HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
映画『SCOOP!』公開記念
望まれた役をする”劇団福山雅治”
福山雅治 × 糸井重里
糸井
「俳優・福山雅治」を観ていて毎回思うのが
「こういうふうにできる人がいるんだ」という驚き。
それがまずあって、その都度、
「ちゃんとこなせてしまう」という悲しさも
あるだろうな、というところに必ず行き着くんです。
福山
悲しさ(笑)。
糸井
「できなきゃいいのに」って思うんです(笑)。
できなかったら、その歪みや隙が、
また次の何かを生み出してくれるので。
それなのに、福山さんに対しては
「どうしてこの人、ぜんぶできちゃうんだろう」
という‥‥拍手と同情ですね。
福山
ははは!
糸井
アイドルなら欠点を出せると思うんですが、
福山さんはそうじゃない。
どうして福山さんがこういう人なんだろう、
というのはとても気になります。
できちゃう人は、甘えたところがないんですよ。
「許して」とか「勘弁して」とか「まあいいか」
というところに、福山雅治という人は
立たなくて済んでしまっているのか、
立たせてもらえなかったのか‥‥。
福山
何なんでしょうね(笑)。
糸井
だから、福山さんみたいな人を見ていると、
「そういう人もいるんだな」とうらやましいんです。
で、うらやましいのと同時に、
「つらいだろうなあ」って(笑)。
福山
あははは。
仕事のこととはちょっと違いますけど、
聞いてほしいことがあります。
糸井
聞く、聞きます!(笑)
福山
だらしないところを他人に見せられる人、
もしくは、もともとだらしない人っていうのは、
必ず誰かが助けてくれたり、
守ったりしてくれる人が出てくるから、
僕からしてみれば、
そっちのほうが人としてモテているように見えるんですね。
糸井
はい、そうだと思います。
福山
でも、僕は必ず風呂から上がる時、
シャワーから出る時というのは、
必ずT字ワイパーでシャワールームの
壁と床の水切りをしてからじゃないと
お風呂を出られない男なんです。
糸井
くっくっく(笑)
福山
理由をつけようと思えばいろいろあるんです。
忙しいからなかなか掃除ができなくて、
後でまとめて掃除しようと放置していたら
タイルの目地にカビが生えるから、
ちゃんと毎日水を切ることによって
カビが生えないようにしてるんだ、と。
そういう理由はつけられるけれど、
多分根本的には
単に、自分の気が済まないだけで(笑)
他の誰も理解してくれなくていい。
ただ自分なりにきちんとしてたいんだ、と。
糸井
なるほど。
福山
そういういろんなことに対して気が済まない僕は、
他人からすると「この人放っておけないな」
とは思われないんじゃないですかね。
食べこぼしがあるとか、
グラスの水滴がテーブルに沁みてるとか、
もう絶対にイヤなわけです(笑)。
多分これはもう、性(さが)なんだろう、と。
だから、こういう人じゃなく、
ちょっとだらしないぐらいの人のほうが
男女問わずモテているはずだ、と長年言っています。
糸井
「わかる!」とは、ちょっと言えない話ですね(笑)。
でも、理解はできますよ。
ぼくらは福山さんの「仕事」しか見られないけれど、
「これは簡単じゃないぞ」という仕事を毎回振られて、
それに応えていくわけだから。
いやあ、ご苦労さまです。
福山
いえいえ(笑)
糸井
それが子役だったら、どんなに完成度が高くても、
「子どもだからね」という弱点があると思うんです。
「あ、ここはちょっとダメだったな」というのが
誰が見てもわかりやすいんです。
そういうものが”福山雅治”にも、あるといいですね。
福山
ありますよ、そういうところ。
ただ、さっきも話しましたけど、
ぼくの性分として常に「自分なりにちゃんとしていたい」
という強迫観念に似た思いがあるんです。困ったことに。
糸井
うん、うん。
福山
これはデビューした時に初めて気づいたんですけれども、
自分にファンができたとき、
「応援」って言葉よく使われますよね。
言葉の意味の捉え方で、
でもそういう風にみんな言っているから、
その言葉は人によっては
それほど意味はないのかもしれないんですけど、
僕的には「これからも頑張ってください。応援しています」
って言われて衝撃だったんです。
僕は自分がファンになった人に対して
「応援」という感覚がなかったので。
糸井
なるほど。
福山
10代の頃、地元の長崎でコピーバンドをやってる時に
好きなバンドがありました。
でもぼくは、そのバンドを「応援する」というような
感覚ではなく、ただ単に
その音楽やファッションが好きだった。
好きだからコピーしていたし、素人が生意気にも
「今回のアルバム、前のやつ超えたな」とか
「いやいや、前のアルバムのほうがよかった」とか、
そういうことを好き勝手に言ってたわけです。
音楽やエンターテインメントに対する接し方とは、
そういうものだと思っていたんです。
糸井
はい。
福山
そして東京に来てデビューして、
CDは全然売れなかったんですけれど、
ライブハウスでライブをやりだしたら、
ファンの人が来てくれるようになって。
ほぼ100パーセント女性でしたけれど、
彼女たちから
「応援しています。頑張ってください」
という言葉をもらうようになって。
さらにラジオをはじめたら、
「いつも応援しています、頑張ってください」。
ドラマに出てもそうです。
糸井
うんうん。
福山
その頃に
「応援してくれる人たちの期待に応えなければ。
その人たちのためにもっと頑張らなきゃ!」
と思ったんです。
ファンという存在が僕の何かを
180度変えたというか開いたというか‥‥。
もともとは、いいかげんで、だらしなくて、
バカで‥‥まあバカは変わらないですけども(笑)。
もっと、ちゃんとだらしない人間だったはずなんです。
でも、デビューしてライブを重ねていくと、
そんな自分のことを応援してくれるファンがいた。
「こんなんじゃ俺ダメだな」、
「もうちょっと、ちゃんとしなきゃ。
真面目にやらなきゃ」と思えて。
この仕事は、ファンの期待に応えることこそが大事なんだ、
というふうにデビュー当時に思ったんですよね。
そこが「ちゃんとしていたい」の始まりだと思います。
糸井
カチャッと変わったんですね。
福山
信じ込んだ、というか。
そのスイッチが入ったまんまでずっとやってきた結果が、
今につながってるんだと思います。
「人が地位を作るのではない、地位が人を作るんだ」
なんて言葉もありますけど、
”福山雅治”というエンターテイナーの
役柄をファンに与えてもらったんでしょうね。
純粋に応援してくれる人や、
一生懸命になってくれるスタッフに対して、
ひたすらアンサーを出し続けていった
その結果なんじゃないかなと思うんですよね。
糸井
ああ、なんだか福山さんのお話って、
スポーツ選手の話に通じるところがありますね。
福山
この仕事でいろんな人に出会ったり、
いろんなオファーが来たり、
いろんな期待をされたりしているうちに、
だんだん自分は何が好きなのか、趣味嗜好が
ある時期からどんどんわからなくなってきましたが(笑)。
もともとは、自分の視野も
もっとせまくて明確だったと思うんです。
でも、いろいろやっていくうちに、
”Don't think, Feel!”じゃないですけど、
やってみたらこれが好きだった、
やってみたらこれがハマった、
という自我を越えた何かが出るんじゃないかなと、
ある時期から自分を手放してしまったんです。
糸井
おもしろがって見ている自分が
もうひとりいるんですね。
見ている自分と、やっている自分がいて。
福山
糸井さんはかつて、矢沢永吉さんと
お仕事をされていましたが‥‥。
糸井
永ちゃんもそういうタイプですよね。
福山
矢沢さんの名言、矢沢レジェンドトークって
たくさんあると思うんですけど、
僕がデビュー当時に周りのスタッフから聞いたのは、
「矢沢さんが仕事のオファー断る時には、
こんなふうに断るらしいよ。
『うん、俺はいいけど‥‥』」
糸井
「『YAZAWAはどうかな?』」
福山
そう、そうです。
その時は「嘘でしょ?」なんて
笑い話にしていましたけれど、
今では、すごくよくわかります。
糸井
やっぱり、トップクラスの人間というのは、
自分ひとりで作ったものじゃないからでしょうね。
イチローさんもそうですよね。
もうひとり見ている自分がいるっていう。
「イチローはどうかな?」というのを
絶対にやっていると思います。
福山
ある時期から自分が出演しているものが
照れくさくなくなっていったんですね。
デビューして数年間は
自分の出たテレビを見るのも嫌だったし、
CMやポスターを見るのも恥ずかしかった。
でも、ある時期から恥ずかしさよりも、
ダメ出しをしたり、反省するようになって。
照れがなくなり、恥ずかしさがなくなり、
気がつけば、出る自分と観る自分が
ふたつに分裂してたという。
糸井
やっぱり、劇団福山雅治だ。
福山
主演・脚本・監督その他。
やっぱり劇団なんですかねえ(笑)。
糸井
大根さんは、福山さんという人間の説明を
ちょっとやってくれたのかもしれないですね。
福山
そうですね。
糸井
いやあ、今日はありがとうございました。
福山
ありがとうございました。
(おしまい)
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2016-10-04-TUE
撮影:加藤純平