山口周さんと「会社って何だ?」を話したら。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』
『ニュータイプの時代』などの著者で、
「美意識」や「アート」といった切り口から
これからの時代を豊かに生きていくための
思考・行動様式を研究し続けている
山口周(やまぐち・しゅう)さんが、
「会社」についての話を聞きに、
糸井重里のもとをたずねてこられました。

大切に思う部分が似ているふたり。
仕事はもちろん、生きていく上での
「数値化できない部分」の重要性を
あらためて確認するような時間になりました。
ふたりのおしゃべりを、全7回でご紹介します。
「日立EFO」のインタビューでの様子を、
ほぼ日編集バージョンでおとどけします。
04「トップ」も「ミドル」も自由な会社。
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糸井
会社について考えるとき、
「本当に重要なのって社長なのかな?」
というのは、すごく気になる問題で。



いまって、運転席に座る
「経営」という人たちが会社を動かしてると
思われすぎている気がするんですよ。
山口
ああ、なるほど。
糸井
あるいはスティーブ・ジョブズみたいな人が
やっていたことって、
あれは「経営」をしていたんだろうか。
それともいろんな場面で
「そうじゃなくてさ」と言う仕事を
していたんだろうか。



iPhoneが出たとき、みんなが
「そういう製品の可能性はすでに考えてたよ」
と言ったじゃないですか。
でも、そういうものを
「世界中の人が使うようになるぞ」と信じて、
美意識のもと現実に作っていくって、
もうアート行為というか。
山口
そうですよね。



まあ、スティーブ・ジョブズはあとで
「全部自分が考えた」みたいなことを言うんで、
ややこしくなるんですけど(笑)。



会社の正式な記録を読むと、iPhoneの
アイデアを出したのって若手の人らしいんです。



むしろジョブズは最初、反対だったんですね。
電話ってちょっと「お上(かみ)」っぽい
イメージがあるじゃないですか。
アップルって「音楽好きで、反抗的で」みたいな
アーティストの道具を作るようなイメージの
会社だったんで、電話の会社になることについては
相当違和感があったみたいで。



ましてや
「敵であるWindows用のiTunesを作って、
どのコンピュータでも使えるようにする」
というアイデアなんて、
最初に提案した人はモノを投げられたらしいです(笑)。



でも、そこがあの会社の強さなんですね。
トップのジョブズも強烈な個性の人で激怒してるけれど、
会社のミドルの人たちもみんな、ジョブズの発言に
「絶対に電話をやるべきだ」って激怒してる。
糸井
面白いですね。
山口
だから何度も喧嘩をふっかけて、大喧嘩になる。
それを「今日はちょっとこれで終わり!」って
みんなが引き剥がして。
iPhoneについても、そういうことを
ほんとに何年もやったあとで。
糸井
年単位ですか。
山口
そうらしいです。
だけどジョブズがある日突然
メールを送ってきたらしいんですね。
「君のほうが正しい、電話はやるべきだと思う」って。
糸井
はぁー。
山口
そこから
「どうせなら世界があっと驚くものを作ろう」
となって、iPhoneが生まれるわけです。



でもそれも、ジョブズが案を認めてないときから
ずっと水面下で開発を続けてたから
できたことだと思うんですね。
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糸井
そうか、すごいな。
山口
だから会社ってけっこう
「ガバナンス(経営の仕組み)があって、
指揮命令系統があって、経営系があって、
みんなビシッと動いてる」
みたいなイメージがありますけど。



いまの「経営者が認めてない製品の開発を
開発部門がずっと続けてる」という話なんて、
「それ、ガバナンスの不在なんじゃないの?」
と言われそうですよね。



でもたぶんそういうことがなかったら、
アップルはきっとiPhoneを出せてないんですよ。
糸井
普通ならチームのまま消滅ですよね。
山口
だと思います。



だからやっぱり会社の中にある種、
ジョブズ以上に先見性を持った人たちが
たくさんいて、彼らの先見性をちゃんと
プロダクトに結びつけていった。
それがジョブズのすごさなんですけれども。



ただあの人は、製品が世の中に出ると
「自分が思いついたんだよね」とか
言っちゃうので(笑)。



アップル社内の人から聞いて面白かったのが、
ジョブズが
「これは俺が思いついたアイデアなんだ」
と言いはじめたら、みんながほっとするんだと。



「自分はほんとすごいのを思いついて」
となるともう覆ることはないんで、
開発部門の人たちは
「よかった‥‥。これで安心して開発を続けられる」
と安心したんだとか。



ほんとに気に入るともう
「自分が思いついた」と思っちゃうんでしょうね。
糸井
つまり、会社としては
「ジョブズが反対していてもやる人たちを
集めた状態をキープしていた」
ってことですよね。
山口
そうですね。
そういう人たちを集めていたし、ある意味で
「言うことを聞かないことが
ペナルティにならない会社」を作ったんでしょうね。



だから出る杭もいっぱいいて、
あれだけ強烈なキャラクターの経営者に対して
食ってかかる人もたくさんいたらしいです。



だけどそういう人たちを雇って、
その人たちがパーソナリティそのままに
働けるようにしていた。
そこがあの会社の、本質的な意味でのすごさというか。
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糸井
トップにいるジョブズも、
さきほど「ミドル」とおっしゃった社員の人たちも、
個人個人が「自分の幻影」みたいなものを
簡単に捨ててないというか。



なにかもっとそういうことができないと、
いまの社会全体の閉塞感みたいなものって、
変わっていかない気がしますね。
山口
ああ、そうですね。
糸井
いまって基本的に、個人が思いついたことって
「それは個人的すぎて誰にも通用しないよ」
と判断されることが多いと思うんです。



だからつい、みんなが忖度し合って
「100人が納得するものをまず作ろうよ」
みたいになるんですけど。



だけど現実には
「誰にも通用しないかもしれない俺だけの冗談を
投げてみたら、ずいぶんあちこち笑ったな」
みたいなことがけっこうあって。
山口
いや、ほんとそうだと思います。
糸井
それがやりたいですよね。
(つづきます)
2023-04-23-SUN