスカバリー号から撮影された「きぼう」と「こうのとり」2号機。
写真提供:JAXA/NASA
<つづきます>

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2012-01-18-WED

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