はじめての
志村ふくみ

HOBONICHIのTOBICHIで人間国宝の展覧会を。
そもそもの動機について糸井重里に訊ねました。        前篇 誰かのものになるために織られている。
糸井 三國万里子さんに、会ってほしかった。
それはぼくらにとって
けっこう重要なポイントです。
志村さんと会うことが、
三國さんにとっての大きな励みになると思って。
─── ご紹介したいというのは、
最初から思っていたことなのですか?
糸井 最初からです。
「三國万里子さんという編みものの女性と
 会っていただきたい」と、
かなり早いタイミングでお話しました。
志村さんも「ぜひに」とおっしゃってくださって、
お互いの約束になってたんです。
─── その約束を果たしに、
ことしの6月、志村さんの工房を訪ねました。

▲工房の入り口へ
糸井 みんなでお会いできましたね。

─── このときは対談というより、
ご挨拶とたのしいおしゃべりの数時間でした。

糸井 わきあいあいと。

─── 三國さんの本をみんなでながめたり。
糸井 いい時間でした。
─── 洋子先生が三國さんの本を見て、
「これはみなさんが着たがるわ」
としみじみおっしゃってたのが印象的で。

糸井 三國さんへの敬意が、うれしかったですよね。
─── はい。

そして三國さんデザインの商品を扱う
「気仙沼ニッティング」
御手洗瑞子さんも、いっしょに。
糸井 「気仙沼ニッティング」のことも、
志村さんたちにお話したかった。
─── 交わされるお話をうかがっていて、
重なるところがたくさんあると思いました。
糸井 そう。
「気仙沼ニッティング」と、
それから「ほぼ日」が目指すかたちにも、
重なる部分をずいぶん感じましたよね。
─── とくに現場を見せていただいて、それを強く。

▲工房にて
糸井 生徒さんやお弟子さんたちと、
ひとつの体系のようになっての発展を
イメージしていらっしゃる。
─── はたらく方々が、
よろこびと誇りを持っていました。

糸井 お会いしたお弟子さんがみんな、
自分のしているお仕事を
自分の語れることばで織りだしてましたよね。
─── 三國さんも、積極的に話しかけて。

糸井 豊かな時間でした。
志村さんたちからも、
われわれにシンパシーを感じてくれている。
理解されていることと、理解できるということとが、
瞬間瞬間に、交流電源のようにつながり合ってる感じ。
こういえば、ああ考える。
ああいうことを、こう考える。
その往復は、まさしくことばを織っているようでした。

糸井 三國さんはあの日、
志村さんに会ってどう思ったんだろう‥‥?
何を感じたのか、興味深いですよね。

志村さんがやっていることと
三國さんがやっていることは、
別のようで似ていて、似ているようで別で。

▲藍染めの甕(かめ)に手を入れる三國さん
糸井 志村ふくみさんは、
ご自身が体調をくずされたときに、
唯一、編みものをやっていたそうです。
「編みものは一本道だからこころにとてもいい」と。
そのお話が興味深い一方で、
ぼくらは「毛糸の一本道」で仕事をする
三國さんのこともよく知っていて。
どちらにも、大きなあこがれがあります。
なんでしょう、このあこがれは‥‥
やはり「人間として」なのかもしれない。
人としての魅力が
ずーっと通奏低音みたいに鳴っているっていうのは、
いいなぁと思う人たちに共通する
すばらしい特徴ですよね。
─── はい。

実は糸井さん、
三國万里子さんに、
志村さんにお会いしたときの感想をきかせてください
というメールをお送りしていて‥‥
糸井 ほぉ。
─── その回答が、ここにあります。
糸井 見る見る。見せて見せて。

糸井さんに「人間国宝に会いにいこう」
とお誘いいただいて
わーい、行きます! と、ついていったのでした。
お会いして受けた率直な印象は、
エネルギーがこんこんとわいている、生きもの。
現象世界から美しさを取り出すことに
没頭しているうちに
ものとの距離がとても近くなった人。

志村さんとわたしの仕事は、
もちろん似ているところはあると思います。
どちらも糸で作るし、
人に着てもらうためのものですから。
でも、ずいぶん違うとも思いました。
志村さんが作るのは、
ある決まった大きさの布です。
それは人の体をいつも念頭に置いて
パーツごとに作っていくセーターよりも、
色とテクスチャーの美しさそのものを
追求することに向いた題材だと思います。
求道的というか。。。
糸を使う仕事はどれも、
なぜかはわからないけれど、
大きな存在に向けての仕事になっていくもので、
その心にかなうものを作るという性質が
多少にしろあると思うのですが、
布を作るという作業は、中でも純粋に
「捧げる仕事」なのではないかと思いました。
そのために、目の前の素材に迫っていく。
志村さんの背筋が
すっと伸びていて美しかったから、
つい勝手な想像をしてしまいました。

── 三國万里子

糸井 ‥‥いいですね。とてもいいです。

─── こうした交流を重ねて、
いよいよ志村ふくみさんの
TOBICHIでの展覧会が決まりました。
糸井 はい。
とにかく見て、
「へえーー」って、言ってほしい。
糸の染めを見て、
「いいもんだなぁ」とか。

糸井 「おおー!」っていう声も、聞きたい(笑)。
紅葉の季節に、
紅葉がわーっと迫ってきてうれしい! みたいな。

糸井 みごとな染めが、目の前にわーっと。

(C)Alessandra Maria Bonanotte
糸井 実物の着物と、
その実物の、貴重で愛おしいかけらである、
小裂(こぎれ)たちの展示ですね。
シンプルな構成です。
そこに、随筆家である志村さんの本も置きたい。

つまり志村さんの世界へと、
「着物から」の窓も開いているし、
「小裂から」の窓も開いていて、
さらに「書物から」の窓も用意されている。
そんな、展覧会にしたいです。
どこからでも入っていただいて、
感じたり、思ったり、考えたり‥‥
何層かのたのしみを、
ぼくらといっしょに味わいましょう。

(随筆家としての志村ふくみさんのお話に
 つづきます)


2014-11-26-WED

まえへ まえへ まえへ