7 アメリカ。
増田
去年ぼく、ニューヨークで
アーティストとしてデビューしたんです。
日本だとアートに価値を見てくれないから
勝負しにくいなと思って、
世界に行ってみることにしたんです。
それで世界中を眺めて
「アートのメジャーリーグってどこだ?」
と探したら、
いちばんすごいのはニューヨークだった。
そこから「よしやろう!」と思って
チェルシーのギャラリー街に
とにかく話を聞いてもらいに行きました。
糸井
ええ。
増田
だけど、ぼくはアメリカでまったく知名度がないので、
どこも話を聞いてくれないんです。
ただ、ある雑居ビルにある
3階の1室にある小さなギャラリーだけが
「おもしろそう。やってみない?」
と言ってくれて、話が決まりました。
そしてその、ものすごく小さなギャラリーで
『かわいいとはなんぞや?』みたいなテーマで
個展をやったんです。
これはメジャーリーグの最初だから、
作品の輸送費をはじめ、お金はぜんぶ持ち出し。
それで、真冬のマイナス十何度とかの中、
5人ぐらいしか入れない場所だったんですけど。
糸井
うん。
増田
‥‥当日、お客さんが
1000人集まっちゃって。
糸井
はああー。おもしろい。
個展「“Colorful Rebellion” -Seventh nightmare-」の様子。
PHOTO: GION
増田
ほんとにお金がなかったから、
告知はFacebookだけだったんです。
ただ、会期が近づくにつれFacebook上で
どうもファン同士がやりとりしてる。
と思ったら、当日早い時間から、
表にずらーーっと1000人並んでました。
それも、ぼくのファン層ということで
カラフルなファッションの子たちばかりかと思ったら、
まったく違う、アート層の人たちがほとんど。
彼らがどうしてやってきたかというと、
世界的に有名なレディー・ガガや
ケイティ・ペリーと通じるものを感じて、
「彼女たちの表現のルーツはこれなのかな?」
と思って見にきたらしいんです。
糸井
そういうことなんだ。
増田
「日本人のよくわかんないのが来たけど、
もしかしたらこれなのかもしれない」
その感覚で、当日もう並んでる。
みんな、言語を超こえて、
ビジュアルで理解してくれたんです。
そのときはやっぱり
「最初にメジャーリーグでやってよかったな」
と思いました。
糸井
ほんとだね。
増田
しかも、アメリカっておもしろくて、
そのままフロリダ州マイアミの美術館が
「これはおもしろい」と言って
その展示を巡回してくれました。
デビュー作が巡回するなんて
ほんとにまれなケースらしいんですけど、
最後はイタリアのミラノまで行きました。
それでいま、その展示は
日本に帰ってきてるところなんですけど。
糸井
すごい。
増田
でも、最初のギャラリーは
ほんとにちっちゃいところだったんです。
廊下の先の倉庫みたいなところで。
糸井
そこはやっぱり増田さんの運と、
「ここだ!」というカンのよさですね。
そして最初から、
巡回できるようなものをやってますね。
増田
狙ってたわけじゃないんですけどね。
だけど最初、ニューヨークで活動するにあたって、
アートマネジメントの人を雇ったんです。
そしたら開口一番、
「どれを売ればいいの?」と言われました。
自分はそこで初めて
「あ、売れるものを作んなきゃいけないのか」
と気づいたんです。
そしてそのまま
「四角くない」「丸くない」「壁が白くない」
って、さらに怒られた(笑)。
‥‥だけど
「そんな展示、ぼくは見たくない!」と思って。
糸井
いやぁ、いいなあ。
増田
事前に想像がつくものは、いやなんです。
ぼくはただ「びっくりさせたい」だけ。
だから、とにかくみんなが
びっくりしそうなものを持っていっただけなんです。
糸井
おもしろいなあ。
だから、いまの増田さんの展示で
「ニューヨークという場所で、
どのくらい成功するか計ってみよう」
みたいな中途半端なことをやってたら、
巡回が決まってないですよね。
あと、作品を売ってしまってたとしたら、
これもまた巡回してなかっただろうし。
増田
ぼく、これはきっと
舞台の発想かなと思ってるんです。
糸井
そうだ、大道具さんですよね。
増田
ほんと、その発想なんです。
糸井
いまの増田さんの姿勢なら、
その世界へのアプローチ、
これからもうまくいくでしょうね。
増田
だといいんですけど。
ただ、このプロジェクトでは
まだお金を持ち出し中で、ぼくはいまもずっと、
通帳の残高ゼロみたいな状態を続けてるんです。
だからいまは日本で稼いだお金を
ぜんぶそこにつぎ込んでる状態です。
糸井
ああ。
増田
ただ、向こうはアートに対する感覚が、
日本人とまったく違うんです。
ニューヨークのブロードウェイに行くと
日本人は安い席から取るけど、
向こうの人は高い席から買う。
ショーの値段だって、
日本は高い席で1万2千円とかですけど、
向こうでたとえばシルク・ド・ソレイユだと、
5万円の席とかありますから。
糸井
値段はそうですね。
増田
そして、シルク・ド・ソレイユにしても
ポールダンスにしても、輸入じゃないですか。
ぼくは日本から出していきたいんです。
いろんな人たちと手を組んで、
なるべくコンテンツを輸出できるようなことを
したいと思ってます。
糸井
シルク・ド・ソレイユはぼく、
以前、見学に行ってるんです。
本部のモントリオールで、
トップの2人にも会わせてもらいました。
彼らの話も『成りあがり』に通じるものが
あるんですけど、
あそこの永ちゃん物語、おもしろいですよ。
増田
へええ。
そこも「永ちゃん」なんですね。
糸井
うん、おもしろいものには、みんな、
永ちゃんの要素がある気がするんです。
そこがなくて、
「なぜか人気出ちゃった」という人は
いない気がします。
増田
そうなんですね(笑)。
糸井
‥‥あの、増田さん、突然ですけど、
うちのスペースでやらない?
「TOBICHI」って言うんですけど。
増田
あ、ぜひぜひ。
やりたいです、ほんとに。
糸井
うちのスペース、きっと
さきほどの話のギャラリーに
負けないぐらい小さいんですけど。
増田
ぼく、場所の大きさとか
そういう問題じゃないんです。
自分がやりたいかどうかで、
スケジュールも気にせずやっちゃうから、
マネージャーにはいつも迷惑かけてるんですけど。
糸井
(マネージャーのかたに)ごめんね。
マネージャーさん
いえ、わたしもすごくやりたいので。
とてもうれしいです。
糸井
ありがとうございます。
展示は「6%DOKIDOKI」なのか、
「カワイイモンスターカフェ」なのか、
増田セバスチャン個人になるのか、
わかりませんけど。
ぜんぜん売り上げが出なくてもかまわないです。
お客さんが喜んでくれて、
なにか「やってよかったね」ってことが
あればいいんで。
増田
はい、うれしいです。
糸井
じゃあ、またその展示のことは
あらためて話しましょう。
増田
よろしくお願いします。
(つづきます。)

2015-12-29-TUE