第8回 平凡とか、普遍とか、低さとか

白岩 「安定した側に裏切る」ということにも
つながるのかもしれませんけど、
ぼくが、広告というものをすごく好きなのは、
人を突き放さないというか、
すごく人を信じているところなんです。
あんなにも「届くこと」を前提に
つくられているものって、ないじゃないですか。
糸井 ああ、はい、はい、はい。
白岩 絵とか、小説なんかは、
見られたり読まれたりしなくてもいいというか、
そういう面ってあると思うんですけど、
広告ってほんとに見られる人を必要としていて、
その、子どもみたいに当たり前に
そこを疑わずにつくってるところが
すごく人間を信じてる感じがして好きなんです。
糸井 それは、いま現役で広告をやってる人が聞いたら
すごくうれしいでしょうね。
白岩 あ、そうなんですか。
糸井 うん、現役じゃないぼくでも
うれしかったもん、いま(笑)。
白岩 (笑)
糸井 言い方を変えるとね、
「誰かいる」と思ってるんですよ。
白岩 ああ。
糸井 やっぱり広告って、セールスとは違うんですね。
セールスって1対1なんで、
一生懸命やると口説けるというかね、
「相手をどこかに連れて行く」
っていうようなことなんですよね。
一方で広告っていうのは、
このメッセージは誰かには届くし、
誰かが信じてくれるし、
誰かが笑ってくれるはずだっていう、
そういう「思い」なんですよね。
マスっていうもののなかにいる
ほんのわずかかもしれない誰か。
そういう人と会えますようにっていう
思いとか願いに似たものなんです。
ポピュラーソングはみんな、そうですけどね。
白岩 あ、そうですね。
糸井 うん、だからぼくは、
ポピュラーソングがやっぱり好きですね。
白岩 ぼくも好きなんです、ポピュラーソング。
糸井 ああ、そうですか。
白岩 はい。ポピュラーソングの世界で
ビッグアーチストと言われる人には
なぜか昔からひかれます。
あと、漫画とか読むにしても、どうしても、
『スラムダンク』とか『ドラゴンボール』とか、
器が大きいものにひかれてしまう。
やっぱり、なんていうか、
「人を拒否しない力」っていうのが
共通してぼくのひかれるもので、
それって、絶対に必要だと思うんですね。
糸井 ああ、わかります。
そのあたりはずっとぼくが考え続けている
テーマでもあるんですよ。
白岩 ああ、そうですか。
糸井 なんていうだろうな、
平凡とか、普遍とか、大勢とか、
俗っぽさとか、低さっていうと
悪く言いすぎだけど、そういうものをぜんぶ、
いっしょくたにした鍋みたいなものがあって。
白岩 はい、はい。
でも、おいしいんですよね。
糸井 おいしいんですよねぇ(笑)。
そういう例として挙げるのは
ちょっと失礼かもしれないけど、
昔、ぼくはファミレスっていうところに
行ったことがなかったんですよ。
ところが釣りをはじめたときに
若い子に連れられてはじめて行ったら、
「なんてすばらしいんだ!」と思って。
白岩 はい(笑)。
糸井 オレ、毎日来てもいいわって
思ったことがあったんですけど、
なんだろうなぁ、
「それ以上を望まなければぜんぶあります」
っていうようなよさがありますよね。
白岩 「それ以上を望まなければ」。
そうか。そうですね。
糸井 でも、たぶん、ずっといると、
それ以上のことが欲しくなるんでしょうね。
で、もっともっとずっといると、
また愛しはじめたりね。
そのあたりは、もう何層にもなってることで。
白岩 それ、すごくつかみたい実態だけど、
きっと、つかめないんでしょうね。
糸井 うん。少なくとも、
自分の主語をどこかに置かないと
まったく解明できないでしょうね。
一回、「じゃあオレはこれが好き」
っていうところに置いてから、
構図をつかみ直さないと。
白岩 そこからなんですね。
糸井 うん。それはね、ほんとに、
しょっちゅう考えることなんです。
なんていうんだろうな、
「こんな平凡なことばが
 なんで心を打つんだろう」ということについて
「わーかったぁ!」って言いたい気持ちが
ずっとあるんですよねぇ。
何十億人もいる人間がそれぞれに、
ある瞬間、あることばを口にすることで
詩人になれるんじゃないかとかね、
そういうことを言いたくなるわけですよ。
白岩 ああ、うん。
糸井 あるんですよ、きっとそれはね。
それが世間一般の価値を
生みだすかどうかは別にしてね。
白岩 価値って、人によって違いますしね。
糸井 そうそう。
価値なんてものは、歴史の遺物なんだから。
白岩 「歴史の遺物」。すごいことばだ(笑)。
糸井 だって、ほとんどの価値は、
これから先になくなるかもしれない、
っていうようなものなんだから。
白岩 そうですね、怪しいもんですね。
糸井 怪しいもんなんだからさ。
だから、そんなことにとらわれずに、
自分のいちばん好きなところでは、
あらゆる人のことばが詩であるっていうふうに
なっていったほうがいいんじゃないかなぁとかね。
価値を追っかけるとつかまえられないから、
無価値になんないと。
白岩 無価値が価値を生む。
糸井 だって、価値っていう概念そのものが
なかった時代があるわけでしょ。
おサルに金と銀の区別はつかないわけで、
もっというと人間の社会では
役に立つとか立たないとかっていうことが
できてきて価値が生まれたわけだけど、
それだけがぜんぶじゃないよね。
たとえばその、なんでもいいんだけど、
「たいへんだ、逃げなきゃ!」っていうときに
そこにいる子犬をひょいっと
拾って逃げたとしたら、
その価値は説明できないじゃないですか。
白岩 できないですね。
糸井 だけど、いいじゃないですか。
白岩 はい。
糸井 「そんなものは置いていけ!」
って言われるんだろうけど、
それをわかったうえで拾うっていうのは、
もうことばじゃないですよね。
白岩 うん、ことばにならない。
糸井 でも、あるはずだっていうのは
言いたいですよね。
白岩 はい、信じたいですね。
(続きます)
2009-07-30-THU
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