山口周さんと「会社って何だ?」を話したら。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』
『ニュータイプの時代』などの著者で、
「美意識」や「アート」といった切り口から
これからの時代を豊かに生きていくための
思考・行動様式を研究し続けている
山口周(やまぐち・しゅう)さんが、
「会社」についての話を聞きに、
糸井重里のもとをたずねてこられました。

大切に思う部分が似ているふたり。
仕事はもちろん、生きていく上での
「数値化できない部分」の重要性を
あらためて確認するような時間になりました。
ふたりのおしゃべりを、全7回でご紹介します。
「日立EFO」のインタビューでの様子を、
ほぼ日編集バージョンでおとどけします。
05「遊び」であるとか「無駄」だとか。
山口
糸井さんは本のなかで、ほぼ日について
「遊び場をつくりたかった」とも書かれていて。



糸井さんをはじめ、あの時期に広告業界で
活躍されていた方って、みなさん
「遊び」を作るのがすごく上手な印象があるんですよ。



そのあたり、私が共通するものを感じるのが、
Facebook誕生の話なんですね。
糸井
はい、Facebook。
山口
Facebookって、ハーバード大学の学生だった
マーク・ザッカーバーグが、
大学のコンピュータをハッキングして
女子学生の写真を抜き出したという、
もう犯罪みたいなことがはじまりなんです。
「誰かきれいな子いるかな」ということで
写真データを抜き出したんですね。



でもそこで彼が何をやったかって、
その女子学生たちの顔写真を並べて
「どちらが人気があるか」を投票させる
ゲームを作ったわけです。
誰がいちばん勝ち抜いて、掛け金をとるかという。
そういうマッシュアップですね。
写真
糸井
まさに「Face」のゲームというか。
山口
はい、もう不謹慎極まりないんですけど。



だけど、こんなことを言ってはなんですけど、
そこでパッとプログラミングでゲームを作って
「みんな遊んでみて」とやってしまう発想って、
僕はある意味、すごくセンスがあるなと思ったんですね。



結果的に、そのゲームは学内で大流行するわけです。
当然大学当局にもバレて、彼は退学の瀬戸際までいく。
けれども保護観察処分ということになって、
ギリギリ退学せずに済むんですね。



そこから
「これだけユーザーもいることだし、
学内にどんな人がいるかがわかること自体は
助かるから、そういうサービスをやってよ」
という話になって。



さらに、隣のイェール大学の学生からも
「うちの大学でもやってくれ」
と声がかかり、あれよあれよという間に
アイビーリーグの学校みんながユーザーになるわけです。



それで「これは会社になるんじゃないか」
という流れができて、
最初のマッシュアップを作ってから
2年後くらいに会社にしたんですよね。
糸井
あっという間ですね。
山口
何を言いたいかというと、最初は「遊び」なんです。
遊びでやっていたらユーザーがついて
「これ面白いからうちでもやってよ」と広がって、
結果的に他にないものができあがっていった。



でもいまってなにかはじめるとき、最初から
「マネタイズ(収益化)はどうするの?」
「事業化は?」「成長の計画、経営計画は?」
とかこまかく決めていくわけです。



だけどそうやってスタートして、
なにか驚くようなものができあがるかというと、
そうも言えない気がするんですよね。
糸井
そういう進め方だと、みんなが
「やれるに決まってること」に手を出して、
そこでの競争になりがちですよね。
山口
糸井さんもほぼ日を作ったとき、
「どうやって儲けるか」は
まったく予想してなかったですし。
糸井
実際、できなかったんですよ。



そしてクリエイティブの面から見ると、
そこがわからないほうが良かったりするんです。
「どっちが儲かる」とかの計算ができすぎると
得するほうに行くのは、人間当たり前ですから。
その損得関係なく「何が面白い?」から
入っていけたほうがいいんですね。



その意味で、僕はフリーのときには
「数字はあまり読めないほうがいい」
くらいのことまで思っていたんです。
「このほうがみんなが食べていけるぞ」
みたいな意識があると、
いろんな判断に影響しますから。



だから当時の僕は、妻が不動産の広告を
見ているだけで嫌がっていたんです。
つまり「マンション買うつもりだな」があると
「じゃあこうしなきゃ」が出てくるから、
危ないなと思ってて。
そのくらい嫌だったんですよ。
写真
山口
すごい話ですね。
糸井
まぁ、とはいえいまの僕は
「経営者」という立場があるので
「お金のことは何もわかりません」
とはできないんですけど。
山口
上場企業の社長として
「お金を見ないようにしてます」は
難しいですね。
糸井
それは言えないですね。



だからいまは見ざるを得ないし、見てるから、
「この部分はこのくらい抑えて」
みたいなことはいつも考えてます。



だけどそれはもしかしたら、
ほぼ日という会社の爆発力みたいなものを
減らしてるかもしれないとは思うんです。
その意味で、社長をやってる自分を
早く解き放ちたいのはありますね。
山口
そもそもお金にあまり興味のない人って
いるじゃないですか。
でも糸井さんの場合、
「興味があるからこそ見ないようにしていた」
というか。
糸井
そうですね。非常に文学的な言い方ですけど、
人が「苦手だ」と言うことのなかには
「とても好きだ」が入っていると思うんです。



お金の話に限らず、何かについて
「俺は何も考えないんだよ」と言う人が、
本当にそう思っているとは思えないんですよ。
「その話は俺にしないでくれ」と言う人は、
やっぱりそこに強い興味が
ありすぎるんだと思いますから。
写真
山口
あと糸井さんは「本業じゃない仕事も
たくさんやってないとダメだと思った」
ともおっしゃられていて。
クリエイティビティを維持する上では
「無駄に見えること」や「役に立たないこと」も
すごく重要だという。



そこを取り込めなくなると
「枯れちゃうんじゃないか」ってことですよね。
糸井
うん、瘦せますよね。
山口
だから1980年代初頭、糸井さんが
「おいしい生活」のコピーなどで世の中の前面に
ものすごく出られた時期がありますけど、
その前には漫画雑誌の『ガロ』で、
実験的とも言えるようなこともいろいろされていて。



きっと一面から見れば、
そういう実験的な仕事をまったくやらずに、
本業のコピーの仕事だけに専念していたほうが、
稼ぎにはなったと思うんです。



でもそうしなかったところに、
僕はやっぱり知性を感じるというか。
普通はどうしてもその
インセンティブの部分が発想に入ってきて、
そっちに行きがちだと思うんですけど。
糸井
ああ、どうなんでしょうね。
山口
それで聞いてみたいのが、
「実のある無駄」と「本当の無駄」って
あるんじゃないかと思ってて。



糸井さんのご経験のなかでも、
振り返ってみて
「これは本当に無駄だったな」と思うものは
やっぱりありますか?
糸井
そこはありますよね。
山口
その峻別方法って、
なにかコツはあるものでしょうか?



たとえば会社の社員が
「毎日だいたい3分の2はパチンコしてます」
と言ってたら、ちょっと
「どうなのかな」って感じがする。
でもそういう経験も、実はなにか
役に立ってるかもしれないし。
「なにが実があるか」って
本当に難しい話だと思うんですけど。
写真
糸井
うーん‥‥実際には
「これは本当に無駄だな」だと思っていても、
あとで振り返ると
「あれも無駄じゃなかったな」と思えることって
けっこう多いんですよね。
山口
つまり、峻別は難しいと。
糸井
難しいです。



そしてやっぱり「無駄かどうか」よりも
「どう生きるか」のほうが問われているんで。



だから
「これは無駄な時間、これは無駄な経験」とかって、
あまり採点しないほうがいいのかもしれないと、
まずは思いますよね。
山口
やっぱり大事なのは「やってみたい」とか
「面白そうと思うかどうか」ですか?
糸井
そのあたりも簡単には言えないところですね。
「つまんないな」と思いながら
やっていることは、僕ももちろんあるんです。



だけどそういうことが、後から面白くなったり、
意外な場所で役に立ったり、
新しい出会いにつながったりもしてますから。
(つづきます)
2023-04-24-MON