HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
映画『SCOOP!』公開記念
望まれた役をする”劇団福山雅治”
福山雅治 × 糸井重里
福山
引き続き、糸井さんに質問していいですか。
糸井
はい、どうぞ。
福山
自分のことばかりでスミマセン、
もし糸井さんが福山雅治をプロデュース、
もしくはマネジメントするとしたら、
今後、福山にやらせてみたい
新たな仕事はありますか。
糸井
うーん‥‥。仕事の種類としては、
ちょっともう、考える必要がないと思うんです。
福山
そうですか。
糸井
福山さんは、なんでもできる人ですから。
ぼく、ある時にふっと思ったのが、
ジョン・レノンという人は音楽家ですけど、
たとえ音楽家じゃなくても、
なにかしていただろうなって思うんですよ。
たぶん福山さんも、
他のことでも何かしていたんじゃないかな。
福山
そうですか(笑)。
糸井
あえて言うとしたら、
一番やりにくいだろうなと思うのが、
仕事をやめさせることですね。
「仕事やめてごらん」という課題を出した時に、
福山さんがどうするかっていうのは興味があります。
福山
そうですか。
糸井
福山さんにとっては、仕事のおかげで、
LIFEが成り立っている気がするんです。
仮に、ぜんぶを自分で決めて、
頼まれた仕事をしたければすればいいし、
何もしないで1年間を過ごしてみなさい、
という期間を与えられるとしたら、
ちょっとやってみたいです。
福山
音楽活動や映画、ドラマをやらずに、
ラジオだけをやっていた期間はあるんですけど、
それでも、ラジオだけは続けていましたからねぇ。
何も活動していない時期はないですね。
糸井
そのおかげで、みんなの作る
”劇団福山雅治”になっている素晴らしさはあるけれど、
「寂しくなってみな」というのは、
やれるんだとしたら、おもしろいです。
社会としてはやらせっこないんだけど、
お金には換えられない何かが、
「休む」ということの中にはある気がするんですよね。
福山
この仕事というのは、徐々にオファーが来なくなって、
そのうち仕事がなくなっていくのかなと、
なんとなく思っていたんですよ。
糸井
それは絶対にないです。
福山
ないんですか。
糸井
いまより仕事が減ったとしても、
「いらなかったら拾って使うよ」というところまで、
きっと、仕事はあるんだと思います。
ちゃんと捨ててもらえるんだったら
生き直せるけど、なかなかそうはいかなくて。
福山
骨の髄まで、全部使われて(笑)。
糸井
そうそう。
最後はミイラにしてでも商品になりますから。
だから、自分でやめない限りは
仕事はなくならないと思いますね。
福山
糸井さんは、
「この1年は休もう」っていう
期間はあったんですか。
糸井
本当に何もやらなかったら干上がっちゃうんですけど、
40代の半ばには、わざと休む時期もありましたよ。
「ほぼ日」をはじめるきっかけは、
その時期に休んだことなんです。
福山
自分の意思のみで止まってみたんですか。
糸井
そうですね、やり直すような感じで。
当時の自分の延長線上にあったことが、
ぼくのやりたいことではなかったんです。
だとしたら、今までのぼくの価値がゼロになっても、
なにか、1からできないかなと思って。
福山
その期間は1年ぐらいですか。
糸井
1年ぐらいで、その期間は釣りばっかりしていました。
それが本当によかったんですよね。
釣りに行く時には、
運転も、道具の用意もぜんぶ自己責任。
学生たちと張り切ってトーナメントの受付をして、
120人ぐらいのコンテストで80番ぐらいになって、
「うーん悔しい!」っていうのをやっていたんです。
それは、買ってでもできない経験でした。
福山
糸井さんは、誰かに「こうしなさい」って言われて
素直にやるようなタイプの
人でもないような気がするので(笑)
ご自身の中で決断されたことだと思うんですけども。
糸井
そうですね。
ただ、いろんなことが交差してそうなった、
運みたいなものかもしれません。
ぷっつりと1回切るというのは、
すごくおもしろいことです。
福山
糸井さんが休まれた時期というのは、
自分が、なりたい自分になっていなくて、
この先も、なりたい自分になりそうにないなと
思っていたということですか。
糸井
そうですね、望んでいない自分になっていく感じ。
福山さんのお知り合いのリリー・フランキーさんは、
どこで生きていっても生きられる人だろうけど、
サイコロ振ったら出ちゃった目の「役者」が、
今はもう本拠地ですよね。
福山
日本の俳優さんの中で、いわゆる三大映画祭といわれる
カンヌ、ベルリン、ヴェネツィアに行った人って、
たぶん、近年ではリリーさんぐらいじゃないですかね。
糸井
すごいですよね。
リリーさんは、本当に才能があったのが、
役者の部分だったんだろうなあ。
福山
でも、ご本人は「現場行きたくない」って
あいかわらず言っていますけれども(笑)。
糸井
できるんだから、しょうがないですよね。
福山
(笑)
なりたい自分、といえば‥‥
今日、糸井さんがスタジオに入ってこられた時、
「わっ、人がたくさんいるね」とおっしゃっていて、
ぼくも糸井さんを迎える前に、
スタッフがいっぱいいることに対して、
ちょっとどうかなと思っていたんです。
スタッフにもよく話すことがあって、
デビューしてすぐの頃に、
テレビ局の廊下でお見かけした某大物芸能人が、
取り巻きをたくさん連れて歩いていました。
「俺がこの世界でうまくいって有名になったとしても、
ああいう人にはなりたくないな」と思っていたんです。
糸井
なるほど(笑)。
福山
有名なんだけど身軽そうに見える人のほうが、
カッコいいなと思っていたんです。
でも、気がつくと‥‥(まわりを見渡して)
なんか人がいっぱいいるな(笑)。
「気がつけばなりたくない形になっちゃってた、俺は」
というのは、半分冗談、半分本気でよく話しています。
糸井
福山さんと、ぼくのいる場所は違うけれど、
ひとりでどこへでも行けるという状態を、
どこまで残せるかはだいじだと思います。
上手な人は上手ですよね。
福山
そうですね。
いやあ、改めて自分で逆行しているなと思います。
東京に来た時は財布すら持っていなかったので、
当座の生活費20万円を靴下に入れて
寝台車に乗って出てきたんです。
糸井
ああ、いいですねえ。
福山
にもかかわらず今は、
トートバッグの中にポーチが4つ入っていますから。
糸井
(笑)
福山
「荷物増えたなぁ、俺も」
というのを感じる今日この頃です(笑)。
(つづきます)
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2016-10-03-MON
撮影:加藤純平